第2話 焼かれた村
「・・・はっ!?」
目を覚ますと、地面に仰向けに寝ていた。
どんよりした灰色っぽい青空が広がっている。
一番に思ったのは、焦げくさい。
スンスン
普段嗅いだことなに焦げくささだ。
起き上がって周りを見渡すと、何かの残骸が目に入った。
そこら中、残骸だらけだ。
その残骸は黒く焦げて、燃えた後みたい。
うっすらと煙が出ている。
多分、家だったであろう残骸。
解体現場みたいに打ち壊されている。
そしてそこに人間が突き刺さっている。
人間が突き刺さっている?
目の前の映像としては認識できる。
でも、脳がそれを処理して飲み込めない。
よく見れば、そこら中に何かが転がっている。
人間だ。
バラバラになっていたり、グチャグチャになっていたり。でもみんな死んでいる。
なんだここは?
ここはどこなんだ?
なんで人が死んでるんだ?
先ほどの誰かとの会話は、俺の頭の中からぶっ飛んでいた。正直、人の死体を見るのなんて、じいちゃんの葬式以来初めてだ。
それが、こんなにも死が転がっている。
こんなことあっていいのか。
アニメやゲームでは見慣れていた風景のはずだった。アクションSF映画でも見慣れていたはずだった。あれは所詮風景でしかなかったのだ。
目に見えるもの、匂い、音、雰囲気。
俺の五感にブワッと迫ってくる。
「だっ、誰かあ〜〜〜!!」
「誰かいませんかあ〜〜〜!?!?」
俺は情けない声で叫んでいた。
意味もなく誰かを呼んでいた。
この時のことは、よく覚えていない。
***
それからどれくらい叫んでいただろう?
「おい!おい!坊主!生きてるか!?」
頰をパンパン叩かれて、目を開ける。
目の前には必死な顔をしたおっさんがいた。
「大丈夫か!?」
「えっ、あっ、はい!大丈夫です!」
大丈夫なわけない。
テンパっていたので、普通に大丈夫ですと答えてしまった。多分自分が何言っているかも分かっていない。
「怪我は?」
「怪我は・・・ないです」
おっさんは、ぎゅっと眉を寄せて言った。
「結界石は取られちまった。もうすぐここも霧に覆われる。坊主はこの村のもんか?」
「え、っと、僕は・・・」
まさか違う世界から来ました、とも言えずモゴモゴと口ごもっていると、
「早く逃げるぞ。行くあてが無いなら、俺らのキャンプに来い」
俺をまっすぐ見下ろしてそう言ってくれた。
髭もじゃのおっさんだけど、青い目が綺麗だと思った。
まっすぐで力強い目だ。
この人は生きていると思った。
「俺はロズだ」
「マスダリョウヘイです」
ロズさんの差し出された手をぎゅっと握ると、ぐいっと引っ張ってくれる。
とても力強い。
「マスダリョーヘイ?長い名前だな」
「マスダが苗字で、リョウヘイが名前です」
「・・・なんて呼べばいいんだ?」
「えっと、じゃあ、マスダで」
「わかった。マスダな」
立ってみると、ロズさんは意外と背が低かった。
俺の胸あたりまでしかない。
体つきは俺の2倍がっしりしているが。
「キャンプまで走るぞ!」
「はい!」
ロズさんが怪しいとか、1ミリも考えられなかった。ロズさんだけが地獄に垂らされた蜘蛛の糸だと思った。
死から逃れるように、ロズさんを追って必死に走り出した。