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 神官のおっさんに連れられ、私は城へと戻る。考えてみれば、私もこの一か月間、自分の部屋と修行場の往復しかしていない。でも、王女はもっと狭い世界で暮らしているのだ。私にエミリアがいるように、誰か友達と言える人間はいるのだろうか。もしそうでなければ……孤独すぎる。


 城門を潜り、いつもならば自分の部屋へと向かう道を、今日は違う方向へ曲がっていく。それにしても城って広いよなー。なんてことを思いながら、ぐるぐると歩いていく神官のおっさんについていく。やばい、一人じゃ帰れないかも。そうこうしている内に、衛兵が護衛している扉の前に着く。


 「ここは?」


 私はシンプルに神官のおっさんに聞いてみる。まあ、想像はつくんだけどさ。


 「ここは王女の部屋の入口だ。今から王女に会ってもらう。試合前に挨拶をさせようと思ってな」


 想像通りの答えが返ってくる。しかし……緊張するなー。むん!私は一つ気合を入れる。


 「私だ。王女の影武者を連れてきた。通してもらおう」


 神官のおっさんは護衛にうやうやしく命令する。


 「かしこまりました。どうか王女に非礼の無いようにお願いします」


 「分かっておる」


 何だかなー。そんなに私が無礼に見えんのかな。まあそりゃただのヤンキー女だからね。しょうがないっちゃしょうがないか。まあ、気い位使いますよ、ええ。その位の常識は持ち合わせてますって。

 と心の中で一人会話をしていると、神官のおっさんが扉をノックする。


 「……どうぞ」


 扉の向こうから、聞き覚えのあるような、ないような声が聞こえる。


 「失礼します」


 神官のおっさんが扉を開け中に入る。続いて私も後ろからひょこひょこ付いていく。


 「王女様、こちらが以前お話しした、影武者候補の柏木ルカです。本日の午前試合の前にご挨拶にお連れしました」


 「どうもー。よろしくっ……!?」


 私は目を疑った。目の前にもう一人の私がいるのだ。いや、正確には髪の色が違う。私は黒髪(少年院入ってたからね)だが、王女の髪の色は眩いほどの金髪だった。それに着ている物も違う。私は、動きやすい修行用の麻でできた簡素な服だが、王女は映画かアニメでしか見たことのないような、赤色のドレスを身に纏っている。足元のスカート部が大きく膨らんでいて、いかにも歩きづらそうだ。


 しかし、そんなことより、目を引いたのは、彼女の後ろに後光のような光が見えることだった。それは、ランプの明かりなどではなく、間違いなく王女自身から発せられているものであった。


 「あ、あのー。柏木ルカです。よろしくお願いします。」


 何とか挨拶っぽい言葉を口にする。


 「そんなに緊張なさらなくても結構ですわよ。ルカさん。私はソニア。ソニア・エスペリオ。今日の試合を心待ちにしておりました」


 やはり、どこかで聞いたことのある声で自己紹介してくれる、私そっくりなソニア王女。どこで聞いたんだろう……あっ!


 考えた末気付いた。私の声だ!自分の声を録音して聞くと別人の声に聞こえるように、ソニア王女の声は私にそっくりなのだ。それが、普段自分で聞いている自分の声を違うから分からなかったけど……声まで一緒かー……。でも気品では月とすっぽん、野良犬とペルシャ猫位の違いが見て取れる。


 「あ、ありがとうございます。頑張ります」


 私は何とか返答する。


 「あなたが勝って下されば、ようやくこの部屋から出ることができます。ああ、待ち遠しい。早く外の世界を見たいわ」


 やはり、王女はこの部屋での暮らしに飽き飽きしているらしい。じゃあ、やっぱり試合に勝って、自由にさせてあげないと。自分と同じ顔をしている人を、無下にはできない。


 「見ていて下さい。修行もしましたし、それなりに自信はあります」


 「うふふ、頼もしいですね。それでは、また、試合場でお会いしましょう」


 私と神官のおっさんは挨拶を済ませると、そそくさと王女の部屋から出ていく。正直、神官のおっさんに聞きたいことが山ほどできた。だが、そんな疑問より驚きが先に立って、考えがまとまらない。まさか、まあ分かってはいたけど、本当にそっくりなんだ……


 「よし、それでは試合場に向かうぞ」


 神官のおっさんに連れられて、また広い城内を歩いていく。その道すがらいくつか聞いてみる。


 「ねえ、何で王女の後ろに光が見えたの?」


 一番気になっているところから聞いてみる。


 「王女は光魔法の相当の実力者だ。普通にしていてもそれが漏れ出てしまい、すぐに居場所を察知される」


 「あれは魔法なのか。でも相当の実力者ってことは、それを隠したりもできるんじゃないの?」


 「それは可能だ。だが、王女の悪い癖で、楽しいことがあると、すぐに光を体から発してしまう。王女が部屋から出られない所以だ」


 「なるほど、目立つとか会えば分かるってのはそういうことね」


 色々と合点がいった。確かにあんなの敵が見たら、格好の標的になるだろう。でもやっぱり部屋の中は可哀そうだ。何としても試合に勝たなきゃ。


 そうこうしている内に私たちは試合場に着いた。


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