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7話『特訓開始』

 次の日は牛村も来ず睦花と共に平穏な一日を過ごし、約束の日へ。


 午後七時半、母さんに遅くなると言い残し家を出る。五分と掛からず目的地である中央公園に辿り着き、座って牛村を待とうと公園のベンチに近付くと、既にその待ち人はそこに腰かけていた。


「よう」


「あっ、こんばんは! 思ってたより早かったですね」


「そりゃこっちの台詞だ。まあ遅れるより断然好ましいけどな」


 とは言っても、どの道八時になるまでは何もできない。この公園を集合場所に選んだのは、公園と隣接するグラウンドがあるからだ。

 野球をするのにちょうどいいサイズのグラウンドだから、思いきり暴れても周囲を傷付けることがない。


 そういう理由で選んだのだが、このグラウンドは八時まで少年サッカークラブが使用している。だから集合時間を八時にした。

 つまり八時になってサッカークラブが消えるまでは何もできないということだ。


 とりあえず時間までベンチに座って風景を眺めながら時間を潰していると、牛村がマシンガンの如く話しかけてきて、もう動く前からグロッキー状態になっていた。

 やがて八時を過ぎ、サッカークラブの連中が退散したところでグラウンドに移動する。


「それで、実戦形式って言ってましたけど具体的にどうすれば?」


「とりあえず全力で来い。悪い所があれば指摘する」


 人に見られないようお互いに【死式・霊装着衣】を使って黒衣を纏う。

 次いで【死式・(しに)(がま)顕現(けんげん)】によって自身の身長と同程度の鎌を出現させた牛村だったが、そこで一つの疑問が口に出される。


「マスターは鎌を出さないんですか? そういえばあのときも鎌を出してませんでしたけど」


「出さないんじゃねぇ、……出せないんだ」


「ど、どういうことです? 死鎌と霊装は死神の根幹ですよ? 出せないなんてそんなこと────、あっ」


「ああ、俺はハーフだ。だからかは知らんが生まれたときから鎌を出せなかった」


 恐らくは半分しか死神ではないことの表れ。死鎌と霊装の二つがあってこそ死神を成すのであれば、その半分である霊装しか使えないのは道理。

 身を守るための霊装と命を刈り取るための死鎌。謂わば防御力と攻撃力。どちらか一方が欠けた時点でその死神の強さは半減する。


「それなのにあの強さですか……」


 確かにただの死神だったら落第点かもしれないが、俺にはハーフならではの強みがあるからな。その強みと鎌が出せないのでイーブンだ。


「とりあえずやるぞ。鎌がねぇからって遠慮すんな。全力で攻撃死式でもなんでも撃ってこい」


 その全てを叩き伏せてやる。


「んっ、分かりました! 行きます!」


 少しだけ迷いを残したような表情で頷き、鎌を構える牛村。俺を心配しているのだろうか?

 安心しろ、心配する余裕なんてぶっ飛ばしてやるよ。



「おらッ、どうした? その程度の動きでよく追獲使なんてやろうと思ったな!?」


「くっ! 【死式・三天】!」


「おせぇ、【死式・加速ノ印】」


 こちらに向かって斬撃を飛ばそうとする直前で、加速して牛村の懐に入り込み殴り飛ばす。地面をごろごろと転がりすぐに立ち上がる牛村だが、もう現時点で十数回は殴り飛ばされている。


