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 「次は、闇の根本の説明だ。バルクのおっさんから基礎は習ってるんだろ?」


 「まあね」


 「じゃあ、説明してみろ」


 「えっと……基本的には、物を引き付ける力。物体も光も、時には……生命エネルギーも。それを利用して、重力場を作ったり、重力を重くして相手の動きを鈍くしたりできる。私は、打撃が得意だから、引き付ける力プラス、自分の力を上乗せして相手を攻撃する。時には、相手の体内に重力場を発生させて、相手を内側に押しつぶしたりもできる。こんなとこかな」


 「知識としてはあってるし、使い方も間違っちゃいない。だが、お前の技には知恵というか工夫が足りない」


 私はすこしムッとして言い返した。


 「これでもそれなりに考えて戦っているつもりですけど?」


 ケルトはそんな私の言葉を無視して続ける。


 「それと!お前は自分の中の闇を完全に操っていない。どちらかというと、闇に操られてる」


 「どういうこと?」


 私は理解が追い付かず、思わず聞き返した。


 「お前、過去のトラウマと向き合いきれてないだろ」


 ケルトはいきなりズバッと、嫌な部分に切り込んできた。そう、私は幼少期の記憶がほとんどない。というより、思い出さないようにしている。それは、私にとって、あまりにも怖く苦しいものだという予想が付いているから。でも、それで闇魔法の力が弱くなるなんてことあるの?


 「確かに、あんたの言う通りだけど、別に関係なくない?」


 「馬鹿。関係大有りだ。自分のトラウマを昇華できた奴は、闇をもっと自在に操ることができる。お前は闇の上っ面だけをこねくり回して遊んでいるだけだ」


 さすがにそこまで言われると私も言い返さずにはいられなかった。


 「そんなことない!実際、一か月修行して目を見張るような成長ぶりだってバルクのおっさんは言ってた!それに王女の護衛の3人のうち、2人には勝ってる!どこが上っ面をこねくり回してるっていうのよ!」


 「確かにお前の成長は早い。バルクが一刻も早く王女の影武者にしたがったのも分かる。だが、思い出してみろ、あの試合はお前を殺してはいけないという条件付きだった。その気になればルアンにも勝てたかどうか怪しいもんだ。ギブソンが本気になれば、お前は瞬く間に殺されていただろう」


 納得できない!こいつは私を貶めたいだけだ!そう思った私は続けざまに反論する。


 「ギブソンは分かるけど、ルアンも私に対して手加減してたってこと?あいつ私を殺しにかかってきてたのよ?」


 「そこがお前の知恵の足りないところだ。よく考えてみろ。ルアンは炎を操る。お前の周囲を炎で囲めば周りの空気が燃焼し、一瞬でお前は酸欠になって死ぬ。ギブソンにしても同じことだ。お前の周囲の空気を真空にしてしまえば、お前は体中の水分が蒸発して死ぬ。そういうことだ」


 ぐっ……反論……できない。くやしい、くやしい!


 「……じゃあ、どうすればいいのよ……私は一生王女の影武者になれないの……?」


 「そうは言ってない。これは掛け値なしに言うが、お前の闇魔法の素質は相当なものだ。それは認める。しかし、同時に幼少期のトラウマが凄まじいものだったということになる。それと向き合って昇華することができれば、ギブソンを超え、王女の影武者にふさわしい実力を身に着けることができるだろう」


 「じゃあ、どうしても、子供のころの私と向き合わなければいけない……そうしないと強くなれない……そういうことね……?」


 「そうだ」


 ケルトは冷徹に言い放つ。それが私にとってどれほどの苦痛か分かった上で言っているのだろうか。嫌だ。思い出したくない!……だけど……


 「強くなるには……それしか方法はないの……?もっともっと修行すれば、時間は掛かってもいつかギブソンに勝てる位になれるんじゃないの……?」


 「ある程度までならいけるだろう。だが、ギブソンレベルになるのは無理だ」


 本当に言葉に衣を着せない奴だ。私の中で思いが逡巡する。強くなりたい。だけど、昔のことは思い出したくない……。どうすれば……。


 しばらく無言の時間が続いた。そして、長い葛藤の果て、私は結論を出した。


 「……分かった。私は……強くなりたい。ギブソンに勝ちたい。そして、王女を、私のような孤独の中にいる王女を助け出したい!」


 「……腹は決まったようだな。じゃあ、もう一段階覚悟を決めろ。お前はこれから、本当の意味で死ぬかもしれない。それは物理的な死、という意味合いの他に、精神的に死ぬかもしれないということだ。そうまでしてでも、強くなりたいと強く願え。お前の決意が揺らいだ時、闇はお前を食い尽くすだろう。そうならないために、今、強く誓うんだ。強くなりたいと」


 短い時間だったけど、散々葛藤した。私の心は決まっている。そして……私にはこれ以上失うものなんてない。何が来ても乗り越えて見せる!


 「いいわ。私は強くなりたい。……少なくとも昔の自分に負けないくらいの強さを身に着けたい!」


 「よし、わずかな時間だったが、いい面構えになったな。じゃあ、ここからは、死ぬかもしれない前提で修行を進めていくぞ。いいな?」


 「ええ、構わない。」


 私は、逃げない。いや、逃げる場所がない。なら立ち向かうだけだ。初めから私には居場所なんてなかった。その居場所を作るため、自分の存在理由を作るため、そして、王女を助け出すため、私は命を懸ける!


 「じゃあ、早速始めるぞ」




 


 

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