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明くる日、謁見の間にセシリアが呼ばれた。
「考えていただけましたか、お父様」
「うむ……確かに条件は揃った。決行するとしたら今しかないだろう。そこで唯一心配なのがお前の身の安全だ。昨日話しには聞いたが、本当にあの影武者で大丈夫なのだろうな」
「ええ。わたくしが保証いたします。ルカは今までの影武者の中で誰よりも強く、そして私のことを思ってくれています」
「ならば、もう迷うことはない……か。いいだろう。早速お前にコリニアへ乗り込んでもらう」
「なるべく早い方がいいですわ。向こうに余計な勘繰りをされないためにも」
「そうだな。よし、早速使者を送らせよう。建前など何でもいい。とにかく……分かっているな。コリニアに乗り込み、国民を扇動し、国を叩き潰すのだ。容易なことではないぞ」
「ええ、これでわたくしを取り巻く呪縛から解放されると思うと、胸が躍ります。心配はご無用です」
セシリアはそれだけ述べると、謁見の間を後にした。また、口元には笑みを浮かべて。
セシリアが部屋に戻ってきたとき、私は何となくこれまでのことを振り替えっていた。色々あったなあ……でも、これからは平和にセシリアと一緒に暮らそう。変な刺客が来ても今の私なら負けない自信しかない。そうしてセシリアに自由を満喫してもらうんだ。そんなことを思っていたら、セシリアが口を開いた。
「ルカ、告げなければならないことがあります」
いつもより深刻そうな面持ちだったので、私も真剣に聞かざるを得ない。
「な、何?」
「わたくしはコリニアに行くことになりました。勿論あなたも同行してもらいます」
「ええええ~!コリニアってあの刺客ばっか寄越す国でしょ!?そこに行くって素っ裸で性に飢えた男の集団の中に行くようなもんでしょ!?」
「そうです。敢えて敵陣に行く……ということです」
「何でそんな風になっちゃった訳?」
「わたくしたちの国とコリニアは表向きは友好関係ではありますが、裏ではスパイ活動が盛んに行われ、けして情勢は良くないのです。わたくしを狙う刺客が多いのもそれを表しています。それならば、わたくしが国の代表として赴き、情勢を改善させる必要があるのです」
「そりゃ裏で何かあるのは知ってたけどさ……別にセシリアじゃなくても……」
「いいえ、これはわたくしでなければいけないのです。相手が喉から手が出るほど欲しい人間、それが目の前に現れたらどうしますか?」
「そりゃあ、何としても手に入れたいと思う……かなあ」
「そこです。コリニアの中でわたくしの身に何かあった場合、責任は全てコリニアに帰することになります。そうすれば話し合いを有利に進めることができるという訳です」
「はあ……でも、もし捕まって人質みたいにされちゃったらどうするの?話し合いもへったくれもなくさ」
「そうならないために、あなたがいるのです。守っていただけるのでしょう?わたくしのことを」
そういうとセシリアは笑みを浮かべ、私を見つめる。うーん。まあ、信頼されてるのは嬉しいけど、危険な場所にセシリアを行かせるってのが気に入らないなあ……
「ねえ……本当にそれセシリアじゃなきゃダメなの?他の、王様とかじゃダメなの?」
「こればかりは……わたくししかできることではないのです。分かってください」
そう言ってセシリアは頭を下げる。そんな頭を下げられちゃったら……うんって言うしかないじゃない。
「分かったわ。行きましょう。絶対に何があっても守って見せるから」
「頼りにしていますよ。そうだ、言い忘れていましたが、これは勿論いくさに行く訳ではないので、護衛の兵士が付いても数名です。軍隊が後ろにいるとは思わないでください」
「いいよ。大丈夫。もう私は誰にも負けないからさ」
私がそう言うと、セシリアはまた笑顔で私を見つめるのだった。
数時間後……私はセシリアと一緒に馬車に揺られていた。
「ねえ、コリニアってどの位かかるの?」
「そうですね……大体、2時間もあれば着いてしまうんじゃないでしょうか」
「近っ!そんな近いとこにあったの?」
「そうなんです。元々わたくしたちの国は広くはないですし、国境線に山岳を使っているわけでもないので早めに着いてしまうのです」
「じゃあ、今の内に覚悟きめとかなきゃね」
「そう焦ることはありませんよ。向こうも表立って何かしてくることはないでしょうから。だから、あるとすれば……この道中や、向こうについてからの夜ですね」
「この道中って……十分焦んなきゃじゃん!」
「大丈夫ですよ。今のルカでしたら」
私に全幅の信頼を寄せているのか、セシリアはにこにこと笑っている。しかし、事件は早速起きた。外にいる護衛の叫び声が聞こえてきたのだ。
「賊だー!賊が出たぞー!」
「早速のお出ましってことか。どんな奴らだろ」
私は馬車の窓から状況を確認してみる。前に襲われた時よりも数人多い。馬に乗っている奴もいる。しかし……私の相手になりそうな奴はいない。
「何か大した事なさそうだから、ちゃちゃっとやっちゃって来るよ」
「待って下さい。ルカがこの場を離れたらわたくしが無防備になってしまいます。もしかしたら、彼らは陽動かもしれません。それ程でもない敵だったら、護衛に任せておきましょう」
この時、私は違和感を感じた。……妙に落ち着いている……まるで、戦闘に慣れている人間の言うことみたいだ。でも……セシリアに限ってそんな血なまぐさい場所に慣れているはずもないだろうと思って、違和感を振り切る。
「そうだね。今は少し様子を見よう」
しばらく様子を見ていると、賊は護衛の兵士と一戦交えていたが、早々に逃げ去った。確かに私の出る幕じゃなかったかもね。
「そういえば、ギブソンとかケルトとか来てくんないのかな。大分心強いのに」
「彼らは一個師団を率いる団長です。そんな人間が来たら相手も警戒しますから」
「えー、ギブソンは知ってたけど、ケルトもそうなんだ。どおりで強いわけだ」
そうこうしている内に馬車はコリニアの国境線を超えた。いよいよ、敵陣に入る。私はやっぱり少し緊張していた。




