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 ケルトは本当に強かった。私がいくら技を繰り出しても、全ていなすか相殺するかしてくる。そのくせ、私の数倍の威力の攻撃を仕掛けてくるのだ。何度も死線を彷徨った気がする。だけど、その度私は立ち上がった。自分は自分でしかない。その言葉を確かめたかった。その意味を知りたかった。戦いの果てにそれがあると思っていた。


 「はあ……はあ……」


 「どうした?息が上がってんぞ?だけど手加減なんてしねーからな。ダークバインド!」


 私の周囲に、重力場が発生し、身動きが取れない。反重力を発生させ、中和させたいが私の技では威力がおいつかない。くそっ。何か手は……考えてる間に次の攻撃が来る。

 

 「ダークボール!」


 闇の球体が私の腹を直撃する。めきめきと音を立てて、骨が押しつぶされていく。私はたまらず血反吐を吐いた。


 「……今日はこの辺にしとくか」


 ケルトは技を解き、治癒班を呼ぶ。治癒班から治療を受けた私は、何とか自力で立ち上がる。


 「……あんた、まだ全然手加減してるでしょ……」


 「お前がよえーからだよ」


 ケルトはにべもなく言い放つ。確かにそうだ。ケルトに勝つには、私の全てを出さなければならないだろう。そこまでの覚悟が私にまだないということだ。


 「明日は俺を殺す気でこい。俺も雛じゃねえ。いつまでも付き合ってられねえからな。お前が死ぬか俺が死ぬかの勝負をするぞ」


 「……あんたを……殺す……」


 口にしてみるが、現実感が伴わない。ケルトには恩もある。そこまで嫌いじゃない。そんな人間を殺せという。それが私に課せられた重荷か……






 部屋に戻ると、セシリアがいつものように大げさなほど心配してくれた。まあ、いっつも血だらけで帰ってくるからね。


 「ルカ……私のためにこんなに傷ついて……今日はケルトに勝てたのですか?」


 「いや……全然。あいつマジでつえーの。ギブソンとやってる方がまだましだったわ」


 「ケルトとギブソンはタイプが違います。そこに戸惑いがあるのではないですか?」


 「それもあるけど……ねえ、セシリア。私のことどう思ってる?」


 突然の質問に、やや困った表情をしたセシリアだったが、少しして口を開いた。


 「とても、大事な人だと思っています。私のためにこんなに傷ついてくれる人が他にいるでしょうか」


 「……ありがと。ちょっと気になっちゃってさ」


 「まだケルトと戦い続けるのですか?」


 「うん。もしかしたら明日が最後かもしれないけどね」


 「最後?」


 「私が死ぬかもしれないってこと」


 セシリアは一瞬青ざめたが、すぐに私に向かってこう言った。


 「……また、帰ってきてください。もう友達がいなくなるのは嫌です」


 「私だって死にたかないからね。大丈夫、帰ってくるよ。今日はお風呂入ってもう寝るね」


 そういって私はお風呂場へ向かった。一人部屋に残されたセシリアは言う。


 「ケルトの奴……まだ甘っちょろいことしてやがんな……」


 


 次の日、ケルトと私は向き合い、死力を尽くして戦っていた。とてもいい天気だ。その青空の真下で、私はもがいていた。


 どうやったらこいつを倒せる?どうやったらこいつを殺せる?


 「まだ迷いがあるな……そんな暇はねーってことをよく考えろ!」

 ケルトは私の数倍の力で重力場を発生させ、私を押しつぶす。立ち上がるのも困難だ。中和しないと……!しかしそんな暇も与えてくれない。次から次に細かい隕石のような闇の球が降ってくる。その一撃一撃が重く、私にダメージを与える。


 「ほら、どうした!そのまま俺に殺される気か!」


 「そんな訳にはいかないのよ……!」


 私は力を振り絞り、何とか立ち上がる。しかし、立ち上がった瞬間、闇を纏った蹴りで吹っ飛ばされる。くそっ!もう一度立ち上がろうとした時、視界がぼやけた。


 「!?」


 そのまま、私は膝から崩れ落ちる。ああ、そうか。ギブソンの時にも感じたこの感覚。私は死ぬんだ。もう力も入らなくなってきた。このまま殺されるんだ。



 ドクン



 ドクン


 心臓の音がやけに大きく聞こえる。段々と目の前が暗くなる。その刹那、昔の私が目の前に現れた。


 「ねえ、また力を貸そうか?」


 「……」


 「このままじゃ死んじゃうよ?私達友達でしょ?どうか私の力を使って、生き延びて。私を受け入れて」


 その時、私の頭に閃光のように閃いたことがあった。自分は自分。


 「あんた、私の友達なんだよね……?」


 「そうだよ。だから私の力を使って」


 「違う。友達なんかじゃない。私はあなた。あなたは私。私が受けてきた様々な心の傷。それがあなた。私はどこかでそれを自分と切り離して考えていた。だけど……違う。傷ついた私も自分。誰かを守りたいと思うのも自分。全ては同一なんだ」


 「……もう友達をやめちゃうの?」


 「違うわ。一つになるの。あなたと私じゃない。私は私。全てを受け入れる!」






 次に目を開けたとき、昔の私はもういなかった。だけど、確かに存在していた。それは、私の中にいたのだ。分かった。私が自分の力をコントロールできなかった理由が。だけど、もう大丈夫。もう私は一つ!



 私は立ち上がる。ケルトの容赦ない攻撃が迫ってきていた。しかし、私は手に闇を発生させ、それらを全て弾き飛ばした。


 「……やっと気付いたか。だけど、こっからが本番だ」


 私はきっ、とケルトを見る。うん。私だ。色々傷ついてきて、でも、誰かの、セシリアのために戦おうと決意した私だ。ぶれてない!


 「吸い寄せろ!」


 私がギブソンの時に使った技だ。重力を操るのではなく、生命エネルギーを吸い取る技だ。


 「くっ!」


 ケルトはその波動から身を躱そうとする。しかし。


 「逃がさない!」


 私は、波動を拡大させ、逃げ場をふさぐ。ケルトの腕から、体から、生命エネルギーが流れでる。


 「降参だ。だからもうその力を止めろ」


 私は、あの時とは違い、自分の意志で力を止めた。目の前にはしわがれたケルトがいた。死ぬか、殺すか。そう表現していたケルトだけど、本当は違う。そういう場に追い込むことによって、私に気付かせたかったんだ。今やっと分かった。


 「……あぶねー、まじで……死ぬとこだったぜ……」


 治癒班が駆けつけてきて、ケルトの治療を始める。治療を受けながらケルトは言った。


 「もう、いいだろ?お前も一つになったみたいだしな」


 その言葉に私は大きく頷いた。


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