36*自覚せなあかんところがある
Happy エイプリルフール!!!
渾身の嘘吐きます!!
ドラ●もん買いました!!!!
23時半。
外からコンコンコンッと軽やかな鉄骨音が聞こえて、私は恐る恐る外へ出てみた。
階段を登りきってすぐには、予想通り伊野先生がいた。
「おー、白雪。まだ寝てへんかったんか」
「…ご相談したいことがありまして。起きてました」
「そうか、しゃーない聞いたろ!前んとこ行こか」
「はい」
伊野先生には、前にも一度、相談に乗ってもらったことがある。
秋風が柔らかくて気持ちいいある日、私には無くなっている記憶があると先生に打ち明けたのだ。
その時に、どちらかの部屋へ上がるのはまずいため、アパートの裏手にある駐車場の隅に座り込んで相談に乗ってもらっていた。
「ん〜今日は夜中もあったかいなぁ。もーすっかり春気取りや」
「もう春ですよ。と言うか、桜なんてとっくに散り始めてます」
「学校の前の道、桜綺麗やったのに早い話やわ」
「ほんとですね」
時が経つのは早すぎる。
早すぎて、私の低速な思考回路ではうまくついていけない。
空回りばかりだ。
「俺なぁ、白雪の話きいて思たことあってん」
「え?」
「昔の記憶って、なんぼ言っても必要なんやろなーって。ほら、黒歴史とか、思い出したくない記憶とかあるやん?やけど、それは自分に記憶があるからそう思てまうだけやねんな。もし白雪みたいに記憶があらへんなってしもたら、そういう記憶さえ大事になるんやろなって思ったわけや」
「…つまり?」
「つ、つまり…。いやちゃうねん、つまりとかの話しちゃうねんて!俺の感想や!」
ちゃんとツッコミをいれてくるあたり、伊野先生はしっかり関西人だと思いながら、先生の言葉が心で反芻していた。
…大事な記憶。きっとそうなのだ。
何を忘れているのか全く思い出せないけれど、私にとって大事な記憶が抜けている。
それに、姫魚さんが関わっているとしたら。
彼は一体、私にとっての何なんだろう?
「ほんで?何があったん」
「…今日、バイト先で倒れてしまいました。突然の頭痛で」
「え、まじで?大丈夫なんか?」
「はい、特に体的には問題ないです。だけど…倒れてから、眠ってる間、変な夢を見ました」
「夢?」
「私のバイト先の常連さんに、姫魚翠って言う方がいらっしゃるんですけど。その夢の中で、姫魚さんが、暗い路地裏で佇んでいたんです。それで、姫魚さんは悲しそうな顔をしながら、私の下の名前を呟いていました。…なんだかそれが、妙に現実的で、もしかしたら私と姫魚さんは私がなくした記憶の中で繋がってるのかなって…。それに、その路地裏にもなんとなく見覚えがあって。…日を追うごとに、自分がなくした記憶が気になって仕方ないんです。そこに姫魚さんが関わっているなら、なおさら…」
彼が関わっているのなら、どうして黙って私の近くにいるのだろう。
なにか、言えない事情がある…?
