17
次の日、練習場で私は神官のおっさんによりハードな修行をしてもらえるよう、頼み込んだ。
「私、どうしてもあいつに勝ちたい。そして……一刻も早く、王女の影武者になりたい!だから……お願い。私をもっと強くして」
神官のおっさんは困ったような顔で返答する。
「お主の心意気は分かった。……しかし、私がこれ以上のことを教えていくのは得策ではないと思っている」
「どういうこと?」
「先の戦いの中で、そ主は飛躍的に成長した。わしが修行を付けていた時もその成長スピードには目を見張るものがあったが、それ以上だった」
神官のおっさんは続ける。
「お主がこれ以上の成長を望むのであれば、実戦形式で教えていく方が早いだろう。しかし、わしはもう一線から退いた身だ。お主と戦い続けるのはちときつい」
「じゃあ、どうすればいいのよ。時間を掛けて、基本的な練習をひたすら積んでいくしかないの?」
「そこでだ、お主の師を変えてはどうかと思う」
「おっさんじゃなくなるの?」
「そうだ。もっと実戦的な訓練を行えるものを呼ぶ。その者に修行を付けてもらうのだ」
「誰かあてがあるの?」
「それなんだが……一人だけいることはいる。お主と同じ闇魔法の使い手だ。だが……」
おっさんは言い淀む。何をそんなに不安になることがあるのだろうか。
「誰でもいーわよ。私を強くしてくれるんならさ。早くその人を呼んできてよ」
「うむ……では聞くが、修行中にお主が死んだとしても構わんか?」
唐突にすげーことをいうな、このおっさん。いやいや、死んだら元も子もないでしょ!大体あの試合だって私を殺さないようにっていうルールがあったじゃん!
「何とも答えづらい質問だけど、私が死んだら色々困るんじゃないの?」
「そうなのだ。お主に今死んでもらっては困る。しかし、その辺を加減できる奴ではないのだ」
私はしばらく考える。下手したら死ぬか……
正直、死にたくはない。昔は死ぬことなんてどうでもいいと思ってた。どうせ私は誰からも必要とされないし、自分の居場所なんてどこにもないと思ってたから。だけど、今は違う。目標がある。私と同じかもしれない孤独を背負った王女を何とかしてやりたい。だから、死ぬわけにはいかない。
考えた末、私は結論を出した。
「いいわ。その人を呼んでちょうだい。ただし!心配しないで。絶対に死なない。私は必ず強くなるって決めたんだ。死んでなんかいられない」
「……決意は固いようだな。分かった。では、しばらくここで、基礎錬でもして待っておれ」
そう言うと神官のおっさんは踵を返し、城の中へと戻っていった。私は自分の発言を振り返ってみる。……うん、後悔なんてない。こんな私が、誰かのためになれるんだ、後悔なんてするもんか。
しばらくすると、神官のおっさんは、一人の男性を連れてきた。すらりとした長身で、髪は前髪が長め。地球だったらホストクラブにいそうな感じだ。顔も正直……整っている。美形と言っていいだろう。でもこんな奴がほんとに強いの?私の中で疑問が生じる。そんなことを考えていると、男が唐突に喋りだす。
「ちょっ、バルクのおっさん!ほんとに王女そっくりじゃん!かー、まじかー」
バルク?ああ、神官のおっさんのことか、バルクって名前だったんだ。ずっとおっさんとか神官って呼んでたから、名前気にしたことなかったなー。男は続ける。
「で?この偽王女に、俺が戦い方を教えればいいんでしょ?……実戦形式で」
そういうと、男は不敵な笑みを浮かべる。しかし……その目は決して笑ってはいなかった。いや、その目……何て冷たい目をしているんだろう。誰も信用していない野良猫のような……そう、私のような。
「そうだ。くれぐれもやりすぎてはならんぞ。影武者に死なれてしまっては、王女様がお嘆きになられてしまう」
「はいはい。わーってるって。おいあんた。名前は?」
「まず人に名前を聞くときは自分から名乗るもんじゃない?」
「けっ、お高くとまってるねー。まあいいや、俺はケルト。あんたと同じ闇魔法を使う。だけど、俺の闇魔法は一味違うぜ?で、あんたの名前は?」
「ルカよ。柏木ルカ。女だと思って手加減なんてしないでね」
「あんたを一目見りゃ分かるよ。それなりの修羅場を潜り抜けてきたんだろ?だけど気をつけろ?油断するとマジで死ぬことになっちまうからさ」
「分かってる。本気で頼むわよ」
お互いの自己紹介が終わると、バルクのおっさんが口を挟む。
「挨拶はこれ位でいいだろう。早速修行を始めてくれ。ケルト、くれぐれ影武者を……ルカを殺すでないぞ」
「保証は……できねーな。まあ、努力はするよ」
それだけ言い残してバルクのおっさんは城の中へと戻って行った。さあ、修行開始だ!やってやろうじゃん!