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「よろしくお願いします!」
若者はご丁寧な挨拶をしてくる。見た目は私と同年代の16歳~18歳位。髪は癖の強い栗色のクルっとした感じ。目もクリっとして中々童顔だ。正直これで護衛が勤まるのか……?と思ってしまう。まあ、それを言ったら、私も見た目は華奢で可愛らしい女子だからなー。と自分では思っているけど。
この装備を見る限り、恐らく私と同じ魔法の使い手だろう。さっきよりは慎重にいかないといけないかな。そんなことを考えていると。
「それでは、次の試合を始めて下さい」
王女から、試合開始の合図がある。
「それではいきますよ」
若者はご丁寧に告知をしてくれる。くるかっ!
そんな私の予想に反して、若者は私から距離を取り出す。すると右手をすっと私に向ける。
「ボール!」
刹那、火球が若者の手から発せられ、私に向かって飛んでくる。火の使い手か!
私は素早く横っ飛びに火球を避けると、若者と距離を詰める。
こちらの技は基本的には近づいたほうが有効的だ。恐らく向こうもそれを知って遠距離戦に持ち込もうとしているのだろう。
若者はなおも「ボール!」と火球を連射してくる。なんの!集団リンチになりそうなところを、一人で返り討ちにした私の回避能力をなめるな!
私は、さらに若者と距離を詰める。捉えたか!
「フレア!」
若者は今度は、火球ではなく燃え盛る炎をそのまま周囲に張り巡らす。あぶねっ。焼け焦げになるところだった。私は一旦退く。作戦変更!
今度はこっちから仕掛けることにした。私の闇魔法をなめるんじゃない!とは言え、ドームで視界を奪ってもあいつの周りに近寄れないんじゃしょうがないな……よしっ!
「グラヴィティ!」
私は、周囲の重力を重くする。あいつの周りには10倍くらいの重力が掛かっているはずだ。
「ぐっ……」
さすがに若者も苦悶の表情を浮かべる。しかし、あいつのフレアは解除されない。しかし……明らかに弱まってきた。いける!
「リバースフィスト!」
これは、フィストの応用で、闇の吸引力のみを使う技。私の差し出した右手に、あらゆるものが引き寄せられ、細かいものはつぶれていく。あいつの周囲の炎も例外ではない!
あいつの周囲を覆っていた炎は私の右手に吸い寄せられ、あいつの体が無防備になる。今だ!
一足飛びに、距離を詰めると私は技を繰り出す!
「シュート!」
さっきの兵士を倒した技だ。今回も行ける!……しかし!
「シールド!」
私が狙ったあいつの後頭部に、私の攻撃が届くことはなかった。あいつが発生させた、火の壁が、再び私とあいつを分かつ!
「くっ!」
凄まじい熱量に、またしても一旦引く私。さっきの兵士とは、レベルが違う。こりゃあ、長引くぞ。リバースフィストを使った時点で、グラヴィティは解除されている。私は二つの闇を一度に操ることはできない。というか練習してない。どうする……?動きは止められる。射程圏内にも入れる。しかし、攻撃が……届かない!
「ふう、なかなかやりますね。でもこれで終わりという訳ではないでしょう?」
くそっ、余裕をかましてくる相手は嫌いだ!どうする……考えろ、活路はある!
「じゃあ、またこっちから攻めさせてもらいますね。ボール!」
再び火球が飛んでくる。くそっ避けてるだけじゃじり貧になっちゃう。……何か……そうだ!
「リバースグラヴィティ!」
これは、グラヴィティの逆、自分の上方に重力場を置き、高く飛べるようにする技。これで私ははるか高くに飛ぶ!
「何っ!」
予想外の動きにあいつも驚いたのか、二の矢はこない。チャンス!
私があいつの真上に来た瞬間に。
「グラヴィティ!」
一気に下に重力を移動させ落下速度を増す。そして、あいつが重力で動けなくなっている間に!
「はああああ!シュート!」
私は、落下しながら、あいつの体目掛けて、思い切り闇の力をまとった蹴りを入れる!
「うわあああああっ!」
若者の体は吹っ飛び、動かなくなる。
勝った!そう思った時……。
ゆらり……あいつは立ち上がった。
「やりますね……。ちょっと予想外でしたよ……。」
くそっ、これでも倒れないか……。どうする?