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転生したらバーチャルYouTuberだった件www

作者: 赤坂まさか

 ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な美少女に変わってしまっているのに気づいた。


 それはまた別のお話。


 街はしだいに春まって、薫香(くんこう)を運ぶ生ぬるい風が鼻腔をくすぐる、昼下がり。道行く人々はいつもと同じ顔で、だけど心なしか歓びを(たた)えた呑気(のんき)をはらませている。

 過ぎる日々はデイ・トレードのように浮気で、どこか(せわ)しない。

 私は近所の陰鬱(いんうつ)な繁華街で、エンゼルフレンチを頬張りながら中空(ちゅうくう)を眺めていた。

「赤坂君、赤坂まさか君」

 群青色のローブで身を隠したその老人は、パルメザン・チーズの様に(しゃが)れた声で私の(なめ)らかな鼓膜をぶるぶると震わせた。

「なんですか、御仁。私は熱力学第二法則について検討をしていたというのに」

「そんなもの、ウィキペディアでも読めばよかろ。それよりもじゃ」

 老人は、おぼつかない手つきでぼろぼろの牛皮のポシェットをひっくり返した。ポシェットからは薬莢(やっきょう)、シャネルの5番(ナンバー・ファイヴ)、万馬券、ハンドスピナー、ガマの油、切り分けたレモンの片方などがぼとぼとと地面へと落下した。それらは石のタイルの上で独楽(こま)のように好き勝手な方向へ回転していた。非常に間抜(まぬ)けだった。

 老人は暫し逡巡(しゅんじゅん)してから、ひらひらと回転を続ける万馬券へ手を伸ばした。彼に触れられたそれの周囲は青白く(ほの)かに灯った。

 彼は万馬券を半ば奪うように掴み取ると、私に投げやりに(そしてうやうやしく)押し付けた。

()面を、()面を見たまえ」

 私は言われたままに裏返した。そこには、ミミズののたくったような筆致でこう書かれていた。


 #あそ部はいいぞ


 やれやれ。私はため息をついた。


「御仁。一体全体なんなのですか、この『あそ部』って」

「ご存知、ないのですか!?」

 老人は眼球よりも大きく眼を剥くと、(へび)のような舌でガマの油をひたひたと()めながらこう呟いた。


 《ウィンガーディアム・レヴィオーサ》


 ――ふと気付くと、そこはバーチャル空間だった。


 その空間はどこまでも白いようで、しかし黒いようでもあった。


 私は(驚くべきことに)一瞬にして自分がバーチャルYouTuberであるということを認識できた。まるで()()()()()()()()()()()()()に。


 次にするべきことは決まっていた。それは、この世界で『テッペン』を獲ること。それは啓示だった。


 このバーチャル空間には上下が存在しない。存在しているのかもしれないが、(あまね)くシームレスなので認識できないのである。

 チャンネル登録者やフォロワー数などの指標こそあれど、上下がないので本質的にはみな同等なのである。


 と、なれば。


 どうすれば『テッペン』を獲れるのであろうか。


 その答えもまた、啓示の如く脳天に直撃した。


 ――私がかつていた現実世界リアル・ワールドでは、だれもが地面に足をつけて歩いていた。総理大臣もテロリストも、神もだんご虫も。そこでは(本質的な意味で)上下などないのである。

 バーチャル世界では、バーチャルYouTuberである私自身(外側)と、私が生み出すコンテンツ(内側)、それらに付随する「物語ストーリー・テリング」が成す意味群と、それだけ。

 チャンネル登録者の数はYouTubeというひとつの物差しでその意味群を測ったものだし、フォロワー数はTwitterというプラットフォームにおいてのみ意味を成すベクトルでしかない。


 それでは、私や私たちを評価できるものは何?


 私はその真理を獲得した。


 ――しかし、それを記すにはこの余白は狭過ぎる(笑)

【パロディ元ネタ一覧(敬称略)】

・フランツ・カフカ『変身』

・森見登美彦(文体)

・米津玄師「Lemon」

・「ガルパンはいいぞ」

・村上春樹

・「マクロスF」

・J・K・ローリング「ハリー・ポッター」シリーズ

・川端康成『雪国』

・フェルマーの最終定理

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章量は少なめで内容もパロディではありますが、そこに「らしさ」があって良いです。 なろうの投稿もそうですが、4月1日のためによくこれだけのネタを詰め込めたなーと。 [一言] 感想が遅くな…
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