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「なんだ……ここ。」
私が目覚めると、周囲は石でできた壁にたいまつが照らされ、神官のような服装をした大人達数人に囲まれて、祭壇?の上に寝かされていた。周囲では「おお、似ている」とか「やはり選ばれただけのことはある」といった言葉が聞こえてくる。
「ねえ……あんたら誰?ここどこ?」
私はまったく意味がわからないこの状況で少しでも情報を得るために、質問をしてみる。すると神官の一人らしき人間が意外そうに口を開く。
「何も分かっていないのか?同意したであろう」
「いや、同意とかいう前にここがどこで、あんたらが何者なのか教えてくんない?」
先ほどの神官がため息を一つ吐くと、鷹揚に口を開く。
「ここはオーシス王国、お前はその王女の影武者に選ばれてここに召喚されたのだ。ここまで言えば思い出しただろう」
「そう言われても、さっぱり意味が分かんないんだけど……あ」
そうだ、私の頭の中に響いていた声が、そういえば「同意するか?」とか何とか言ってたことを思い出した。でも詳しい説明なんか何もなかったけど……?
「確かに好きにしろとはいったけど、あれは余りに煩かったから!大体説明も何もされてない!」
少し声を荒げて私は反論する。
「説明されていない?そんなはずはなかろう。まさか……」
そういうと、神官は一人の従者っぽい人物を睨む。
「お前、きちんと一から説明したうえで同意を得たのか?」
「い、いや、その……特に説明なんてしなくても、王女の影武者を募っているのは全宇宙の文明がある惑星の常識化と思いまして……」
「馬鹿者!この者が来たのは地球からだ!地球ほどの辺境の地にまでそのような情報が届いているはずがなかろう!そもそもあそこはまだ異星間の交流には至っていない!」
「ひっ、す、すいません」
ひとしきり従者っぽいやつを怒鳴り飛ばすと、神官は私のほうに向きなおる。
「すまなかったな、こちらの手落ちだったようだった。これから説明させてもらう」
神官が説明したのは、ここは地球よりも違う形で文明が発達した星で、統一王朝としてオーシス王国という国が治めているらしい。しかし、そのオーシス王国は隣国(隣星?)と現在敵対関係にあり、王女の命が狙われているため、影武者を全宇宙的に探していたらしい。そして、白羽の矢がったのが私だったと。
「あー、何となく分かったけど、なんで私だったの?他にもいっぱいいたでしょ?」
「それがそうでもない。ヒューマノイド型で文明を持つ星は意外と少なくてな。その中で王女と瓜二つの人間はそうそういるものではないのだ。」
「じゃあ、地球より文明が進んでるんだから、作ればいいじゃない。アンドロイドとかさ。そうでなくても整形するとか」
「地球では科学が進歩する方向に文明が進歩しているが、我々はそうではない。我々は魔法文明なのだ。もちろんその技術を持ってすれば、王女そっくりのヒューマノイドを作ることができるが、人造のヒューマノイドは感知の魔術によってすぐにばれてしまう。それにお主が言う整形というのは顔の造形を変えることと思われるが、それは我々の宗教の教義に反する。そのため、どうしても、王女そっくりのヒューマノイド型文明人が必要だったのだ。」
「なるほどね~……」
私は少し考える。ここで私がごねれば、きっと元の世界に戻してくれるだろう。でも元の世界に戻っても少年院だし、それに私がいなくなって悲しむ人なんて……
「分かった。やってみるよ。王女の影武者。ただし、私王族のマナーなんか一切知らないからね」
「それは問題ない。これからお主にはみっちり教育を受けてもらう。影武者として公の場に出るのはそれが終わってからだ」
「教育か……あんまり好きな言葉じゃないけど、まあ元の世界にいるより面白そうだね」
私は元の世界でのことを思い出し、逆に今の全く違う環境にわくわくしている自分に気付いた。
「それでは、今日はとりあえず休め。本格的な教育は明日から行う」
私のこれからには何が待っているのだろう。想像もつかないので、流れに身を任せることにした。