第6話 生き物を増やす
「俺らが使ってる水袋と携帯食だ」
「へーこれが・・・」
何かの皮で作られたナス型の水筒と、小さな長方形のクッキーを薄い紙で包んだようなもの。
円柱状の水筒に慣れた身としては、水袋というのは新鮮だ。
よくこれに水が溜めておけるな・・・。
それから携帯食だが、カロリーメイトの低品質版とでも言えばいいのか。
「一口かじってみろ。上手くはないぞ」
パクッ もぐ・・・もぐ・・・
(うっ・・・ま、まず・・・)
現代日本のカロリーメイトとは比べ物にならないくらい、まずい。砂糖とかバターとか入っていないのでは?ギュッと押し固めた小麦粉って感じ。粉っぽい。
「昨日ギガーを増やしてくれたのを見て、思いついたんだ。袋に水を入れた状態で増やせるんじゃないかって」
「ああ・・・確かにそうかもしれません」
ジョッキに入れたギガーを増やせたわけだし。
「じゃあ、やってみますね」
ぼん ぼん ぼん
パンパンに膨らんだ水袋がポコポコ増えていく。
「ああ、本当に・・・なんてありがてえ能力だ・・・」
補給部隊の馬車の中は、あっという間に水袋と携帯食の山で埋まった。
***
その日の夕方、補給部隊の隊員さんが狩ってきた鳥を増やしている時にふと思った。
(あれ?処理した肉を増やした方がラクなのでは・・・?)
早速、羽をむしって処理した鶏肉を増やしてみると、増やせた。
(あれれ?さらに言えば、)
焼かれて調理された後の鳥肉を手に取る。
ぽこっ
(そうじゃん・・・)
調理済みのものを増やした方が楽だと気づいた。そして死んだ鳥を増やしていると、ふと思う。
(無限増殖・・・生きたものも増やせるんだよな?)
いても立ってもいられなくて、早速ブールさんに相談して、試しに生きた馬を増やしてみることにした。
じっと茶色の馬を見る。
日本では小さい頃、旅行に行った時にポニーに乗馬したことしかない。馬は思った数倍でかく、力強い。さすが人間を乗せて走ったり、馬車を引いたりするだけのことはある。蹴られたら、一撃で死ぬ。
馬は(なんだこいつ)的なうろんな目で見返してくる。
(失敗したらすまん!)
ぽこん ヒヒーン
まったく同じ毛並み、同じ体格、そっくり同じ馬が横にいる。
(よしもう一度)
ぽこん ヒヒーン
まったく同じ馬が増えている。
三つ子の馬だ。
増えた馬をしばらく見ていたが、特に苦しむ様子もない。
三匹バラバラ、お互いを(なんだこいつ?)的な目で見つつも、同じ動作をするわけではない。
生きているものは、一度増えたら、命を得るのだろうか。どれが本物なのだろうか。
そして馬で出来たのだから、
(これ人間にやったらどうなるんだろう・・・)
こう思わずにいられない。
それこそ、敗退中の人類に必要なことかもしれない。
魔族は強い。そして魔族は魔素を取り込めば取り込むほど強くなれるそうだ。
人を殺して、動物を殺して、同族を殺して、その魔素を取り込んでいけば、どんどん強くなる。
身体能力が強化されたり、打てる魔法が強力になったり。まるでレベルアップしているみたいだ。
でも人間は沢山食べたからと言ってすぐ強くならない。鍛練したからと言ってすぐ強くならない。
圧倒的に戦える人数が減っていく。
本当に必要なのは戦える人間。
でも、増やされた誰かは、どう思うのだろうか。増やす前の本人が納得したとして、クローンは?
その晩は、もやもやと考えてなかなか寝付けなかった。