表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/51

 私が休息のために通された部屋は、思いのほか豪奢な部屋だった。天蓋付きのベッドに、壁は大理石のようだが煌びやかな装飾が施され、高価そうな絵画も飾られている。広さは20畳はあるだろうか。


 「……なかなかいい待遇じゃない」


 一人ごちてみたが、まあそもそも王女の影武者である以上、寝起きする場所もそれに合わせる必要があるのかもしれない。私は早速、寝心地の良さそうなベッドに飛び乗り、うつ伏せになってみる。うん。悪くない。このまま寝てしまおうかと思ったとき、ノックの音が響いた。


 「はーい」

 誰だよ。と思いながらドアを開ける。そこには、メイド服で私と同年代かそれよりやや若く、ボブカットの黒髪と、印象的な碧眼の少女が立っていた。顔だちも整っており、私が前いた場所では、道を歩けば読モにスカウトされるだろうという気がした。


 「あの。私がルカ様の身辺のお世話を命じられました、ミレニアと申します。御入用のことがあったら何でも申し付けて下さい。ベッドの脇に私を呼ぶボタンがあると思います。それを押せば私がすぐに参りますので……」


 「あー分かった分かった。何かあったらお願いするわ。今日はもう眠いから寝かせて。そんだけ。んじゃ」


 「あ、お待ちくださいルカ様。この世界に来たばかりで色々不安ではないのですか?よければ説明いたしますが……」


 「不安?そんなの向こうにいるときと大して変わんねーよ。だから大丈夫」


 「お強いのですね、ルカ様は」


 ニコッと笑う顔もどこか美しい花びらが揺れている様を思わせる。私はこんな女を何人ぼこぼこにしてきただろうか。と言っても、私に敵意をむき出しにする奴だけだけど。


 「わかりました。それでは戻ります、何かあったらボタンでお知らせ下さい」


 「はいはーい。んじゃねー」


 とりあえず、また一人になれた。私は一人の時間が好きだ。誰にも干渉されず、誰も私に干渉してこない。口を開けば非難される人生を送ってきた所以か。さて、とりあえず……


 私は、クローゼットを探し出し、衣類を物色する。ひらひらのいかにも王女が着るようなドレスが沢山入っていた。下着もレースが沢山ついたものや、着方がよく分からないものもある。


 「風呂入りてーのになー」


 入浴場自体は、簡易的ではあるが部屋の中にあるのが見て取れた。だから一っ風呂浴びてから寝ようと思ったのだが……代わりの服がこれじゃあな。といってもいつまでも少年院の素っ気ない服を着ているのも嫌だ。私は早速ミレニアを呼ぶことにする。


 「ベッドの脇のボタン……これか」


 ボタンを押すと、分を待たずしてノックの音がする。ドアを開けると先ほどと同じ表情でミレニアが立っていた。


 「はい。何か御入用ですか?」


 「あー、こういうのも恥ずかしいんだけど、何か着慣れない服しかなくてさ。もっと庶民的な服ってないの?」


 「お言葉ですがルカ様。あなたは王女の影武者に選ばれたお方。着るものもそれに合わせていただかなくてはいけないのです。今は慣れないかもしれませんが、着ていくうちに自然に慣れますよ。きっと」


 と言って、ミレニアはにこっと笑う。そこに敵意や悪意は感じられない。純粋に私のことを思っての発言だろう。そうすると、私も自分の意見を押し通すにも気が引ける。


 「……分かった。頑張って慣れてみるよ。ただ、着方が分からないから、その時は教えて貰ってもいい?」


 「もちろんです。ルカ様。どんな小さなことでもお申し付けくだされば、できることは致します」


 「んじゃ、風呂入ったらまた呼ぶわ」


 「はい。お待ちしています」


 私はドアを閉める。本当にいい奴そうだ。昔から敵か味方かの嗅覚を磨いてきた私は、第一印象で敵か味方かを嗅ぎ分ける特技を持っていた。それに比べて……あの神官はどうも味方の気がしない。えらっそうに喋りやがってさ。ちょっと前の私ならワンパン入れてるとこだったな。そんなことを考えながら、入浴場に行く。入浴場の作りは地球とそんなに変わらない。違和感なく入浴できた。さて、呼ぶか。バスタオルを体に巻き、私はベッドの脇のボタンを押す。


 「はい、何でしょうルカ様」


 「風呂終わったからさ。適当に着るもの見繕って、着方を教えて」


 「かしこまりました。もうお眠りになるのですよね。そうしたら、下着はこれ、パジャマはこれなんかいかがですか?」


 異論があろうはずもない。


 「うん。それでいいよ。ただそのパジャマ……どうやって着るの?」


 彼女が差し出したパジャマはドレスにも似た、レースのついた高貴そうな服であったため、私には身に着け方が分からなかったのだ。


 「これから、お教えします。簡単ですよ」


 言われるがまま、下着とパジャマを身に着ける。「それでは、また何か入り用がありましたらお呼びください」と言って、ミレニアは帰っていった。


 静けさが周囲を包む。いい感じだ。私は天蓋付きのベッドに横になると、今日一日を思い出していた。


 「本当なら保護室にいたんだよな。それがこんなことになるなんて……」


 人生って何が起こるか分からないもんだな。最も私の人生の終わりは碌なもんじゃないだろうけど。そんなことを考えているうちに眠気が強くなってくる。明日は、教育が始まるとか言ってたな。どんな教育か知らないけど、油断だけはしないようにしよう。人を信じて良いことにあった試しがないからね。そして、私は眠りについた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