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白雪姫が目を覚ますまで。  作者: 柊玲雄
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44*彼女と彼の過去の話③

side.姫魚翠 同日


「助けてください!!!」


一番近くの病院へ駆け込み、ロビーで力いっぱい叫んだ。

院内の患者や付き添いの人は何事かと僕の方を見てから、小さな悲鳴をあげた。


「ど、どどどうなさいましたか?!」


受付スタッフが駆け寄ってきて、僕とつゆきをおろおろと交互に見た。


「どうした!!」


後方からは若い医者が走り寄ってきて、また僕とつゆきを交互に見た。


「緊急処置を行います!すぐに連絡を!そこ!担架!」

「は、はいぃ!」


スタッフはばたばたとどこかしらに電話を掛け始め、若い医者は僕に変わってつゆきを抱き上げ、運ばれてきた担架に寝かせた。


「神崎先生オペ2です!」

「運んでください!」


つゆきを乗せた担架は足早に消え、ロビーには僕と若い医者が残った。


「歩けますか」


優しくかけられた声に頷く。

若い医者は僕の腋の下あたりをぐっと抑えて、「少し我慢してくださいね」と僕に連れ添って歩き出した。


「安心してください」


落ち着いた声音は、僕の心臓をすこし治めていく。


…つゆきが死んでしまったらどうしよう。


そんな想像が思考回路をぐるぐると周り、心臓にまで周り始めていた。

どくんっどくんっと大きく波打つ心臓は、今にも破裂してしまいそうだった。


「あの子は必ず助かります」

「…はい…」


**********


腕の処置は10針程度縫うだけで済んだ。

深くいっていなかったらしく、入院も必要ないとされた。


先生からつゆきの様態を聞き、命に別状はないとわかってからは、僕の頭はやるせなさに埋め尽くされていた。


…どうして僕は、彼女を助けられなかったんだろう。

まだ彼女は小学生なのに、あの時間に帰ってきてないことを不思議に思うべきだった。そもそも送り迎えくらいやればこんなことにはならなかった。


「__白雪さんを運んできてくれてありがとう」

「え?」

「もう少し遅かったら、出血多量で命が危なかったんだよ。姫魚さんのおかげであの子は助かった」

「…助かったのは命だけです。つゆきは精神的にひどく傷ついてます。目を覚ました時、世界中の人全てが怖いと感じるかもしれない__」


そうなったら、つゆきは生きることさえ辛くなるかもしれない。

楽しみにしていた中学にも行けなくなって、毎日部屋の隅で怯えながら暮らす彼女を見るのはどれだけ悲しいだろう。



「そうなった時、あの子を救うのが君じゃないのか?」



先生の言葉に僕は我に返った。


…そうだ。助けられなかった分以上、つゆきを支えられればいい。

出来事をなかったことにはできないけど、記憶から少しずつ緩和していけばいいんだ。


「…そうですね」

「身体については当院が全力でサポートするから、安心してくれていい」

「はい、__つゆきを、よろしくお願いします」




先生に向かって深々と頭を下げてから、治療室を出てつゆきが眠っている病室へ向かった。


5階の一番突き当たりにある個室の扉を、ゆっくり3回、ノックする。


「どうぞ」


部屋の中から返事をしたのは、おそらくつゆきの母親だ。


いつもとは全く違う、重々しい声は、完全に生気を失ってるように聞こえた。


「…失礼します」


病室に入ると、そこには白雪家が全員揃っていた。


「翠ちゃん、こっちにいらっしゃい」


つゆきの母親は、扉の前に立ち尽くす僕を手招きした。

恐る恐る、つゆきが眠るベッドに近づく。


「いつ目覚めるか分からないけど、命は助かった。…翠ちゃんが見つけてくれたおかげよ」

「…僕を、責めないんですか。」

「…言ってしまえば、確かに八つ当たりしたいわよ。どうしてうちの子がって。…だけど、あなたは命の恩人よ。八つ当たりする相手じゃないわ」

「いいですよ…?八つ当たりでもなんでも、僕は全然…!!」


それで大切な人たちの気が晴れるなら、僕はそれでいい。

八つ当たりだってなんだって、受け入れられる。


だけど、つゆきの母親は、優しく僕の手を取って、微笑んだ。


「翠ちゃんは…自己犠牲がすぎるのよ。翠ちゃんも私の大事な人なんだから、傷つけたりしないわ」


そう言いながら、1粒だけ涙をこぼして、つゆきの母親は僕の左腕を優しく撫ぜた。


「痛かったわよね…」

「…つゆきと比べれば、大したことありません」


彼女が受けた痛み以上は無い。

こんな傷、大したことじゃない。


「そういうところよ?」

「…花さん、僕はいいんです。僕は、…皆さんのことが心配なんです。大事な家族がこんな風になってしまったんですから…自己犠牲ではなくて、純粋に。…泣きたい時は泣いてください、八つ当たりしてください。全部、僕が受け止めますから」


もう18年もお世話になってきた人たちだ。


…僕は、なんでも受け止められるよ。


「…翠ちゃん…」


つゆきの母親はそう呟くと、ぽろぽろと涙をこぼして、僕の手をまたぎゅっと握った。

いつのまにか後ろにいたつゆきの弟も、僕のズボンを引っ張ってうわんうわん泣いている。

つゆきの兄も、父親も。


みんな悲しさを押し殺さず、思うままに泣き始める。

僕はつゆきの母親の手を握り返して、弟の頭を撫ぜて、兄貴と父親を見回して、ベッドの上のつゆきを見た。



…目が覚めたら、また、花畑に行こうね、つゆき。



君の大好きな場所に、いっぱい行こうね__

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