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そう、私には時間がない。私の魔法の威力は確かに上がったし、複数の魔法も同時に使えるようになった。しかし……肝心のスタミナが少ない。ゲーム風にいうとMPに限りがあるのだ。あとどれ位もつか……だけど、出し惜しみして勝てる相手じゃない。最後まで、全力で……いかなきゃ!
私は空中で浮いているダークボールを消すと、その瞬間にギブソンに駆け寄る!その刹那。
「いてっ!」
見えない壁にぶち当たった。何だこれ?……そうか、ギブソンが固定している空気の壁か。これを張り巡らされたら、まずい!しかし時既に遅し。私は左右上下全て見えない壁に囲まれていた。移動しようとしてもできないのだ。呼吸ができるのが唯一の救いか……多分私が死なないように配慮しているのだろう。
「ウインドロープで動きが止められずとも、こうすればお前の動きを封ずることができる。勝負あったな」
「……それはまだ早いんじゃない?」
どの程度の空間を固定しているか分からないけど……やってみる!
「リバースグラヴティ!マックス!」
私は周囲の重力場を上に向ける、それも最大限の力で。すると、半径1m程の私を包む見えない球体が浮かび上がる。球体だと判明したのは周りの小石や瓦礫が、私の周囲を避けて浮かび上がっていくからだ。このまま……突っ込む!
「リバースグラビティ!」
私は重力の軌道を変える。狙いはもちろん、ギブソン!突っ込め!
「はあああ!」
「玉砕でもするつもりか?無駄だ」
そういうとギブソンは、私の周囲のフィックスを解除する。やりぃ!そのまま突っ込んで、一撃を……
「フィックス!」
私の思いも空しく、ギブソンは自分の目の前に空気の壁を作る。私はもろに直撃した。
「うああああっ」
右肩を強打した。恐らくもう腕は上がらないだろう。利き腕を奪われたか……だけど……まだ!
「戦意は喪失していないようだな。風ではお前を倒すのは少し厄介だ。ここからは見えない恐怖と戦うがいい!」
そういうとギブソンは、右手を私にかざす。
「ブレット!」
見えない空気の塊が、私の顎を直撃する。
「くはっ」
脳みそが揺れる。視点が定まらない。
「続けていくぞ。ブレット!」
次々と空気の塊が私の体を直撃していく。
「きゃああああああっ」
余りの痛みに、思わず嗚咽が漏れる。まずい……このままじゃ……勝てない!それでも容赦なく空気の塊は襲ってくる。くそっ何とか防がなきゃ!
「ダークシールド!」
私は、視点の定まらないまま目の前に闇の壁を張る。……はずだった。しかし、闇の壁は、一瞬現れて、直ぐに消えてしまった。MPが……なくなった!こんな時に……
容赦なく繰り出される空気の塊を防ぐすべをなくした私は、朦朧とする意識の中、「負けたくない……」とひたすら考えていた。このまま私が負けてしまったら……王女はまた、独りぼっち……私はまだ何も成し遂げていない……そんなことを思っている内に、私は気を失った。
「ここは……?」
気が付くと、私は暗闇の中に一人立っていた。あれ?ギブソンとの試合は?つーかここどこ?何?ついに死んじゃったのかな、私。
「死んでないよ」
目の前に、昔の5歳位の私が現れた。以前友達になるって約束した自分自身だ。
「どうしてあなたが……?」
「友達のあなたが死にそうなんだもの、助けに来たの」
「助けるって言っても……あなたは私だし、私はもう力を使い果たしたし……どうやって」
「私はあなたの闇の一番深い部分。闇の中の闇。あなたはそんな私を受け入れてくれた。今度は私があなたを受け入れてあげる。私と一つになりましょう」
「一つに……?でも前に昔の私とは一緒になって、それで飛躍的にレベルアップしたけど、もう一緒なんじゃないの?」
「あの私は、別の者。私はあなたの闇の中枢。あなたの抱えているトラウマよりもっと暗くて辛いもの。生きていることの業と言ってもいいわ」
「生きていることの業……?」
意味が分からず私はオウム返しに応える。
「そう、両親から受けたトラウマそれ以外にも沢山あった悲しいこと、辛いこと、生きているだけで誰かを傷つけてきた自分。それが私。そんな私と一緒になってくれれば、あなたはこの試合に勝てるようになるわ」
「今まで生きてきて起きた全ての悲しいこと……生きているだけで誰かを傷つけてきた私……それを受け入れなければ、この試合には勝てないの?」
「そうね。殺されはしないだろうけど、間違いなく負けるわ」
「そんなの嫌だ!……例え私にどんな業があろうと、勝つためなら……誰かのためなら……受け入れる!」
「分かった。じゃあ、私と一つになりましょう」
そういうと、昔の私は私をそっと抱きしめた。そのまますっと私の中に溶け込んでいく。その瞬間、過去から現在まで、誰かを傷つけてきた記憶や、傷つけられてきた記憶、裏切られた記憶……全ての闇が脳裏を走った。辛い、辛くて悲しくて、こんな人間死んでしまえばいいとさえ思った。だけど……私には生きる目的がある。それを……捨てる訳にはいかない!
「はああああああ!」
私は、私の中にある全ての業を昇華した。青々とした草原を荒野にしてしまうほどだった、私の業。それを全て自分の中にしまい込んだ。私は……生きる!
気が付くと、戦闘の真っ最中だった。ほんの数秒の出来事だったのかもしれない。ギブソンが話しかけてくる。
「これで、とどめだ。楽になれ」
ギブソンはそういうと、また見えない空気の塊を私に向けて打ち出そうとする。私は地面に横たわったまま、左手を上げる。技の名前が決まってないけど……まあいいか。
「吸い寄せろ」
私がそう呟くと、ギブソンの構えた腕から生気が失われていく。
「な、何っ!」
そのまま私は、ギブソンの生気を食らう。そして、立ち上がる。ギブソンを見ると、両手が干からびてミイラのようになっている。
「あんたに恨みはないわ。だけど、私が前に進むため、勝たなきゃいけないの。悪く……思わないでね」
私はそう言うと、ギブソンに向かって左手を差し出す。
「吸い寄せ……」
「そこまでです!」
急に上の方から声がする。王女の声だ。
「この勝負、柏木ルカの勝ちとします。異存はありませんね?ギブソン」
「ええ、私の……負けです」
私が……勝った。私は、勝ったんだ!




