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第3話 騎士王に会う



ぜいぜい ハアハア

ぜいぜい ハアハア


今までこんなに走ったことないってくらい走った。


「マスダよお・・・お前体力ねえなあ。ま、でも最後まで付いてきたんだ、根性あるぜ」


ロズさんの呆れた声がふりかかる。


いや体育の成績とか3だから。

可もなく不可もなくの3だから。

しかも社会人になってから、ろくに運動してない。


息をほとんど切らしてないロズさん何者だよ。


「ようこそ俺たちの王国へ。歓迎するぜ」


ロズさんがニッと歯を見せて笑った。

目の前に広がるのは、テント村だ。

テント、テント、テント。

あと人、人、人。


生きて動いている人がいる。

それだけで俺は感動してしまった。


「まずは団長に挨拶してからだ」

「分かりました」


額の汗をシャツの袖で拭う。

全身熱い。

汗まみれだ。

シャワーに入りたい。


(でもそんなこと言ってられないよな)


日本にいた時の体のままだった。

服は青の半袖シャツに黒のスラックス。ベルト、革靴といつもの出勤姿。

カバンとスマホは無かった。


スーツに革靴で舗装されていない道を走ってきたのだ。

スラックスの裾は遠慮なく捲り上げて。

革靴は泥まみれ。

走りにくいったらありゃしない。


慣れたように人混みを歩いていくロズさんを見失わないように、必死についていく。


ざわざわ ざわざわ


気のせいでなければジロジロ見られている・・・と思う。

今まで影薄き青年だったから、良くも悪くもこんなに見られたことがなく居心地が悪い。


それにしても周りを見るに、西洋風の顔立ちの人ばかりだ。黒い髪の人が見当たらない。


それと、動物の顔をした人たちもいる。被り物かと思って二度見したが、耳が動いていた。ロズさんみたいに背の低い人もたまに見る。


兵士っぽい人と普通の人。

老若男女、格好も様々で、映画の世界に迷い込んだかのような気持ちになってくる。


そうこう歩いているうちに、ひときわ大きなテントに着いた。


「3の第2隊長のロズだ。黒髪黒目の青年を保護したので、団長に見せたいんだが」

「すぐに確認する」


入り口で兵士にロズさんがそう言うと、その兵士はテントの中に入っていった。


「ロズ隊長。入っていいぞ」

「おう」


テントの入り口には、左右に2人、槍を構えて立っている。


(あんなんで刺し貫かれた一溜まりもないよな・・・ブルブル)


少しビクビクしながらテントの入り口をくぐった。





***





「3の第2隊長のロズです。焼け落ちた村で、黒髪黒目の青年を保護しました」


ロズさんは目の前のおっさんたちにピシッと敬礼した後、ハキハキと報告した。


テントの中は意外と広く、大きな長方形のテーブルが中央に置かれ、それを囲むように8人が座っている。


全員軍人らしく、ガタイが良くて目つきも鋭い。8人分の視線が突き刺さるようだ。


俺はロズさんの後ろで所在なさげに俯くことしかできない。


すると、一番上座に座っていたおっさんが立ち上がって俺の前にやってきた。


「私はレイモン・スクラムという。君の名は?」

「マ、マスダリョウヘイです!」

「・・・マスダリョーヘイ・・・なんと呼べばいいだろうか?」

「ええと、マスダで・・・」

「マスダ。よろしく」


笑顔で握手を求められたので、恐る恐る手を添えると、ぐっぐっと力強く握られた。


俺よりも手が大きい。

それにゴツゴツしている。


「端的に言おう。私は昨日、不思議な夢を見た」

「はあ、」

「俺は何もない白い空間に立っていた。すると突然光輝く美しい女神が現れ、」


『今日の日が最も高く昇る時、黒髪黒目の男を遣わす。彼には物を増やす能力を与えた。

あとはお前次第だ、最後の騎士王よ』


・・・と仰られた」


「えっ」


なんか俺のいた状況と似てないか。

っていうかあの人、眩しくてよく見えなかったけど、女神様だったのか。


「正直、全て信じたわけではなかった・・・が、全くの嘘だとも言い切れず・・・。それで、本日発見する黒髪黒目の男は全て保護するようにと命じていた」


女神様ありがとう・・・!

あなたがきちんと特徴を伝えてくれたおかげで、俺はちゃんと保護されましたよ・・・!


俺は心の中で女神様に拍手を送った。

それから半信半疑でも行動してくれたレイモンさんにも。


(そうか。だからこんな偉い人に直接会えたのか。じゃなかったら多分、難民として保護されて終わりだもんな)


「マスダ殿は、女神より遣わされし使者なのだろうか?」

「・・・ええと、はい。多分・・・」


まっすぐ見つめてくるレイモンさん。

彫りが深く、まつげも長いし、目力が強い。

綺麗な茶の瞳を直視できず俯く。


俺には「そうだ!俺こそが女神より遣わされし使者だ!!!」と自信満々に答える強さはない。


「では、何か一つ物を増やしてもらえないだろうか?・・・例えば、この剣」


レイモンさんが、身につけていた剣をベルトから抜いて、柄を掴んで鞘から出す。スッと現れた刀身は、テントの中なのにはっきりと青白く光っている。


周りがざわついた。


丁寧に装飾された片手剣だ。

柄に青と赤と緑の大きな宝石が3つ埋め込まれていて、よくファンタジーに出てきそうな感じ。


抜かれた剣がテーブルの上に置かれる。


「うわあ・・・」


思わず声が漏れる。

武器を、剣を、こんな近くで見たのは初めてだ。


本当に青白く光っている。

思わずゆっくりと手を伸ばすと、手首を掴まれた。


「マスダ殿。この剣はよく切れる。下手に触らない方がいい」

「あっ・・・すいません」


いやでも、どうやって増やしたらいいのだろうか。


(とりあえず念じてみよう)


なんとなく剣に両手をかざして、目を閉じる。


(ムムム・・・増えろ〜・・・!)


「「「「おおっ!!」」」」


驚きの声が上がったので、パッと目を開けると、剣が二つに増えていた。


全く同じ剣が、机の上にトン、トンと二つ置いてある。まるで最初からあったかのように。


「聖剣が増えた!?」

「お告げは本当だったのか!」

「まさかこのようなことが・・・」


(えっ!?聖剣なんですかこれ!?)


初対面にそんな大事なもん見せて大丈夫か。

万が一失敗して無くなったりしてたら、どうするつもりだったんだ。


「貴方は本物だ!本当に、本当に女神より遣わされし使者なのだな・・・!」


レイモンさんにガッと両手を掴まれて、ギュッと握られる。


「イタタタ、痛い痛い」

「おお、すまない」


レイモンさん力強すぎ・・・。

握りつぶされるかと思った。


レイモンさんの目が輝いている。

先ほどまで無遠慮に見てきた周り7人も、キラキラした目で見てくる。


(なんだこの手の平返し・・・)





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