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私は慌てて物陰に身を隠す。といっても最初から姿は消しているんだけど。なんだあいつ。魔法を探知する能力でも持ってるのか?
「おい、ちょっと周りを見てこい。どこかに姿を隠して会話を聞いてた奴がいる」
「分かったよ。お前がそういうなら間違いないだろ」
そういうとチンピラ風の男は扉から出てくる。私はじっと息をひそめる。こいつだったらやり過ごせるはず……しかし、チンピラ風の男は私の前で立ち止まった。
「へえ、ほんとにいたぜ。おい、隠れてるのは分かってんだ。姿を見せろ」
めっちゃバレてるし!どーするどーする!?
困惑している私が見えているのかいないのか分からないけど、男は続ける。
「お前が姿を見せないなら、少し荒っぽくいくしかねーぞ」
どういうつもりだ?いきなり殴りかかろうってか?
「しゃーねーなー。ここまで言ってもでてこねーんじゃ」
こうなったら先手必勝!
「シュート!」
私は姿を消したまま、思いっきり相手の顎を蹴り上げる!クリーンヒット!男はその場に昏倒した。しかし……これだけ騒いだら、間違いなくあの強そうな奴も出てくるだろう。逃げるか?
「逃げても無駄だ」
私の心を読んだかのように、背後から声がする。
「ジェイを一撃で倒すとは、中々の手練れだな。分かってると思うがもう姿を隠しても無駄だ。その姿を見せてみろ」
私が倒した男はジェイというらしい。しかしそんなに強そうには見えなかったけど。でも確かにもう姿を隠しているのも無駄っぽいな。そう判断した私はシャドウを解除する。
「何と……王女自身とは。てっきり王女を救いに来た誰かと思ったが。……面白い」
そうか、私はまだ王女なんだ。できる限り王女の振りをしていなければ。
「一つ質問があります。どうやってわたくしの位置を知ったのですか?しかも聞き耳を立てていることまで気付くなんて、生半なことではないはずです」
「簡単なことだ。俺は熱を操る魔法使いだ。人間のように大きな物体が熱を発しながら近くに来れば嫌でも分かっちまうさ」
「では、今わたくしが倒したこの男がわたくしの位置を正確に言い当てたのは?」
「それも同じことだ。こいつも熱を操る魔法を使える。俺より数段劣るがな」
「成る程。得心がいきました。では王女として命令します。わたくしを元の場所に返しなさい」
「んなことできる訳ねーってことは分かってんだろ?お前は俺らと一緒に来てもらう」
「嫌だと申し上げたら?」
「力づくでもだ」
やっぱりそうなるよね。だったら……逃げる!
「グラヴティ!」
私は周囲の重力を上げ、相手の動きを封じると共に、脱兎のごとくその場から離れる……はずだった。
「逃げようったってそうはいかねえ」
男は重力でやや緩慢になりながらも、魔法を使う。
「コールドウォール!」
急に私の四方が氷の壁に囲まれた。くそっ、やすやすとは逃がしてくれないか。ならば……上!
「リバースグラヴィティ!」
私は上空に重力場を作り空に飛ぶ。しかし、
「アイスアロー!」
氷の矢が私目掛けて連射される。あぶねっ!幸いドレスに幾つか穴が空いただけで済んだ。しかし、穴が空いたせいか、光魔法の効果を無くしてしまった。
「ん?光が消えた?……まさかおめー、本当の王女じゃねーな?」
鋭い!どこまでもやりづらい奴!でもバレちゃあしょうがない。
「どうやら隠し通せないみたいね。だったら、こっちも素でやらせてもらうわ」
私は空の重力場を解除し、地面に降り立つと、動きづらいドレスの裾を破って身軽になる。これで、真っ向勝負!
「フィスト!」
私は氷の壁を叩き壊し、男に一足飛びに近づく。喰らえ!
「シュート!」
さっきチンピラ風の男を倒したように顎を狙う。しかし、あっさり足を掴まれてしまった。何で?重力場のお蔭で動きづらくなってるはずなのに。
「この程度の重力で俺の動きを封じられると思ったか?あめーんだよ」
「くそっ、離せ!」
「話すわけにゃあいかねえな。コールド!」
男の手から冷気が伝わってくる。そして私の足が氷漬けになる……前に一撃を!私は男の手にぶら下がりながら攻撃を繰り出す!
「フィスト!」
男が付けている甲冑の上から強烈な一撃を叩き込む。男はたまらず私の足を離す。危なかった。
「……お前、闇魔法使いか。よくここまで鍛えたもんだ。だが、まだ俺は本気じゃないぜ」
「私もそうよ。できれば本気を出す前に決着をつけたいけどね」
「ふん、余裕かましてられんのも今のうちだ。氷にも飽きてきただろう。次は灼熱地獄といこうじゃねーか。ヒートウォール!」
私の周りを目には見えないが、とてつもない熱が囲む!まずい、このままじゃ焼け死ぬ!氷みたいに砕けないし……そうだ!
「インヴィジブル!」
私は姿を消す。そして、
「リバースグラヴィティ!ダブル!」
私は上空に二つの重力場を作り、空に向かってジャン……ってあちい!上も囲まれてる!くそっ、逃げ場はないのか……!
……そうだ!ならそれを逆手にとって!
「リバースフィスト!マックス!」
「うぉっ!」
男は私の拳に吸い寄せられる。熱は物理的に熱いはずだ。だから男自身も耐えられないはず!
「くそっ!」
吸い寄せられた男はたまらず熱の壁を解除する。そして、私の拳の攻撃を両手で受ける。ここからが本番!