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1話『ハーフ』

「なんでこの俺様が、こんな小僧にやられかけているんだ!?」


 黒衣を纏う大柄な茶髪の男が、暗がりの中、街灯の光を背に叫ぶ。


「くそっ、【死式(ししき)三天(さんてん)】!」


 大男はその大きな図体よりももっと巨大な、目算でおよそ二メートルはあろうという大鎌を振るう。可視化された白い斬撃が二度、三度、と俺の元に迫る、が、その全てを軽やかに回避して、大男に近付くため前へ。



 死式。それは死神の扱う魔法のような力。大男の使う大鎌や黒衣のような装備を出現させる武装死式、鎌に式が刻まれた攻撃死式、黒衣に式が刻まれた強化死式、魂に式を刻み込んで取得する創作死式。

 大きく分けて四種のそれは、死神同士の戦いにこそ用いられる。言わずもがな目の前の大男は、人の魂を貪り食う、人間を餌としか思っていないクソッタレな死神。



 閑話休題。

 俺は、ただでさえこの狭い路地では扱い辛いだろうあの大得物が更に振るいにくくなるよう、大男との距離を詰めるため、奴の攻撃死式を避けながら前に進む。

 大男との距離が三メートルを切ったところで、男は唐突に鎌を振るうのをやめ今までとは違う死式を口にした。


「【死式・飛空(ひくう)】」


 途端に男の身体が浮き始め、あっという間に十数メートルもの上空で滞空しこちらを見下ろす。大男が表情に露骨な安堵を浮かべているのは、恐らく空から先程のように斬撃を飛ばせばワンサイドゲームになると思っているからなんだろうが……、あめぇよ。

 ぐっと腰を屈めて足に力を入れ、口を開く。


「【死式・加速(かそく)(いん)】」


 足元に複雑な模様の描かれた円が浮かぶと同時に地を蹴った。

 瞬間、目前に迫るのは男の顔。一秒足らずで上空にいた大男に肉薄した俺は、全身を捻りながら勢いのままに大男を蹴り抜いて地に叩きつける。大男はその巨大な図体もあってか、派手な音を鳴らしながらアスファルトの地面に大の字でめり込んだ。


 その様を今度は俺が見下ろしながら、重力に従って地に降り立つ。

 大男の前に立つと、小さな呻き声が聞こえてきた。


「貴様も……、死神だったのか……!!」


「テメェと一緒にすんな。俺は死神なんかじゃねぇ」


「死式は死神にしか使えないはずだ! お前が人間なら使えるわけがない! ガッ!?」


 こんな真夜中に住宅街の中で喚くこいつの顎を、近所迷惑だと蹴り抜いて黙らせる。ようやく黙ったのを見て、小さく息を吐き俺は疑問に答えた。


「ああ、だからまあ人間でもねぇ。俺は、…………人間と死神の、ハーフだ。とはいってもポジション的には人間側でな。人間の魂を食い散らかすお前ら屑を人知れず処理してるってわけだ。分かったか?」


 こくりと首を動かす大男に満足して、俺は、再び死式を起動する。先程の加速する死式ではない、攻撃のための、こいつの命を奪うための死式を。


「【死式・光手(こうしゅ)(ほう)】」


 先程のこいつの鎌のように淡く光り始めた左手をこいつの胸に当てる。この光手ノ砲はほとんど零距離でなきゃ使えない欠陥死式だが、急所に当てることさえできればちゃんと殺せる。


「ま、待て、なんで俺が死ななきゃならねぇんだ! 人間の魂は死神にとっての飯。飯を食って何が悪い!? ハーフのお前が何を食事にしているか知らねぇが、飯を食わずに生きられるとでも言うつもりか!?」


 この死式に不穏なものを感じたのか大男は途端に助かろうと口を開き捲し立て始めた。

 だが、そんな陳腐な命乞いなど聞く気もない。


「うるせぇ、黙って死んでろ」


 取り合わず光手ノ砲を放つ。ほとんど無音で発射されたそれは大男の胸の中心を抉り取った。大男の四肢から力が失われると同時、全身が夜闇に溶けるようにして消えていく。

 それを見守りながら、俺はぼそりと呟いた。


「……お前ら屑のせいで俺の父さんは死んだんだ。死神は、許さねぇ」

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