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10話『アレ』

「私以外の下位追獲使が全て殺されたらしいんです」


「はっ?」


 下位とはいえ追獲使だろ? こいつは明らかに新入りだろうから弱いのもまだ理解はできる。

 でも下位が全員新入りってわけではないはずだ。なら他の奴らはある程度死神と戦い生き延びられるぐらいには強くないとおかしい。


 ……つまり、下位の追獲使程度なら殲滅できるぐらいには強い死神が、その大量脱走の中に紛れてるってことか。

 考えたことを全て口に出して尋ねると、牛村は「だと思います」と肯定の意を示した。


「本来それぐらい強ければ死神界でいくらでも役割があるんですけどね。逆に言えばそういう理由で滅多に強い人は人間界に降りてこないから、下位追獲使が一番に矢面に立てるんですけど」


「じゃあさっきの奴は、もしかして」


「はい、中位の追獲使です。下位の殲滅を受けて、今度は中位四名全員が降りてきたみたいですね」


 半ば答えを確信していた質問をぶつけると、やはり予想通りの答えが返ってくる。

 追獲使を殺せば次の追獲使が来るというのはこれのことか。確かに下っ端がやられたんだったら、より強い者を出してくるよな。

 いや、今は追獲使の話はいい。

 問題は、


「下位の奴らを殺した死神が何のために降りてきたのか」


「ですね。全ての追獲使を潰しているところを見るに、見つかったから殺したのではなく自ら殺しに行っているのでしょう」


 それもわざわざ人間界で、な。屑が傍迷惑な真似しやがって。

 本当なら探しに行って自らの手で始末したいところだが、特に急死大量発生みたいなニュースも上げられていないし、探すのは難しいだろう。


 それに中位の追獲使も来ている。下手な真似をして目を付けられるのは勘弁だ。

 と、そこで牛村が両手を胸の前で合わせ上目遣いに、猫撫で声を出す。


「そこでお願いがあるんですけどー」


「却下だ、帰れ」


「まだ何も言ってないじゃないですか! お願いというのはですね、私が件の死神に狙われても問題ないようにまた特訓を付けてほしいんですよ」


 却下したにも関わらず強行突破でお願いとやらを口にしやがった。

 しかもまたこれか……。永続懇願地獄なんてもう二度と見たくない。過去を思い返して辟易していると、タイミングよく喫茶店の扉の鐘がなる。


「いらっしゃいませー。おら、客も来たからとっとと帰れ」


「まだ注文も来てないのでいますよーだ」


 ガキみたいに舌を出してそうのたまう牛村に、思いきり拳骨を食らわしたくなるが客も来たことだしやめておこう。

 しかし、また珍しい客がきたな。わいわいと騒ぎながらテーブル席に座った二人の女性客へ目をやる。


 片方は長い金髪の女性。薄らと化粧をしピアスを付けてるところなんかを見るに、恐らくは大学生だろう。

 もう片方の茶髪ショートの女性客も似たような装飾を施しているので同じく大学生か。

 カウンター席から出て二人にメニュー表を差し出すが、二人をそれを見る間もなくオーダーを口にした。


「ねぇねぇ、ケーキとかある?」


「あー、ショートケーキしかありませんがよろしいでしょうか?」


「じゃあそれと、エスプレッソを二つずつ! でいいんだよね、ミカリン」


「うん」


 ミカリンと呼ばれた茶髪の女性が頷くのを見て、俺は注文票にオーダーを書き記す。


「分かりました。少々お待ちください」


 厨房へ向かいショートケーキ二つという旨を伝える。


「おっけー。ちょうどナポリタンが出来たから牛村ちゃんのとこに運んどいて」


「おう」


 ナポリタンの乗った皿を差し出され、それを受け取りその場を去ろうとすると後ろから睦花が思い出したかのように言う。


「ケーキといえば、明日は正伍の誕生日だね」


 確かに明日、八月七日は俺の誕生日だ。そして父さんの命日でもある。こんな時期に死神のクソッタレ共が現れるというのはなんて皮肉か。

 わずかな苛立ちを噛み殺し、自身の誕生日を如何にも忘れていた風を装う。別に気恥ずかしいわけではない。


「そういえばそうだったな」


「いつも喫茶店のデザートは呉奈さんが作ってくれているけど、せっかくキミの誕生日なんだ。今回はボクが作ろう」


「へぇ、お前ケーキとかも作れるのか」


「んー、ケーキ自体は初挑戦だけど基本に忠実に作ればどうとでもなるさ。まあ楽しみにしておいてくれよ」


 笑みを浮かべ自信のほどを匂わせる睦花に、精々失敗しないようにしろよと言い残し、ナポリタンを牛村の元に運ぶ。


「おら、とっとと食って帰れ」


「えー、そんな急かされても困りますよ。あっそうだ。それならマスターが私の口に運んでくれれば早く食べ終わるのでは? 俗に言う、あーんってやつで!」


「馬鹿か。てめぇの下顎蹴り飛ばすぞ」


「…………もしかしてマスターを煽ってた方が頼み込むより早く実戦訓練に持ち込めるんじゃあ」


「ん? なんか言ったか?」


「いーえ、なんでもないです。多分ガチバトルになるだけですね……」


 牛村が何かぼそぼそ呟いていたような気がしたので尋ねるが、別に俺に向かって何かを言っていたわけではないようだった。

 ならいいかと放置してカウンター内に戻ると、女子大生二人の会話が耳に入った。つーかさっきから思ってたけど会話の音量が大きすぎるんだよ。


「そういえばさぁ、この前言ってたアレってどうだったの?」


 アレて。アレがどれなのかちゃんと言ってやらないと分かんねぇだろうよ。


「あーアレね。マジだったらしいよ。つい最近肝試しに行った知り合いも言ってたし」


 なんで分かるんだよ、おかしいだろ。お前らの中でアレが示す話は一つしかねぇのか。


 心の中でツッコミを入れながら牛村にナポリタンを運ぶ。もう一度カウンターに戻ってケーキを二皿持って女子大生の元に運ぼうとすると、先程の会話の続きが聞こえてきた。


「でもさぁ、怖くない? 誰もいないところから変な金属音が聞こえてくるとか」


「あれじゃない? ポンターなんたらとかいうやつ」


「ポルターガイストだと思います」


 残念ながら残念な会話に口を挟む。ケーキを二人の前に置くと、茶髪の女性が「それそれ!」と大げさに手を叩いて反応した。


「もしかして店員さんも興味ある? なんだったらこれからお姉さん達と一緒にぃ」


「いえ、」


 特段興味もないので否定して業務に戻ろうとしたそのとき、突然背中に重みと柔らかみが伝わってきた。


「私は興味あります! 詳しく教えてください!」

しばらく不定期になります。申し訳ありません。

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