「後出しで対応できるだけの力がねぇなら、相手の動きを見てから動くな! ある程度予測しながら先手を取れ!」


 ただ、思った以上に教え甲斐がある。何度転んでも立ち上がるからか、向上心に満ちたギラギラした目で見据えられるからか、はたまた別の要因か。

 ティーチングなんて柄じゃない俺がここまで熱くなってしまうぐらいの何かがこいつにはある。


「もっかい行きます!」


「初動が既に遅い! 強化死式をしっかり意識しろ!」


 ぐっと腰を屈め地を蹴って一気に迫る牛村を一蹴。

 強化死式は他の死式と違って式を口に出さなくていい。代わりにどこを強化するか意識する必要がある。

 その意識した部位に黒衣を通してエネルギーが行き渡り、強化されるという寸法だ。


 今回のようにもっと速く移動したい場合は当然足。強化死式をどれだけ強く意識するかによって速度の桁が変わる。


「強化死式を意識…………。難しいですね」


「この間長身の死神と一閃を撃ち合って押し負けたろ。肉体的な部分でお前は劣ってたが強化死式で補強してれば最低でも相殺できたはずだ」


 もちろん相手が長身のあいつレベルだったらの話だが。もっと強い死神が相手だったなら、ちょっと補強した程度じゃあ変わらず押し負けていただろう。


「エネルギーをしっかり足元に行き渡らせるイメージだ。鎌を振るうときは腕に切り替える。そうやって常に状況に応じて強化する場所を変えろ」


 牛村は身体の力を抜いて少し目を瞑る。俺の言葉を脳内に浸透させているのだろう。そして目を開いて、再び腰を屈めた。

 次の瞬間、俺の首元に鎌が振るわれる。一瞬で距離を詰めた牛村による横薙ぎ。


 上体を思いきり後ろに逸らしてそれを避け、逆立ちするように両手を地面に付けて下半身を持ち上げる。

 その勢いのままに牛村の鎌を持つ手を蹴り上げると、鎌は牛村の手を離れ真上へ飛んでいった。

 一回転して着地し、落ちてきた鎌を掴む。


「うー、マスター凄すぎません?」


「お前が愚直すぎるんだ。……最初と比べれば遥かにマシだけどな」


 鎌を手渡しながら、明後日の方向を見ながら呟く。

 褒められたと勘違いしたのか牛村は頬を赤く染めた。


「えへへ」


「というか、お前創作死式は何かないのか? 記憶を消すやつしか見たことないけど」


 エネルギーの残量、技術、純粋な肉体の強さ、それら以外に死神との戦いで優劣を分けるものといえば創作死式に他ならない。

 全ての死神が同じものを使える武装死式、攻撃死式、強化死式と違って、創作死式は個人で持っているものが違う。

 俺の加減速ノ印や光手ノ砲も創作死式だ。


「あー、あるにはあるんですけど全部戦闘向きじゃないんですよね。追獲使になると与えられる三つの追獲使専用の死式しかありませんから。

 人間の記憶を消す死式と、人間と死神の魂を見分ける死式、捕縛した死神を死神界に転送する死式」


 記憶を消す死式は人間専用なのか。戦闘時に使えれば強いと思ったんだがな。

 しかし三つ?


「三つしかないなら他の死式も刻むこともできるだろ」


 父さんが言うには基本的に死神が魂に刻み込める創作死式の数は四つ。念のためにいつでも新しい死式を刻めるよう、一つは空きを作るのが基本らしいし俺も空けてはいるが……。

 手っ取り早く強くなるなら戦闘向きの創作死式を入れた方がいいだろう。


「えーと、もしかしたら生まれも育ちも人間界のマスターは知らないかもしれませんが、創作死式って基本的に一家相伝なんですよ。

 創作と名は付いてますが、創作するのって相当難しいですし。なので親から伝えられた式を魂に刻み込むんです。

 当然、他の死神から優位に立つために自家の創作死式の式を教えることなんてありません」


 なるほど、確かにそれは知らなかったが……。考えてみれば加減速ノ印は俺も父さんから教えてもらった。

 光手ノ砲に限っては俺が自分で創作したけどな……。だからあんな超短射程の欠陥死式になってしまったんだが。

 まあ俺の創作失敗談は置いといて。


「何故それを今?」


「だからまあ教えてくれる人がいなかったって話ですよ。私のお父さんは私が生まれる前に死にましたから」


 お母さんの方は戦えるような死式じゃなかったんですよねー、と続いた言葉は聞こえたもののすぐに意識から薄れていった。

 こいつの父親も、死んでいた、のか。死神界で死んだということは恐らく、死神に殺されたのだろう。俺と似たような境遇……?

 ということは、


「死神に復讐するために、追獲使になったのか?」


「えっ? いやいや、復讐なんてそんな気ちっともありませんよ。だいたいそんな理由だったら追獲使になるより、死神界で荒れに荒れて大暴れしていた方がよっぽどそれっぽいじゃないですか」


「復讐心はないのか……?」


「そもそも、その復讐相手はもう死んでますしね」


 あはは、と明るく笑う牛村の顔に暗いものは感じられない。言っていることは本当、ななのだろう。


「まー、ぐだぐだ話すのもここまでしておいて! 続きをやりましょう! 今日だけってことは残り時間もそんなにありませんし」


 牛村はそう言うと一定の距離を空け、鎌を構え直す。

 俺もそれに答えるようにして両の拳を強く握りしめ構えた。

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