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 男を馬車に引き入れると、セシリアが質問を始めた。


 「あなたの後ろにいるのは誰ですか?」


 「……そんなこと軽々しく言う訳はないだろう。殺せ」


 「そうしたいのはやまやまですが、聞いておかなければならないのです。ルカ、もう一度この者の生命エネルギーを吸い取って下さい。……死の寸前まで」


 容赦ないなー、セシリア。でもそれ位の気迫を見せないと、こいつは口を割らないだろう。私はそれっぽい動作をする。


 「本当にやっていいの?」


 「ええ、この者が口を割るまで、続けて下さい」


 私は余り乗り気ではなかったが、男の生命エネルギーを吸い取り始めた。男はもがき苦しむ。


 「うあああ!分かった、分かったから勘弁してくれ!」


 意外に根性ないな、こいつ。まあでもすぐに口を割ってくれた方がこっちとしても助かる。拷問なんて元の世界にいたときは良くやってたけど、こっちではあまりやりたくない。


 「俺の後ろに付いているのはこの国の大臣だ。大臣は以前から権力を欲しがっていた。この国の王族は今殆どその権威を失っている。そこで、光の象徴でもあるオーシスの王女を手に入れたら、自分が王に匹敵する地位を得られると考えているんだ。だから裏で懸賞まで掛けて王女を手に入れようとしているんだ」


 くだんねー。権力争いにセシリアを巻き込むなっつーの。セシリアの光はもっと正しい使い道があるってのに。


 「……よく分かりました。それではルカ、この者を殺してください」


 「!?ちょっと待って!命は助けるんじゃないの!?」


 「このままこの者を解放すれば、王女に闇魔法を使う影武者が付いていることが当の大臣の耳にも入るでしょう。そうすればどんな対策を取られるか分かりません。ここで殺してしまうのが最善です」


 「ちょ、ちょっと待ってよ。いくらなんでも殺さなくても……例えば口を割ったら今度こそ命を奪うとか脅すくらいにしておいても……」


 「ルカ。私たちは友達でしょう?友達の頼みがきけませんか?」


 「友達だけど、だからこそやりたくないことはやりたくないって言わせてもらう。ここで無益な殺生はしたくない」


 「無益ではありません。さっきも言ったように最善の手です。分かってくれませんか?」


 「どうしちゃったの、セシリア!あんたそんなキャラじゃなかったでしょ!?」


 私たちが言い合いをしている時、男は残った力を振り絞って、その手に闇の力を溜めていた。だけどそれに気付けなかった。その次の瞬間、男は「もらった!」と言い放ち、私のみぞおちに強烈な一撃を見舞った。油断していた私はもろにそれを食らう。


 「くっ……あんた……まだ、そんな力が……」


 「へへへ、お前の甘さに助けられたぜ。さっ王女よ、俺と来てもらおうか。大臣がお待ちかねだ」


 私は外の護衛の兵士を呼ぼうとしたが、声が出ない。それにこいつがシャドウを使うくらいの魔法力が残っていたら、呼んだところで身を隠されてしまう…!しくじった…!


 「さあ、いくぞ王女よ。お前ひとりなら今の俺だって……」


 セシリアは落ち着き払っていた。そして「ふぅ」とため息を一つ吐き、男に言い放つ。


 「おめえ、なめてんじゃねーぞ、そんな状態で大人しく連れていかれるほど、こっちも弱かあねえんだよ」


 !?セシリアの口調が変わった。いや、以前にも聞いたことがある。前にミレニアと3人でピクニックに行って襲われたとき、今のような口調で賊に脅しを掛けていた。あの時違和感を感じたが、今もまさに違和感しか感じない。


 「へらず口を……まだわずかだが力は残ってるんだ……フィス……」


 「シャイニーブラインド!」


 男よりも早く、セシリアが光魔法を使う。これは眩しい光で相手の視覚を奪う技のようだ。


 「くそっ、目くらまし程度で……」


 セシリアはまた、男が言い終わる前に、狭い馬車の中で起用に距離を詰め、男の腹に一撃パンチを見舞った。男はたまらず、苦悶の表情を浮かべる。


 「ルカ。そろそろ動けるか。こいつを殺せ」


 「……分かった」


 私の体も大分動くようになってきたのを見て、セシリアが言う。そして私は……セシリアの言う通りにした。男が絶命する瞬間は、思わず目を背けてしまった。


 私は元の世界にいたとき、殺人以外の犯罪は一通りやってきた気がする。しかし、異世界に来て、犯罪とは無縁の暮らしができると思っていたが、まさか唯一犯していない、人殺しをすることになるなんて……少し気持ちの整理が付かなかった。だが、それ以上に確認しなければいけないことがあった。


 「セシリア……あんたは、何者?」


 「こうなっちゃあ隠していてもしょうがねえか」


 もうお嬢様口調で喋るのはやめたようだ。これがセシリアの本性?


 「うちはあんたが思っているような女じゃないってことさ。今はそれだけわかっときゃいいだろ」


 「良くない!友達のことは全部知っておきたいし、何より私が命を懸けて守ると誓ったのに、今のままじゃ自分の中で消化できないよ」


 「ちっ、しょうがねえ。説明してやるか」


 セシリアはやれやれと言った感じで話し出す。


 「うちは元々こういう性格なの。確かに蝶よ花よで育てられたけど、それに対してずっと違和感を感じてきた。だけど、みんなの期待ってやつが、うちを立派な王女になることを強制した。だからずっと秘めていた。うちの狂気みたいな部分をね。だけど、いつまでも隠し通せるもんじゃない。特に影武者に対してはね。ルカ、あんたが初めての影武者じゃないんだよ。これまでにも何人かいたんだ。でも、そいつらは私の本性を知ると、私から離れていった。ますます私は孤独になり、狂気を内に秘めるようになった。大体そんなとこかな。ルカ、あんたどうする?他の影武者と同じように私から離れていく?」


 私は煩悶した。信じていた友達に裏切られた。いや、裏切ったんじゃない、元々そういう性格だったんだ。だけど……


 悩んだ末、私の出した答えは……



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