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男が語ったのはこうだ。この国の王女つまりセシリアは隣国から狙われている。私もそれは知っていた。しかし何と王女を捕まえてきた奴には賞金まで出るらしい。それから、王女の身柄をさらおうと、色んな奴が虎視眈々と狙っているのだそうだ。この男たちもその類だったらしい。しかし、王女に影武者いるなんて情報は出回っていない。だから、「聞いてねーぞ」になったのだそうだ。
「ふーん……あんた、嘘は言ってないでしょうね」
「こんなことで嘘を吐いてもしょうがねえだろ!見逃してくれよ~」
情けない声を出す男。どうしたもんかな~。
「どうする?セシリア」
「そうですね。こういう不逞の輩は城の衛兵に突き出すのが普通なのですが……今は隠れて外に出ているので、バレるのも避けたいところですね。このまま放逐しましょう」
セシリアがそう言うと、男は安堵の表情を浮かべる。そんな男にセシリアはすっと近寄り、顔を近づけてボソッとこう言った。
「分かったら二度とうちらに手え出すんじゃねーぞ?次は殺すかんな?」
え?今何かセシリアが、私が言いそうなセリフを言ったような……
「セ、セシリア?」
セシリアはクルっとこっちを向きなおし、何食わぬ顔で私に話しかけてきた。
「さっ、邪魔者が消えたら、続きをしましょうか♪」
男は血相を変え、他の倒れている男たちを抱えると、一目散に逃げだしていった。
私の聞き間違いか……?う~ん、まあ気にしないでおこう。
「そ、そうだね。じゃあ食事の続きしよっか」
私はセシリアに感じた違和感を払拭するように、明るく務めた。実際、ミレニアの準備したお弁当はどれもおいしく、非常に楽しく食事ができた。
「いや~、さすがミレニアだね。なかなかこんなお弁当作れないよ」
「本当、おいしかったです。ありがとうミレニアさん」
「そんな……褒められると照れちゃいますね」
あははは……と笑いながらも私はさっきのセシリアの一言が頭の片隅に引っかかっていた。
それから何だかんだ時間は過ぎ、夕暮れ時になってきた。
「さっ、そろそろ帰りましょうか」
「そうだね。もうたくさん遊んだし喋ったし。途中茶々が入ったけど、楽しかったよ」
「分かりました。それでは帰り支度をしますね」
ミレニアが、帰り支度のために席を外した隙を狙って私は、セシリアに聞いてみる。
「セシリア、あんたってさ……実は、根は……」
そんな私の言葉を遮るようにセシリアは言う。
「ルカ、今日は本当に助かりました。ルカがいなかったら私達どうなっていたか……」
「あー、嫌、それ程でも」
「これからもよろしくお願いしますね。影武者さん♪」
「う、うん。」
私は結局聞けずじまいだった。いや、でも私の聞き間違いじゃないとしたら……セシリアは実は根は、相当なヤンキーなんじゃ……
……おっかないから黙っとこう。
間もなくミレニアが戻ってきて、私たちは岐路に着いた。道中また他愛もない話をしながら、無事に城に帰り着き、抜け道を通って私達は部屋へと戻った。部屋の護衛をしている兵士には「何があったんですか!心配しましたよ!」とか言われたが、セシリアが「すいません、ちょっと野暮用で……」と言うとそれ切り黙ってしまった。
部屋に入ると、セシリアは私に話しかけてきた。
「今日は楽しかったですね。」
「うん。久しぶりに開放感があったよ。また行きたいね」
「そうですね。これからはルカがいるからどこでも行けそうです」
「そんなことないと思うけど……」
そんな話をして、それぞれ身支度をし、夜には床に就く。こうして私の影武者デビューの一日は終わった。しかし……セシリアのあの言葉。あれはやっぱり聞き間違いじゃないよな~……。それに、本当にセシリアは大勢の人間から狙われているんだ。今日のは相手が雑魚だったからよかったけど、強敵が本気でセシリアをさらいに来たら……私が守れるだろうか?色々な疑問が頭をよぎるが、いつしか眠りに落ち、気付くと朝を迎えていた。
私が目覚めると、既にセシリアの姿はなかった。部屋の警護の兵士に聞くと、何でも国王に呼ばれ拝謁に行っているらしい。まさか……昨日のことがバレた?……それはないか。呼ばれるんならもっと早く呼ばれてるもんね。何だろう。王女は大変ってことか。私は二度寝をすることにした。
ここは謁見の間。玉座に坐した国王がセシリアを前に、問いかける。
「どうだセシリア。今度の影武者は」
「ええ、とても気が合ってよい影武者です。お父様」
「そうか。これからもずっと使えそうか?」
「それは問題ないかと。これまでの影武者とは違い、私と同じものを背負っているようですから」
「背負っているものか……まあ、そなたが言うならそれでよい。何か問題があったらすぐに言うんだぞ」
「分かっております。お父様」
私が二度寝をしていると、セシリアが帰ってきた。
「おーお帰り。国王に会ってきたんだって?王女様も大変だねー」
「それ程でもないですよ。それよりルカ、今日は何をしましょうか」
「そうだねー……」
私は、この時は何も知らずにいた。もうすぐ、王女の身に危機が迫ることを。そして、私がそれに巻き込まれることを。