表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/51

8

 明くる日、私は神官のおっさんと別の草原で対峙していた。


 「それでは、今日から本格的な修行に入る。準備はいいな?」


 「ああ、大丈夫だよ」


 私はあの後、エミリアと馬鹿みたいな話をし、気持ちを切り替え、今日に備えた。大丈夫なはずだ。とはいえ気が乗らないのもまた事実だった。自分の過去と向き合うのは、やはり好みじゃない。でも……やるしかない、と腹を括り神官のおっさんの前に立つ。


 「よし、それでは基本からいこう。お主は闇の性質は知っているか?」


 「闇の性質?」


 私は生まれてこの方まともに勉強をしてきた期間がほとんどない。無理やり勉強させられた時期もあったが、その中でも闇の性質なんて教わった覚えもない。


 「ごめん、全然分かんない」


 「ふむ。まあ、正直でいいだろう。それではブラックホールは知っているな?」


 「まあ、名前と何となくは」


 「ブラックホールが闇の最上級だと思えば分かりやすいかもしれん。語弊を恐れずに言えばブラックホールは観測ができん。それは光さえもその内側に引き付けているからだ。わしらが視覚で物を認識しているのは、物体が光を発し、それを網膜が捉えているためだ。その光をも引き付ける引力、それが闇の性質だ」


 「つまり、何かを引き付ける力があるってこと?」


 「有り体に言えばそうなる。この力は上手く使えば、周囲の重力をも操ることができる。物を引き付ける方向を地面の中にすれば、物体はその方向に向かって引き付けられる訳だからな」


 「ちょっと待って、その時私はどうなるの?私まで地面の中に引きずり込まれちゃうんじゃない?」


 「その心配はいらん。術者はその力をコントロールできる。それは力の及ぶ範囲においても可能だ。つまり自分を引力の適用外にすれば影響を受けん」


 「じゃあ、コントロールをミスったりしたら……」


 「その時は、自分も地面の中に引きずり込まれていくだろうな」


 「ふーん……ぞっとしない話ね」


 「また、闇の利用は重力のコントロールだけではない。自分の手に闇を集中させ、何かを殴るとする。すると、闇がその何かを引き付ける力プラス自分の殴る力を合わせた力で攻撃ができる。蹴りも同様だ。お主は見たところ女の割に格闘には心得がありそうだから、有効に使えばかなりの戦力になるだろう」


 格闘……経験あんのはただの喧嘩だけどね……と心の中でツッコミつつも、自分が強くなるという事実に少しわくわくする。


 「後は周囲を暗闇で覆い、敵の視界を奪ったり、夜であれば自分の姿を闇で覆い、敵から見えなくすることもできる」


 「目くらましにも有効ってことか」


 「と、ここまでが闇魔法の基本だ。しばらくはこの基本を徹底して訓練していく。さっきお主が自分で言ったようにコントロールを失敗し、自分まで闇に巻き込まれないようにするためだ」


 「何となく分かったよ。でも、基本てことは応用もあんの?」


 「それはまだ先になるだろうが、一応説明だけはしておく。闇を操るものが引き付けることができるのは物理的な物体や光の粒子だけではない」


 「というと?」


 「操り方によっては生物が発する生命エネルギーを引き付けることもできる。「気」という概念がお主らの世界にはあるだろう。そういった目に見えないものまで敵から奪うことができるようになる」


 その説明を聞いた瞬間、私は昨日見た荒れ果てた荒野を思い出した。


 「じゃあ、昨日の草原が枯れ果てたのって……」


 「そう、お主の力を引き出したときに、その力があまりに強く、周囲に影響を及ぼしてしまったのだ。わしも危うく死にかけた」


 死にかけたって……さらっと言うなー。でもおっさんがあれ程無口だったのはそういうことがあったからか……私は改めて自分の力の強大さに恐れを感じた。


 「分かった。とりあえず基本から修行して、コントロールできるようになってみるわ」


 「よし。では、まず自分の手に闇を集中してみろ。闇の発生のさせ方は……」


 「あー、何となくわかるよ。自分のやなことを念じて、それを転換させる感じでしょ?昨日一人でやってみたよ」


 「まあ、それでも構わんが、それでは闇の発生がワンテンポ遅くなる。言葉を介するようにしたほうが良い」


 「言葉?」


 「そうだ。人間には反射というものがある。ベルを鳴らしてから餌を与えられ続けた犬が、ベルの音を聞いただけでよだれを垂らしてしまうように、言葉を発しただけで闇が操れるように訓練しなければ、実戦では使えない。例えば「フィスト」と言っただけで拳に闇が集中できるようにならなければいけないのだ」


 「言葉を言っただけで、反射的に闇を出す……ってことか。確かに速いんだろーけど、技名を言うのは何か中二っぽいね」


 「中二が何のことかよく分からんが、実戦では速度が求められる。お主も死にたくはないだろう」


 「まーね。とりあえずやってみますか」


 それから、私の闇を扱う訓練が始まった。最初は、小石を引き付けるのにも苦労したけど、日が経つにつれ、徐々に上達していった。もともと好戦的な性格が幸いしたのだろう。自分で言うのもなんだが、かなりの速さで成長していると思う。そして、一か月が経つ頃には、幾つかの技を自在に操ることができるようになっていた。


 まずは拳に闇を集中させ、物をぶん殴る「フィスト」、同じく蹴り飛ばす「シュート」。周囲の重力を操る「グラヴィティ」。周囲を闇で覆う「ドーム」、自分の姿を隠す「シャドウ」と、説明にあった基本は全て身に着けることができた。


 そんなある日……私はいつものように神官のおっさんに呼ばれ、すっかり修行場となった草原に来た。


 「さて、今日は何をすんの?また基礎錬から?」


 最早見慣れた風景となった神官のおっさんとの修行だが、この日は様子が違った。おっさんは意外なことを口にしたのだ。


 「今日は、修行は休みだ」


 「ん?じゃあ、何で私を呼んだのさ」


 「今日は、王女に会ってもらう」

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