第1話 マスダ、無限増殖能力を授かる。
俺は増田亮平。
派遣社員、34歳独身男性、彼女なし。
新卒で入ったブラック企業を辞めてからはずっと派遣だ。
何かやりたいことがあるわけでもなく、打ち込める趣味があるわけでもなく、なんとなく日々生きている。
「終点〜、終点〜、お出口は左側です」
スマホを見れば、現在時刻21:38。
大雨のため帰りの電車に遅延が発生して、やっとアパートの最寄駅に到着したところだ。
駅の外は暗く、ざあざあと雨が降っている。
カバンから湿った折りたたみ傘を取り出し、雨の夜道をトボトボと歩く。
(後何年、生きるんだろう、俺・・・)
ネガティブなことが頭に浮かんでは消えていく。
死にたいとも思わないが、生きたいとも思えない。楽に死ねる方法があったらなあ、なんてことも考える。
そんなことばかりつらつらと考えながら、アパート前最後の信号に辿り着いた。
(とりあえず、飯食って寝たい・・・疲れた)
歩行者信号が確かに青になったから、さっさと渡ろうと思った。
人生の意味とか考えるのは一旦置いといて、早く帰りたかった。
キキィーーッ!!! ドンッッ!!!
耳の痛くなるような急ブレーキ音がした・・・ような気がした。
からだ全体にものすごい衝撃を感じた後、俺の意識はぷっつりと途切れた。
***
「・・・はっ!?」
目を覚ますと、真っ白い空間に仰向けに寝ている。
壁も床も天井も真っ白だ。
白すぎて光っているように見える。
(なんだ!?なんだ!?何が起こったんだ!?)
立ち上がり、キョロキョロと周りを見回していると、
「マスダリョウヘイ。あなたは死にました」
男か女かわからない声が頭にはっきりと響いた。
いつの間にか目の前に人が立っている。
そちらを見ようとして、眩しさにうわっと目を腕で覆った。
相手の顔はよく見えない。
なんとか目を眇めて見ようとするが、スポットライトをこちらに浴びせているように眩しい。強烈だ。
「あなたを我らの世界に送る前に、ひとつ能力を授けましょう」
「ええっ?いきなりなんですか?ていうか、ここはどこなんですか!?」
「・・・先ほど伝えました。あなたは向こうの世界で死にました」
「えっ、なんで、なんでですか!?」
「そのようなことはどうでもよろしい」
ピシャリと言われてウッと言葉に詰まる。
知りたいことは山ほどあるのに。
「あなたを我らの世界に送ります。その際、あなたにひとつだけ能力を授けます」
「は、はあ・・・」
「無限増殖という能力です」
「は?むげんぞうしょく?」
「そうです。全てのものを好きなだけ増やすことができます。材料もいらず、代償もいりません」
「え?え?どういうこと?それが何の役に立つんだ?」
「後は騎士王に託してあります。では、お行きなさい」
「へっ!?」
いきなり床が抜けた。
下へ下へと落ちていく。
「うわあ〜〜〜っっ!?!?」
今思い出したけど、めっちゃ高い身体能力とか、すごい魔法が使えるとか、そういうのはないんですか〜〜〜っ!?!?