『ラムネの中の少女』
シュワッと栓を抜く。
耳をくっつけるとパチパチと
炭酸の泡が弾け
鼻腔をくすぐる甘い匂いに
包まれる
飲むたびにカラコロ揺れる
ビー玉。
わたしの部屋の南の窓際には
白いテーブルと白いイスの
小さなコーナーがあって、
明るい陽射しをあびて
鉢植えのゼラニュームや
壁をつたうバラが嬉しそうに
咲いています。
少し高台のわが家は
夜になると、
外はまたたく光の海になり
ここにすわっていると、
すこうしカラダが浮遊して
天国から下界を見ているような
気持ちになります。
今朝は朝方に雨が降っていて
いつもなら朝ごはんをねだりに
やってくる小鳥たちも訪れず。
微睡みの中
孤独に浸るわたしの心を
知ってか知らずか、
父さんが「生きてるか?」
と、半分冗談のように
おでこを撫でて笑う。
うとうとと手のぬくもりに
安堵しながら
現実から切り離され
いつしか
別の世界が見えてくる。
遠いむかしの夏休み、
神社の境内に夜店の明りがともる
闇にカラコロ下駄の音
明るさに誘われていく蛾のように。
閉じこもりの部屋を出て
もの陰で見つめる少女を
哀れよと
てのひらに乗せられた
まあるい現実。
夜店の赤い電気の下で
氷の海を泳ぐラムネ瓶
ラムネ瓶の中でまあるく揺れる
透きとおったビー玉に
自分をかさねた
少女のゆらめき