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試合場は、城の中庭にあった。四方を壁で囲まれ、それぞれ対面に扉が付いている。私は東側の扉からその試合場に入場した。
神官のおっさんが私に忠告してくる。
「対戦相手は3人だ。それぞれが相応の手練れだということは前にも言ったと思うが、それはつまり、油断すると死ぬ、ということだ。もちろんお主は大事な影武者だから相手もそれを分かって手加減してくるとは思うが、万が一ということもある。決して死ぬではないぞ」
うーむ、死ぬなと言われても……もうちっとまともなアドバイスはできんのかい!と心の中で叫んでみるが、まあこいつはこういう奴だ。相手も手加減してくれるてるんなら、まあ死ぬことはないだろう。だけど……できれば勝ちたい。勝って、あの私そっくりの王女をあの部屋から出してやりたい。
私が人のために何かをするなんて、どの位ぶりだろうか……
そんなことを考えていたら、西側の扉から、甲冑をまとい大ぶりの剣を持った、いかにも兵士っぽい人間が出てきた。
そいつは不遜な感じで私に話しかけてくる。
「お前が王女様の影武者か……なるほどそっくりだ。だが、この世界に来てまだ幾らも経っていないお前に王女様の警護を任せるわけにはいかん。悪いが、お前の試合は俺で終わりだ。帰って修行をやり直しな」
……なるほど、人を甘く見ている上に、マウント取らなきゃ気が済まないタイプかー。喧嘩相手によくこんな奴いたなー。
そんな相手をいつも速攻でぼこぼこにしてきたんで、別に何とも思わねーなー。ていうかもう始めていいのかな。先手必勝が私のセオリーなんだけど。
「御託はいいからさっさと始めましょ。あんたの相手ばっかりもしてられないのよ、こっちは」
「まあ、待て。王女様がお着きになられてからだ。まあ、一分も持たんだろうが」
そうか、王女の天覧試合だっけ。確かに試合場の上に高貴な人が観戦する用のベランダのようなスペースと、仰々しい椅子がおいてある。
……数分後、王女が表れて、大きめの椅子にちょこんと腰掛ける。そして……
「お待たせしました。それでは試合を始めて下さい」
待ってました!私は王女の言葉が終わるかどうかのうちに、相手の方に駆け出す。距離にして約5m!詰めるのは容易い。
「ふん、無策で向かってくるとは馬鹿な奴め!我が剣の錆になるがいい!」
そういうが速いか、兵士は私に向かって剣を振り下ろしてくる。私はそれを横っ飛びで躱す。つーか、殺す気満々じゃねーか!
まあ、それならそれで、こちらも容赦しない。修行の成果を存分に試そうじゃん。兵士は剣を持ち直すと、なおもこちらに振りかぶってくる。
「ドーム!」
私は、兵士の周囲を闇で囲んだ。これで、相手には私の姿は見えないはずだ。
「なっ、闇魔法だと!」
どうやら事前情報を知らなかったのはあちらも同じらしい。女と思って甘く見たツケが来たね。私はそのまま、相手の背後に回ると、足に力を込める。
「シュート!」
叫ぶが速いか、私の足は闇に包まれ、そのまま相手の後頭部に一撃くらわす。甲冑の隙間を狙ったハイキックだ。
「ぐはっ!」
悲鳴を一つ上げると、兵士はそのままその場に勢いよく倒れ込んだ。私はドームを解除する。
「あら?兵士さんの周りが暗くなったと思ったら、もう勝負がついてましたのね。いいでしょう、この勝負、柏木ルカの勝ちとします」
王女も状況がよく分かっていないようだったが、私が勝利したことは理解したようだ。私は勝ち名乗りを受ける。
すると、神官のおっさんが東側の扉から出てきた。
「見事だったぞ。武器を持った相手にひるむかと思ったが、全くそんなこともなかったな。やはり相当の修羅場を潜り抜けてきたと見える」
「まーね。あいつの実力がどの程度か位、最初のセリフで分かったよ。でも、仮にも王女を守ってんだから、もう少し骨がある人じゃないと務まらないんじゃない?」
「案ずるな。次からの二人はお前の期待に添える強さを持っているはずだ。今戦ったのは、護衛になりたての者だったからな。お前の実力を測るテストも兼ねているから、実力も徐々に上がっていく仕組みだ」
「なるほどねー。じゃあ、次はもっと気合を入れなきゃだめか。相手も魔法を使ってくるの?」
「原則として、相手の戦力はわしからは教えることはできん。お主が戦いながら見抜いていくしかないのだ」
「ちぇっ、けちくせーの。まあいいよ。どんな相手でもどんどん呼んできてよ。こっちは、久しぶりに喧嘩できて楽しいんだからさ」
そんな話をしていると、王女が次の対戦相手を呼ぶ。
「それでは、次の方どうぞ」
何か、オーディション番組みたいだな……
私が余計なことを考えていると、次に出てきた相手は、私と同じ位軽装の若者だった。