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傷が癒え、再び試合場に戻ると、王女が話しかけてきた。といっても王女は上の天覧席からだが。
「傷はもう大丈夫ですか?」
「ああ、やっぱ魔法ってすごいねー。私が元居た場所では考えられないスピードで直してくれたよ」
「あなたは、科学文明の星から来たんですものね。早くそういう話をもっと聞かせて下さい」
「そうできるように頑張るよ」
「正直、ルアンが負けるとは思いませんでした。彼はかなりの手練れでしたから……でも、次の相手は、ルアンと同じか、それ以上だと思って下さい」
「分かってるよ。強い順に来るんでしょ?覚悟はできてる」
「勝利をお祈りしています」
そんな会話をしている内に、次の相手が出てきた。今度は筋骨隆々の中年のおっさんだった。髪は短く刈り込んだ髪で、右の頬に大きな傷がある。歴戦の勇者ってわけか。勇者はさっきの試合を見ていたようで、私に話しかけてくる。
「お前が、王女様の影武者候補のルカだな。私はギブソン。第一護衛団の団長だ。今回の天覧試合に選ばれたのを、嬉しく思っている」
「わざわざ、自己紹介してくれてどーも。でもこっちの紹介の必要はなさそうね」
「ああ、名前も知っているし、試合を見ていれば、どんな使い手かも分かるからな」
「私、あんたがどんな使い手か知らないんだけど」
「それは、これから実戦で教えていく。心配するな」
へーへー。最初から手の内は明かさないってことね。しかし、それって私不利じゃない?まあ、喧嘩してた頃なんてそんなのしょっちゅうだったから別にいーけど。
「では、試合を始めて下さい」
王女から試合開始の声が掛かる。これを勝ち抜けば、晴れて王女はあの部屋から出て動き回れるようになるわけね。もっとも、私が傍にいるのが条件なんだろーけど。
この試合には、正直自信があった。さっきのルアンとの試合で私は死の淵を彷徨った。そこで自分の中の闇と邂逅し、自在に操れる闇の力が格段に上がっていたからだ。
とはいえ、さすがに今回は相手も強そうだから、先手必勝はやめておこう。私は慎重に相手の出方を見る。
「ふん。すぐに攻めてくると思ったが、少しは学んだようだな。では、こちらからいくぞ!」
ギブソンはそう言うと、何事かつぶやき始める。詠唱……ってやつか?いきなりの攻撃を仕掛けてこないのは、力を蓄えてるのか?いそんな憶測をしていると、突然、私に向かって風の刃が飛んできた!それを私は体を捻って躱す。風使いか!
「よく避けた。それでこそ、王女様の影武者候補だ。しかし、いつまで避けきれるかな?」
そういうとギブソンは、第二波、第三波と連続して刃を繰り出してくる。私はそれをぎりぎりで躱していく。でも、確かにあいつの言う通り、いつまでも躱しきれるもんじゃない。こちらも攻撃に転じなくては!
「リバースフィスト!」
相手をこちら側に引き付ける技だ。「くっ」ギブソンは何とか、引き寄せられまいと、その場で踏ん張る。そこに私は一足飛びに間合いを詰める。チャンス!
「フィスト!」
今度は相手を引き付ける力を利用した、打撃技を繰り出す。ギブソンの顔面に直撃……と思った刹那。
「ウォール!」
私の拳は、風の壁に跳ね返された!成る程、防御もお手の物か。いいじゃん。燃えてきたよ!
「グラヴィティ!」
私は周囲の重力を、15倍まで上げる。これにはギブソンもたまらず膝を付く。そこっ!
「シュート!」
膝を付いているギブソンの顔面を狙って、私は蹴りを繰り出す!しかし、私は魔法を同時に2つは使えない。シュートの瞬間、ギブソンの体が解放される。そしてシュートは、ギブソンの左手によってがっちりガードされた。しかし、私のシュートの威力も上がっている!そのまま吹っ飛べ!私は構わず足を振り切る!ギブソンの体は2~3m程吹き飛ぶ!追い打ちのチャンス!しかし!
「インパクト!」
吹き飛ばされながらギブソンは私に攻撃を仕掛けてきた。衝撃波となった風が、私を襲う!
「くっ!」
両手をクロスしてガードしたものの、追い打ちのチャンスは逃してしまった。
「なかなかやるな」
「あんたもね」
私たちは再び、対峙する。