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「あーあ」
私は一人ため息をつく。
「またここに来ちゃったな」
ここは何もない部屋。中央で座っている私。周囲を見渡してあるものは、壁、床、そして仕切りも何もないトイレと床に穴が開いたような手洗い場だけ。ここは少年院の中で。そしてその中でも暴れたり大声を出したりして、問題を起こした者が入れられる保護室という場所だ。
「もう何度目だろう……」
私の名前は柏木ルカ。ここ、群馬女子学園という名前の女子少年院に入れられていることからわかると思うけど、不良だ。それも並みの不良じゃない。女子の暴走族であるレディースを数百人束ねた総長であり、気に食わない奴はぼこぼこにし、金がなくなればカツアゲをし……ほんとに私がやってない犯罪って人殺し位じゃないかなと思う。
そんな日々は長くは続かない。分かってはいたけどね。ある日警察に捕まった私は、少年鑑別所に入れられて、そこで家庭裁判所の審判を受け、少年院送致の決定を受けた。でも……
「別に何とも思わなかったな……」
その時を思い出しても、心に浮かぶのは、そりゃそうだよねっていう感情と、審判に立ち会った両親のゴミを見るみたいな目で私を見る映像だけ。
私の親は立派な公務員で、官僚とかいうものらしい。そんなエリートからしたら、私みたいな存在は家族の恥だったのだろう。小さいときはそれなりに期待だれていたようだけど、自分の思うようにいかないと、すぐに手を出してくる毒親だった。私がこんな風になったのもあいつらのせいでもあるかも知れないと思うこともある。でも、そんなこと言いだしても詮無いことだもんね。気にしないことにしている。
「あー、やっぱりここに来ると、昔のことを思い出しちゃうな……」
私がこの保護室に入ったのは初めてではない。常連と言ってもいいだろう。大人しくなればここから出してもらえるけど、出てもすぐ問題を起こして逆戻りだもんね。まあ、いいんだ。知ったような口を利く教官達に分かってもらおうとも思わないし、理解されたらされたで気持ち悪いもんね。
「さて……」
私は立ち上がると、分厚い扉の前に行く。
「とりあえずやっとくか」
私は、足に力を入れると、思い切り扉を蹴っ飛ばした。それから大声で叫ぶ。
「おらぁ!出せこらぁ!」
そんなことをしばらく繰り返し、壁に寄りかかって座る。これはすぐにここから出されないために私がいつもやることだ。せっかく一人になれたんだから、もうしばらくは居させてもらわないとね。少年院も人間関係めんどくさいし、誰からも干渉されない時間は貴重なのだ。大人しくなったと思われちゃうと、すぐ出されちゃうからね。
さて、やることやったし、ひと眠りするか……そう思った時だった。
私の頭の中に声が聞こえてきた。
「お前は選ばれた。」
「ん?」
周りを見渡しても誰もいない。当然だ。ここはそういう場所なんだから。
「気のせいか」
とりあえず、気にしないことにして、寝ることにする。すると、また頭の中に声が響く。
「同意するか?」
気にしない。気にしない。
「同意するか?返答せよ!」
だんだんうるさくなってきたな。何かそういう病気にでもかかってしまったのだろうか。
「同意するか否か!選択せよ!」
あー、もう!うるさい!
「何でもいいから好きなようにしてよ!」
つい叫んでしまった。
「よし、それでは同意したとみなす。」
頭の中の声はそれから聞こえなくなった。ようやく寝れるよ。私は横になって目を瞑る。
次に目を開けたとき、私は見知らぬ場所にいた。