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私が迷っていると、相手が体制を整えてくる。しかし、右の肩口を抑えている。さっき私のシュートで、上方から思い切り蹴飛ばしてやったから、相応のダメージはあるはずだ。ならば、一気呵成に攻めまくる!
私が作戦を決めて、実行しようとしたとき、若者は不敵に笑った。なんだ?
「ふふ、小手先の技ではどうも倒せそうもありませんね。ならば、本気で行かせてもらいます。死なないでくださいよ」
本気じゃなかったのかよ!まだ何か隠している技があるとすると、うかつには責められない。しかし、この機を逃すのも得策じゃない。どうする……?
ええい!迷っていても仕方ない!できる限りのことはやる!そうやって私は生き抜いてきた!
「トリプルボール!」
そんなことを考えている間に相手が先に仕掛けてきた。さっきの火球が今度は3つ連なって迫ってくる。私はそれをサイドステップで避けながら相手との距離を詰める。よし、射程距離圏内!
「フィスト!」
「策もなく同じ技の繰り返しですか。しかし、それはもう通じません」
私の闇の拳はすんでのところで躱され、代わりに相手の右手が私の腹部を抑える、と同時に。
「ボマー!」
私のお腹のあたりで爆発が起こる!
「うあああああ!」
あまりの衝撃に、苦悶の声を上げる私。爆発の勢いで相手との距離が開き、二度目が無かったのが不幸中の幸い。しかし、恐らくあばらの2~3本はいったな。そうか、火は爆発させることもできるのか。くそっ、どうする……
痛みが全身を襲う。膝を付き、呼吸が荒くなる。この勝負、長引けばどんどんダメージが広がっていって不利になる。そうなる前に何とかしなきゃいけない。
「もう、おしまいですね。ではとどめです」
相手は余裕の表情で、こちらに近づいてくる。何をする気だ?
「この技で終わりです。さっきも言いましたけど死なないでくださいね」
「フェニックス!」
若者がそう言うと、相手の体全体が炎に包まれ、まるで翼の生えた鳥のようになる。まずい!
「フェニックスストリーム!」
相手は一直線に私目掛けて、突進してくる。しかも速い!私は痛みを堪えながら横に飛び、直撃を避けようと試みる。しかし、
「無駄です!」
そんな私の動きを読んでいるかのように、相手は軌道修正をして、私を跳ね飛ばした。
空中を舞いながら、私は「負けたな……」と感じていた。「このまま死ぬのかな……」そんな気持ちもよぎった。今までの人生が走馬灯のように思い出される。独りぼっちだった子供時代。誰も仲間なんかいなかった学生時代。そんな今まで思い出したくもなかったことが次々に頭をよぎる。すると……
不意に私の中の闇が膨れ上がってくるのを感じた。思い出したくないことを思い出していくにつれ、どんどん私の中の闇が大きくなる。これは……?
そうか、神官のおっさんが魔法は頭の中のシナプスがどうとか言ってた。つまり私は図らずも嫌な思い出に触れることによって、自分の中の闇を増幅させたのだ。……この勝負、まだいけるかもしれない!
空中で私は体を反転させ、魔法を使う。
「グラヴィティ!」
先ほど放った技と同じだ。だが、今回はその威力が違う。とてつもない重力が若者を襲う。
「?うぐっ!こ、これは……一体」
そのまま先ほどと同じ要領で上空から、一気に若者に向かって急降下する。これが私の最後の一撃だ!
「はああああああ!シュート!」
私の一撃は、身動きの取れない相手に、直撃した。しかも先ほど攻撃した部分と同じ個所だ。威力は恐らく5倍以上にはなっているはず。それを相手はまともに喰らう。
「うああああああああああ!」
若者は吹っ飛び、そのまま動かなくなる。私は残った力を振り絞って、その場に立つ。
勝った。
「そこまでです。この勝負、ルカの勝ちとします」
王女が私の勝ち名乗りを上げる。
「誰かルアンを救護室へ運んで下さい。ルカも手当てを受けて下さい。傷が癒えたら、最後の勝負を始めます」
へー、あの若者ルアンていうんだ。そんなことも知らないで戦ってたんだもんな……
感慨にふける私に、救護班と言われる人たちが寄ってきて、私のダメージを負った部分に回復の魔法を掛ける。こんな魔法もあるんだなー。覚えたらもっと強くなれそうなんだけど。そんなことを思いながら、私は束の間の休憩を取っていた。