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 私が城に帰り着くと、まず国王に呼ばれた。事の一部始終を説明してほしいとのことだった。まず労ってほしいもんだけど。まあいいや。私は監禁されたこと、敵に王女じゃないとばれたこと、敵は信仰上の理由で、王女を狙っていることなど、戦いで知りえた話を全て包み隠さずに伝えた。そして……敵にとどめを刺さずに帰ってきたことも。私は当然、お叱りを受けるものだと思っていた。敵に情報が……王女に影武者がいることが伝わってしまったからだ。しかし、国王はそうはせず、私の報告を聞くと「分かった。下がってよい。ご苦労だった」とだけ述べた。私は意外だった。だけど、他に何も言うこともないので、そのまま部屋に戻った。


 部屋に戻ると、セシリアが心配していたようで、私を見るなり抱きしめてくれた。


 「ちょっ……大丈夫、大丈夫だから」


 「そうは言っても、私心配で心配で……」


 セシリアの話によれば、私を攫った後、敵はすぐその場からいなくなったようで、国王はじめ護衛の騎士に及ぶまで被害は出なかったという。私は見事にトカゲのしっぽ切りのようにされたのだと知った。まあ影武者なんてそんなもんだろう。半ば諦めていたが、セシリアは頑なに、救援に向かうべきだと国王に進言してくれたらしい。そう聞くと、私は何だか泣きそうになった。一人じゃないんだなーって改めて思えた。


 「でもさー、私が敵にとどめを刺さずに帰って来たことを咎められると思ったんだけど、何もなくて拍子抜けしちゃった。何でだろ?」


 「それは多分、遅かれ早かれバレることですし、そもそも外遊の際に、私と並んでいたわけですから元々隠す気がないんだと思います」


 「何でだろ。隠しておいたほうがこっちにとっては得策じゃない?」


 「そうとも限りません。一旦争いの場になれば、影武者がいることが分かっていれば、わたくしを見つけても相手に躊躇が生まれます。悪いことばかりではありませんよ」


 「成る程ねー」


 私はそこで少し得心がいった。そういう考え方もあるか。でもそんな日が来なければいいなと思ったが……恐らく遠からずやってくるだろう。これで、隣国のコリニアが王女を狙っていることははっきりとしたし、下手をしたら、戦争になりかねない。そんな日が来たらどうなっちゃうんだろう。


 「すぐにいくさになることはありませんよ。今まででもわたくしを狙っていたのは公然の秘密でしたから。これを機にいくさを仕掛けてくる程、相手も馬鹿ではありません。だから雇われの者を使ったのでしょう。いざというときに、私たちは何も関係がないと言えるように」


 「そういうことか……」


 政治には何の関心もないが、本音と建前で動いてるのは何となく分かる。しかし、自分がその当事者になるとは夢にも思っていなかった。


 「これからどうすんだろーね、国王は」


 「別にどうもいたしませんよ。ただ外遊の際に賊に襲われた。ただそれだけのこととして、コリニアとは今まで通りの付き合いをするだけです」


 「こっちから攻め込んだりはしないの?」


 「そんなことをする理由がありません。向こうはわたくしを狙っていますけど、こちらは向こうを攻めても何も得することはないですからね」


 「でもこのままじゃ向こうからくる刺客にずーっと対処しなきゃなんないよ?」


 セシリアは少し間をおいて、悲しそうにこう言った。


 「……そのための影武者ですから」


 私はそれ以上は何も言えなかった。





 それから数日後、私はケルトを呼び出した。


 「何だよ。まさかお前に呼び出される日が来るとは思わなかったよ」


 「私もあんたとまた逢う日が来るとは思ってなかったわ」


 「だけど、そうしなきゃなんねー理由ができたんだろ?」


 「……また修行を付けて欲しいのよ」


 「何でよ。お前はもう十分に強いだろ?この前の敵だって見事に倒してきたそうじゃねーか」


 「あの程度の敵だったからよかったけど、いや、あの程度の敵ですら私は苦戦した。向こうが本気を出してきたときに絶対に王女を守れるだけの力が欲しいのよ。誰にも負けないような」


 「……成る程、それでその修行に俺が付き合わされる理由は?」


 「こんなのに付き合ってくれる人があんたしか知らないっていうのが一つ。もう一つは、あんた私の前で全力を出したことないでしょ」


 「全力か……まあ確かに出してないよ。だってお前死んじゃうもん。そしたらバルクに怒られる」


 「だから、今回は全力で修行を付けて欲しいのよ。私が死ぬことになろうとも。私が死んだら死んだでそれで構わないから」


 「へえ、結構な覚悟だな。わーったよ。しばらくの間付き合ってやるよ」


 こうして、私はもう一段強くなるために、また修行の日々に入った。







 時を同じくして、謁見の間ではセシリアが国王に呼ばれていた。


 「あの影武者、今回は上手くしのいだが、少し危ういのではないか?敵にとどめも刺さず帰ってくるとは自覚が足らんと言われても仕方ないぞ」


 「ルカは今までの影武者の中で一番わたくしのことを考えてくれています。恐らくもうそういったことは起こらないでしょう」


 「ならばいいが……きちんとあやつの心を引き付けているだろうな」


 「それは勿論。彼女はわたくしのことを親友と思っています。それも今までとは違うところですわ」


 「そうか……ならばよい。引き続き、今の関係を続けてくれ」


 「分かっております」


 私はこんな会話がなされているなんて知らずに、ケルトと修行に励んでいた。セシリアのために。セシリアを守るために。



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