51*何も知らない子
中学生の女の子たちは、きゃぴきゃぴの女子で青春真っ盛りだ。
あの子がどうだとか、あの子とあの子はできているだとか、たまには性の話にまで発展していた。
毎日お菓子を作ってくるし、色気づいている子はお化粧をしているし、流行りの洋服にすごく詳しいし、流行りの場所にも詳しい。
けれど、私はそのどれも分からないし知らないしで、女の子たちが騒いでいる様子をただ呆然と見ていた。
そんなことをしていたら、いつのまにか、私は世間離れした何にも知らない何にもできない子になっていた。
「ま、中学生なんてそんなもんちゃうの?」
「周りの子は…もっと大人でしたよ」
「ほんなら、それは周りが色気づいとるだけや。あんな?白雪」
先生は歩き出しながら、すごくすごく、優しい声音で話し始める。
こちらを向いていないのに、優しい表情をしていると推測できるくらいに。
「人間、年相応っちゅーのが一番ええんや。わざわざ背伸びせんでも、時間が大体解決しよるんやで」
「…年相応って、何が基準なんですかね」
「なんやろなぁ~、それ言い出すとむずかしいな。限定してまうけど、中学生やったら友達と健全な遊びするんが相応なんちゃうんかな」
「そうですかね…」
「メイクなんかオバハンなってからでええねん。素がかわいいうちは素がええ」
「…恋愛は?」
「人によりけり。俺は何かと手が早かったけど、慎重な奴は育んでから言葉にするし、興味無いやつも仰山おる」
「そうですかね…」
「そういうことにしとけ。考えたところで昔は昔や」
先生は話を打ち切ると、携帯を取り出して地図を見始める。
廃倉庫の場所を確認しているのだろう。
「だいぶ住宅地の方なんやな。白雪、ここどの辺かわかるか?」
「えっと…ここだと、まだ先です。私の実家がこっちなので、それより先ですね」
「実家通んの?やったら、寄ってくか」
「え?!」
全く予想していなかった発言に、私は思わず立ち止まった。
…お正月からそんなに日も経ってないし、なにかあったのかって心配されたらどうしよう。それで実家に連れ戻されたりしたら…
「い、いや、寄らなくていいです!行きましょう、すぐに!」
「いや、寄る。事情直接聞けるかもしれへんやん?」
「でも…!!うちの親、勘違いしやすくて!実家に引き戻されたりしたら…私…」
「白雪」
先生は立ち止まって振り返ると、真剣な表情をした。
先生の真剣な表情は、喉が少しヒュッとなる。
「もう白雪はできひん子ちゃうやろ?」
「…わかりません」
「知ろうとしたやん、ちゃんと。現実見ようとしたんちゃうの?」
「そう、ですけど…」
だからって、それが両親に伝わるわけじゃない。伝わらなくて、勘違いされて、大好きなみんなと離れてしまったら、私はどうすればいいんだろう。
そんな思いで黙り込んでいると、先生は一つ、深いため息をついた。
「はぁ…。そうや、すまん。白雪を責めるんはちゃうな。やっぱご両親に会いに行くわ」
「先生!!!」
やめて!と先生の腕に飛びつけば、先生は微動だにせず、むしろ落ち着いて私の頭に手を置いた。
「白雪。…ご両親のこと、怖いんちゃうか?」
「え…いや…」
…どうしてハッキリと否定できないんだろう。
両親には、感謝している。私を大切に大切に育ててくれたから、あたりまえだ。
でも…私は、両親のことを真剣に考えたためしがない。むしろ考えないようにしていた。
異常なまでに守られてきたから、きっと触れてはいけない「何か」があるのだと。
「ま、直接聞く方がええやろ。心配せんでも、連れ戻されそうになったら俺が迫真の演技で強行突破したるわ」
「迫真の演技なんてできるんですか…」
「まかしときいや、なにわの男は万能やさかい」
そう言いながら、先生は楽しそうに笑ってまた歩き出す。
…これもきっと、向き合わなきゃいけないことなんだよね。
逃げないと決めた以上、もう腹を括るしかない。
私は先生の後ろをただひたすらに歩いて、実家へ向かった。
みなさんおはようございます、柊です。
みなさん少しお気づきかも知れませんが、伊野先生、ナチュラル~な子大好きです。なのでお化粧とかしてない高校生にぐっとくるタイプ。
教師としてどうなんでしょうね、そろそろポリスメン呼びましょうか。
次回は白雪brothersの登場です。
お楽しみに!




