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セシリアはひとしきり私の胸で泣き続けると、さっと元の顔に戻った。私のことを上目遣いで見上げ、「きっ」とした表情をしている。その表情を見て、私はさらにぎゅっとセシリアを抱きしめる。
「ちょっ……やめ……」
予想外の行動だったのか、軽く抵抗するセシリア。しかし私は緩めない。だって私が見たいのは、まだこの先なのだ。
「ねえ、すっきりした?自分を覆っていたものを全て取り払って、ただのセシリアになってさ。もういいんだよ。あなたはただの人。王女でも女王でも、光の神の化身でもない、ただの人。だから、安心して。楽になっていいんだよ」
私の胸の中で、セシリアは応える。
「……でも、うちにはやることがあるの。ただの人に何かなってられな……きゃっ」
私は更に更に、強く抱きしめる。セシリアを呪縛から解放させたい。その一心だった。多分だけど、この先にあるものは……
私はそれが見たかった。
「ねえ、セシリア。これから私が話すこと、何も言わずに黙って聞いてくれる?」
セシリアは小さく頷く。
私はセシリアを胸から話、一緒にしゃがんで話をすることにした。
「セシリアさあ。生まれてからずっと周りの人に期待されて育ってきたでしょ。そして、幸せな思い出もいっぱいできた。だから光の魔法が溢れるほど使えるんだと思う。だけど……それでセシリア自身、本当に幸せだった?」
「……」
セシリアは無言のまま答えない。
「幸せな思いがいつしか重圧に代わって、誰かのために何かしなきゃって思うようにならなかった?」
「……」
「それで自分を守るように、裏ではまるで昔の私みたいな……ヤンキーみたいな自分を作って自分自身を守ってきた。その狭間で、本当のセシリアはどこかに行ってしまったんじゃない?誰かのためにが優先になって、それが上手くいかないときや何だか不安なとき、他にもどうしようもないときとかさ、そんな時に裏の自分を出して身を守っていた。だけど、自分が何をやりたいか何て一言も口にせず、ただ、誰かのために……」
そこまで話すと、セシリアはすすり泣きを始めた。私は続ける。
「セシリア……あんた本当は……」
私は一度口ごもってから、振り切るように続ける。
「……闇を……抱えてるでしょ」
その言葉を聞くとセシリアは、しゃがんだまま顔を膝にうずめた。
そしてしばらくして、セシリアは顔を上げ、やっと喋りだした。
「……よく、分かったね……私が、光と闇、両方を持っていることを……」
「ま、一応影武者だからね。それに……似てたんだ。あんたと私。私も一時期自分を殺して誰かのためにってやってたことあったからさ」
「そんなことで……誰にも見抜かれなかったのに……」
「でも、そうなんでしょ?悟られまいとして、普段から自分に後光を差して。いかにも光の王女様ですって感じの演技をして。……大変だったでしょ」
「……うちはもうこうやって生きていくしかないんだと思った。そう決めてた。だけど……そこにあんたが現れた」
「ま。強制的みたいなもんだったけどね」
「今までにも影武者はいたんだ。でも、どの子もみんな私の二面性に気が付くといなくなってしまったし、その前に戦いで亡くなってしまった子もいた。でもあんたは生き残り、こうして本当の私と話をしている。……ほんと、影武者中の影武者だよ。あんたは」
「ね、ちょっとだけ闇魔法使ってみてよ。誰にも言わないからさ」
私の頓狂な願いも、セシリアは素直に聞いてくれた。
セシリアが両手を近づけて集中すると、そこに闇が生まれた。私と同じ。それを見て二人で笑いあった。二人で笑いあえた。セシリアはきっと今までにない笑顔だっただろう。そしてもしかして……私も。
それから、私は魔法を解き、セシリアと一緒に城に帰った。そして、これからのことを話した。そこで私はセシリアにアドバイスをした。といってもセシリアはもう分かっていたけどね。もう、無理に光の神の使いの振りをするのはやめよう。そこで、どんなことを言われても大丈夫。セシリアには私がいる。そして私にはセシリアがいる。二人で乗り越えて行こう。そんな話をした。
てんぱったのは属国となったコリニアの国王以下お歴々の方々だった。光の神の使いである女王セシリアが実はただの人間だったと言い出したのだ。これには喧々諤々かなりの騒動となった。危うく内紛になりかけたが、コリニア国王の一言で場が収まった。
「どの道、我々には光の力はない。ならば、人間であろうと髪の使いであろうと、光の力を持つ者がこの国を統治すべきだ」
この言葉に反論できるものはおらず、何とか内紛は食い止められた。このおっさん意外にできる奴かもしれない。翌日正式に国民に公示されたが、国王の言もあり目立った混乱はなかった。やはりこの国は国家が持つ力が弱いのが幸いした。
そしてひと段落して、いよいよ私の話になった。王女もとい女王セシリアを狙うものはもういない。いないこともないかもしれないが、今までと同じ頻度ではないだろう。そこで影武者が必要かどうかの議論になった。勿論不必要論が圧倒的だったが、そこは女王セシリアの一言で決まった。
「これからも柏木ルカには私の影武者として働いてもらいます。いや、影武者としてというより私の代行と言ってもいいかもしれません。私がまつりごとができないとき、例えば遠征するときなどはルカに為政を任せます。そのために今まで教育を施してきました。これからも私の影となってもらいます」
女王の命に逆らう者もおらず、私は影武者兼女王代行という地位を得ることになった。もともと偉くなるような立場じゃないけど……まあ、いっか。セシリアと一緒だしね。
こうして、私が異世界に来て、王女の影武者となってからようやく平穏な日々が訪れることになった。勿論、私の側近にミレニアを呼ぶのも忘れてないよ。この平和が長く続けばと、とりあえず光の神様、いや闇の神様でもいいや、お祈りしとこうか!
これで本編は完結です。後はエピローグを書いてこの物語は終了となります。最後の最後までお付き合いいただけると幸いです。




