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「覚醒?」
私はまた阿呆みたいにオウム返ししてしまう。
「そうだ。お主ら地球人は心を外部に向けて開放することができん。心というのは脳内のシナプスが発する電流が基礎となって、記憶を構成し、その記憶が自分の意識を形作っているわけだが、それをエネルギーに転換して外部に放出してやると、親和性を持つ物質を操ることができる。自分の心がどの物質と親和性を持つかはその者次第だ」
「何だかよく分かんねーけど、心を開けってこと?」
「その言葉は正確ではない。心のエネルギーを外部に向けて放出するすることが必要なのだ。ただ、地球人は元来それができない。だから、物質同士を組み合わせた科学文明が発達したとも言えるが。」
「じゃあ、私には無理じゃん。時間の無駄じゃね?」
「そうもいかん。王女は常に危険にさらされている。いざというときに王女を守れる力を持たなければならない」
「そんなん私の拳で……」
「物理的な攻撃が利かない敵もいるし、そもそも女子の力はたかが知れている。拳一つで王女を守ろうというのは無理な話だ」
「じゃあどうするっつーのさ!」
話が皆目見えてこないので、ついつい声を荒げてしまう。しかし神官は落ち着き払って言葉を続ける。
「そこで、地球人であるお前にも我々と同じように魔法が使えるようにしてやる。それが覚醒だ」
「何だよ、魔法が使える方法があるなら先に言えよ。まったくまどろっこしい」
「しかし、覚醒にはかなりの痛みを伴う。それに耐えられるかが勝負になるが自信はあるか?」
「痛み?こちとら色んな修羅場を潜り抜けてきてんだよ。今更多少のことでビビったりしねーって。やってくれよ」
「よかろう。ではこちらに着てわしに背を向けて座れ」
とりあえず言われたとおりにしてみる。痛みつってもまー大したことないだろうな。と思っていた。しかし、その思いは次の瞬間打ち砕かれることになる。
「始めるぞ。ふんっ!」
神官が私の頭を包み込むように手を翳して、気合を入れた瞬間、私が今まで経験したことのない激痛が頭を中心に全身に広がる。何だこれ!冗談じゃねーぞ!これじゃリンチされてぼこぼこにされてる時の方がましだよ!
「いててて!いてーって!」
「我慢しろ!もうすぐだ!」
神官の声も段々と遠くなる。気を失いそうだ。いや、死んじゃうのかな、私。詰まんねー人生だったな……
そんなことを考えてもう色々諦めて楽になってしまおうとした時、
「終わったぞ」
その言葉を最後に、痛みはおさまった。あーマジで死ぬかと思った。つーか死にかけた。はあ……しかし、これで何が変わったのだろう。私は自分の両手を初め、体をくまなく見てみる。特に変わった様子はない。
「とりあえず見た目は変わってないように見えるけど?何が変わったの?」
「見た目の変化はない。しかし、これでお前も私達と同じように、脳内のエネルギーを魔法として放出することができるようになった。しかし、それにも修行が必要だからな。今度はお主がどんな魔法が得意かを見極め、それを操る訓練に入る」
「うえー、こんな痛い思いしてまだ訓練とかあんのか……はぁいつまで続くんだろ」
「今更弱音を吐くでない。魔法を習得すればお前自身の戦闘力も上がる。見たところかなり負けず嫌いであろう?こといさかいごとに関しては。いわゆる喧嘩に強くなるのはお主も願ったり叶ったりだろうが」
「……まあそれもそうか。分かった。やるよ、その訓練てやつもさ」
「よし、では場所を変えるぞ」