52*実家へ
「ここです」
「ほ~、綺麗なお家やなぁ」
「中一の時にリフォームしたんです」
「ふーん、なるほどな…?」
先生は家を眺めてから、ふと隣の家を見て首をかしげた。
「どうしたんですか?」
「…隣の家、住んではる人しっとる?」
「はい、知ってますよ」
隣の家には、共働きの優しいおじさんとおばさんが住んでいる。中学の頃から良くしてもらっていて、私の家の庭は小さいので、おじさん達の庭で花火をさせてもらったこともある。
「子ども、いはる?」
「いえ、ずっとお二人で住んでるそうです」
「…家ん中、はいったことは?」
「えーっと…ありません、ね。庭とか玄関先でお話したことしか」
「そうか。…しゃ、ピンポン押そ」
先生は少し歯切れ悪そうに話を切って、実家のインターホンを押した。
ピーンポーンと軽やかな音のあとに、プツッと電子音がなった。
『はーい、あ、え?!つゆき?!』
『へ?つゆ姉帰ってきたの?!』
インターホンから聞こえた声は、兄の久永と弟の心羽だった。
私は少し安心して、インターホンに笑いかける。
「ただいま」
『ちょっと待ってて』
そういった後に、家の中からバタバタと音がして、勢いよく玄関が開いた。
二人揃って出迎えに来てくれたらしい。
「ただいま、久兄、このちゃん」
「つゆきおかえ…ちょっとまって。隣の方は?」
久兄は先生の存在に気づいた瞬間、険しい表情を見せる。心羽も久兄の後ろでじっとりと先生を観察しているようだ。
「伊野先生。うちの学校の、体育の先生」
「こんにちは、伊野空藍と申します。香山高校で体育教員をしています」
先生は懐からすかさず名刺を取り出し、久兄に渡す。先生の顔を覗き込めば、ものすごく上品に笑っている。
…先生、一体関西弁はどこへ?
「これは失礼しました。つゆきの兄の久永です。こっちは弟の心羽です。ですが…体育の先生がなぜつゆきと一緒に…?」
「色々事情がありまして。今日親御さんは?」
「用事で出かけています。なにか学校で問題でもあったんですか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ…少し、お聞かせ願いたいことがございまして。おふたりに聞いてもよろしいですか?」
「はぁ…私たちで良ければ」
「あ、えっと、じゃあ中入ろう!ね、立ち話もなんだから!」
話がどんどん進んでいき、私は遅れ気味で3人を中へ促す。久兄と心羽は終始警戒しているようで、表情が驚くほど硬い。
リビングへ先生を通して、お茶を準備していると、久兄が真面目な声音で話し始める。
「…体育の先生とつゆきに、全く接点が見当たらないのですが」
「私と白雪さんは同じアパートに住んでいまして」
「同じアパート?!」
「はい。白雪さんが入居された後に入居しましたので、ご存知なくて当然だと思います」
「そうですか…」
「…あの」
「はい?」
「お兄さんは、今おいくつですか?」
「私ですか?28になります」
「私より年上ですよね?!無理を言います、年上のお兄さま、関西弁で話すことを許してもらえませんか!?」
「へ?」
先生が完全に暴走し始め、私はお茶を入れる手をストップさせてしまった。
久兄も心羽もキョトンとしている。
「あぁ…失礼しました。実は、私関西の生まれでして、いつもはベッタベタの関西弁なんです。しかし…標準語になると関西弁を完全封印しないといけないので、窮屈で窮屈で…。なので、よければ私の関西弁を許してもらえませんか!」
突然のタメ口交渉に、全員だんまりになる。
むしろ今口を開くと何かが爆発しそうで恐ろしい。
久兄は額に手を当て、下を向いてしまった。
私は慌てて駆け寄り、久兄に弁解を図る。
「ひ、ひさにい!あのね、先生ほんとにすごく関西弁で、こう、標準語?じゃ伝わりきらない感情があるんだと思うの!」
「…つゆき」
「は、はい。」
久兄は顔を上げて、ものすごく真面目な表情をして、
「…お前、くそ面白い先生と仲良くなったな」
…くそ面白い?ちょっとまって、くそ面白いってなに?
久兄はまた下を向いたかと思うと、肩を震わせてくつくつと笑い始めた。
挙句には顔を上げてお腹を抱え笑い出してしまった。
「久兄…?」
「あー、くっそ面白いっすね伊野先生!久しぶりに笑いましたよ」
「どこにツボったんですか」
「いやーすいません、なんか時代の変化を感じちゃってつい。俺が高校生の頃は、先生って凄く堅苦しくて面白みのないクソ真面目な人ばっかだったんで、最近はほんといい先生がいるんだなと思って。皮肉じゃないっすよ、ほんとに。今日もわざわざつゆきのために来てくれたんですよね。あ、関西弁でどうぞ、俺も楽に喋るので」
久兄が歯を見せて笑う時は、ほんとうに笑っている時だ。
伊野先生は少しびっくりしながらも、にやりと顔を歪めた。
…もしかして、策略?…まさかね。
「久永さんがええ人でよかったですわ。ほんで、単刀直入にお聞きします」
「はい?」
「白雪に隠しとること、全部教えてください」
予約投稿乱用なうの柊です、おはようございます!
みなさん、修羅場です。
執筆しながらが「伊野ぉぉおお!!」って感じでしたね。忘れてました、あの人実は頭いいんですよ。やだもう…好き。
さて次回からより増々修羅場です。
お楽しみに!




