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「じゃあ、続けるぞ。今度は本格的に闇魔法を教えていくからな。別の意味で厳しいから覚悟しとけよ」
私はケルトの言葉を、ボーっとしながら聞いていた。疲れが集中力を奪う。でも……立ち止まるわけにはいかない。私は私のため、王女の影武者になるって決めたから。
「まず、試しに今まで覚えた闇魔法を使ってみろ」
私は立ち上がった。が、眩暈がしてふらふらする。何とか足に力を入れて踏ん張る。足を引きずるようにして歩き、何とか大きめの岩の前までたどり着く。
よし、取り合えずやってみよう。
「フィスト!」
私の手に闇を集中させた瞬間、違和感を感じた。だけど、そのまま岩を殴る。すると……岩は粉々に砕け散った。何だ?今の違和感は……
「どうだ?自分の中に何か変化はあるか?」
「うーん……言葉にはしづらいんだけど……何ていうか、今までとは少し感じが違う。何だろう、闇が体の一部になったような……」
「それでいいんだ。お前は過去のお前と邂逅し、それを昇華した。お前の闇はもうお前の一部なんだよ。今までは、お前の心とお前の闇が別々だった。2つ同時に魔法が使えなかったのもそこに原因がある」
「そうなんだ……じゃあ、もう2つ同時に魔法を使えるってこと?」
「多分な。やってみ?」
私は試しに、右手と左手両方同時に闇を集中させてみた。すると、見事に両手に闇が生まれた。
「よし。いい感じだ。次は重力場の移動だ」
「重力場の移動?」
「そう。今までお前は、自分の体の中に重力場を発生させた時以外は、重力場の移動ができなかったはずだ。グラヴィティもドームも常に発生させたら、その場所を動かせなかっただろ?だけど、それももうできるはずだ。そして、これができるようになると、強力な武器になる」
「例えば?」
「一番わかりやすいのは飛び道具が使えるってことだ。今までクラッシュだって狙った場所にしか重力場を発生できなかっただろ?それを飛び道具化できるんだよ。やってみ?」
私は言われた通り、右手に重力場を発生させ、それを打ち出すイメージで、前に突き出してみる。すると、闇が一つの塊のようになり、前方に飛んで行った。しかも、途中岩にぶち当たったが、それを貫通して、前に進んで行き、やがて消えた。
「なかなかだな。あの闇は触れた物をその中に取り込みながら進んで行ったんだ。だから、きれいに岩を貫通したって訳さ」
「闇はもともと内向きの重力場だもんね。成る程、これは私かなりレベルアップしたんじゃない?」
ついつい私は疲れも忘れてわくわくしてしまう。
「ああ、お前は無事に過去を昇華したからな。だが、こっからがスタートにすぎないぞ。これからは実戦形式でビシバシ教えていくから覚悟しとけよ」
「分かった。ギブソンに勝てるようになるまで、絶対諦めないから!」
こうして、私とケルトの本格的な修行がスタートした。修行はとてもハードだった。何度も殺されかけたし、実際に死の淵を彷徨ったこともあった。だけど、その度ケルトが魔法で癒してくれて何とか死なずに済んだ。
このケルトととの修行で私は、以前ケルトがやって見せた光学迷彩や複数同時魔法といった応用的な魔法の使い方を覚えていった。ただ、一つだけ教えて貰えない魔法があった。それは、生命エネルギーを吸収する方法。バルクのおっさんが死にかけたやつ。これだけは、
「あれはお前特有と言ってもいい魔法だ。もちろやり方を教える日も来るだろうが、それは今じゃない。暴走してもらっても困るしな……」
と言って教えてくれなかった。暴走って何だろう。また辺りを荒野にしてしまう可能性があるということだろうか。過去を昇華した私でも、まだまだ操れないということなのかもしれない。
だけど、一か月ハードな修行に取り組んだ私は、かなりの魔法スキルを得ていた。もう、昔の私じゃない。そして……
再び御前試合の時が来た。