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私の出した答えは……
「セシリア、私はあんたを裏切らない。あんたがどんな人間であっても、絶対守り抜く」
「……ふーん、うちがこんなんでも幻滅しねーの?」
「だって……これで私が離れて行ったら、またセシリアは一人に逆戻りでしょ?そんなの寂しすぎるよ」
「同情されんのは好きじゃないんだけど?」
「同情じゃない!……私も分かるんだ。本当の自分を出したら皆離れて行ってしまうんじゃないか。そのことの辛さや怖さが。私も昔、そうだったから」
「……あんた、本当はお人よしなんじゃない?」
「そうかもね。だけど、嘘は言ってないよ。信じて貰っていい」
「……分かった。信用するよ。あんたの前ではもう本音出していくわ。でも、他の人の前ではわたくしはいつも通り振舞いますからね?ルカさん」
口調が変わったと同時に、外から護衛の兵士が馬車の中に入ってくる。
「王女様!大丈夫ですか!」
「ええ、何ともございません。ただし賊の一人は誤って亡くなってしまいました。不可抗力とは言え、可哀そうなことをしてしまいました」
「いや、王女様が気に病む必要はありません。それにしてもこの賊は一体……」
「理由は分かりませんが、これからもこのような賊が襲ってくるとも限りません。気を引き締めて護衛に当たって下さい」
「はっ!」
そう言うと、護衛の兵士は男の屍を馬車から引きずり下ろし、布にくるんで荷台に乗せた。私は何も言わずにそれを見ていた。いや、別のことを考えていたと言った方がいいだろう。王女としての振舞い。王女としての生き方。皆が期待している王女の姿。それを演じているセシリア。後から後から思いが溢れてくる。この感情はなんなんだろう。自分の中で何かもやもやしたものがずっと晴れないでいた。
それから先は、危険があるかもしれないとして、馬車に護衛の兵士が一人同席することになった。私としても今のところ2人だけだと気まずい面もあったので、それは助かった。しかし、セシリアはどんな気持ちでいるのか分からない。ただ、兵士との会話では完璧にいつもの王女を演じていた。それを見て、私はまたもやもやする。何か……心の中に引っかかるものがある。それが何か、まだ分からない。
そうこうしている内に、今度は襲われることなく城に着いた。城に着くなり、大層な歓迎を受けた。道中であんな危険な目に合わせておいて、外面は取り繕うってか。まあ、それが偉い人っつーか、大人のやることなんだろうけど。それからまず、コリニアの国王に謁見が許された。私とセシリアとで並んで拝謁する。
すると国王も驚嘆していた。
「これは……言われなければ、どちらがどちらか分からぬ程、よく似ておりますな。いつもそうして2人で行動されておるのかな?」
「はい。いつでも、わたくしたちは一緒に行動しております。楽しいときも。辛いときも。危険な時も」
「影武者殿、道中賊に狙われたそうで、本当に申し訳なかった。国を代表して謝罪させていただく」
「いえ……王女も無事でしたし、こちらに怪我人が出たわけでもありませんので……お気になさらないでください」
私は精いっぱいの丁重な言葉使いで返す。皮肉の一つでも言ってやりたいが、首謀者は大臣だっていうからな。国王は見た目そんなに悪そうな人じゃないし、あまり責めるのも気が引ける。ここは無難にやり過ごそう。と思った矢先、賊の首謀者と思しき大臣らしき人物が現れた。
見た目は恰幅のいい、つるっぱげのおっさんといったところか。ただ、立ち居振る舞いにあまり品は感じない。高圧的な感じでこちらを見ている。その目は確かに淀んでいて、何かを企んでいても納得するような感じだ。大臣はこちらに話しかけてくる。
「遠路はるばる、ご苦労でしたな。さぞ、大変な道のりだったでしょう」
セシリアが冷静に答える。
「いえ、コリニアとオーリスはほど近いので、それ程大変ということはありませんでした。どうかお気遣いなさらないよう」
「いやはや、最近は人心も荒みがちになっているのは否めないところですから、途中で賊に合われたとか。危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんな」
いけしゃーしゃーとこいつは……私はつい頭に血が上る。しかし、セシリアは冷静だった。
「それは国王様にも申し上げました通り、お気になさらないよう……民を治める苦労はよく存じております」
「ははは、そう言っていただけると、こちらも気が楽になりますな。さ、今宵はゆるりと休まれて、正式な会談の場は明日設けることにいたしましょう。よろしいですな?国王」
「ああ、そうすることにしよう。セシリア王女、影武者殿、今宵はゆっくりと疲れを癒してくだされ」
「はい。それでは、これで失礼させていただきます」
セシリアがそう告げて退席したのを見て、私も後に続く。あてがわれた部屋は2人同室だった。私は部屋に入るなり、セシリアに尋ねる。
「ねえ、あの大臣どう思った?」
しかしセシリアはにこにことして何も答えない。しかし、私に近寄ってきて耳打ちをしてきた。
「静かにしとけ。ここは敵地だ。どこで誰が何を聞いてるのか分かんねーぞ。余計なことは言うな。うちにまかしときゃいい。取り合えず、何があっても守ってくれよな」
私もささやき声で返す。
「了解」
しかし、セシリアは鋭かった。静かな環境はそう長くは続かなかったのだ。