「なるほどなぁ。…まぁ、まず、白雪は自覚せなあかんところがある」
「自覚?」
「そうや。ええか?俺の独断に過ぎひん思うかもしれんけど、白雪は、その姫魚さんっちゅー人が好きなんや」
そう言われた瞬間、私は言葉の意味が理解出来ず、ぽかんと口を開けていたに違いない。
5秒差くらいで、伊野先生の言葉が意味を持って思考回路を高速に動き回りだした。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください?!なんっ、なんでそうなっ…ええ?!」
「いや、普通に考えたらそうちゃう?だって、どうでもいい男が自分の記憶ん中におったところでなーんも思わんやろし、むしろ自分の名前呼ばれたとかなったら「きもっ!」ってなるやん」
「それはそうですけど…大切な人ってだけで、それが好きとイコールになるわけじゃないでしょう?」
「じゃあ、白雪はその姫魚さんのこと、好きちゃうんか?」
「それは…」
…NOとは、言えない。
でも、それが「好き」という気持ちなのか分からない。
なんとなくだけれど、私はどこかで「人を好きになる」感情を欠落させている気がするのだ。
「まぁすぐに自覚せなあかん言うわけちゃうし、ゆっくり考えたらええかもな。…ていうか、この前の乱闘みたいなやつも記憶絡みやったんか?」
「乱闘って…。いえ、あれは違うんです。…あれ?違うのかな…」
「なんやハッキリせんなぁ。とりあえず事情話してみ」
「えっと…」
促されて、眠森君の話と路地での話をかいつまんでして、校門前の事件を簡単に説明すると、伊野先生はぐっと眉間にシワを寄せた。
「あー…なるほどな。つまり白雪は、ようわからん間に不本意な汚名をつけられてた挙句フルボッコにされたと。ほんであの騒ぎになったと。怪我は?大丈夫なん?」
「少し痛むくらいで、特に問題はないです」
「そうか、せやったらええわ。んー…ヤリマンなぁ、白雪には似合わんニックネームやな」
「ニックネームって…」
「…そこに記憶のヒントがあるんかもしれん」
「え?」
「だって、そやろ?全く身に覚えない噂ってことは、一ミリの可能性にしても記憶に関わってるかもしれへんやん」
「なる、ほど…」
「ちゅーても、んな汚名つけられる記憶ゆーたら、嫌なもんしか想像でけへよなぁ」
「…嫌な、もの…」
「下ネタあかんタイプか」
「あ…いえ、まぁ…わかります。けど、そんな記憶に姫魚さんが関わってるなんて考えられません。…姫魚さんは、とっても優しくて、誠実な方ですから」
私を救い上げてくれて、優しく抱きしめてくれるような人だ。
乱暴なことをするなんて、ありえない。
「よしゃ、わかった」
「え?」
伊野先生は私の両肩に手を置いて、ニッと笑った。
「俺が調べたろ」
「ええ?」
「なんぼ誰も教えてくれへんゆーても、教えへんだけで知っとるんやろ。ほんで、多分学校にもそう言う申し送りしとるはずやねん。親とかがな。せやし、色々情報集めてみるわ」
「いいんですか?なんか…問題とかにはなりませんか?」
「まぁ、なったらなったでそん時や。ただしな、白雪」
「はい…?」
急に真剣な顔付きになったかと思うと、先生は少し声のトーンを落とした。
「どんな結果でも、後ろは向いたらあかん。ほんで、攻める時は俺を攻めろ。ほかの人巻き込んだら白雪がしんどなるから。な?」
そう言ってから、先生はいつも通りの適当な表情にしてからから立ち上がった。
私は立ち上がった先生を見上げる。
…後ろを向いてはいけない。それは、どういう意味だろう?
その記憶に固執してはいけないということだろうか。
「あーあ、ええ子はもう寝なあかんわ。行こかいな」
「…あの、先生」
「ん?なんや」
「後ろを向くって言うのは、記憶に固執するってことですか?」
「固執…難しい言葉使いよるなぁ。固執っちゅーか昔の記憶を真正面から受け止めんなって話や」
「…難しいですね」
「ま、しんどなったら俺が脳天しばき倒してもっかい記憶飛ばしたるわ。はい、帰ろ」
「強引…!」
スタスタと歩いていく伊野先生を急いで追いかければ、先生は少しだけ歩調を緩めてくれた。
「なんだかんだ、先生って優しいですよね」
そう言いながら少し顔を覗き込むと、先生はぎゅいんっと仰け反ってしまった。
「おまっ…。俺はずーっと優男やっちゅーねん」
「自分で言うと価値下がるって知ってますか?」
「うるさいわ」
「いてっ」
私の額にデコピンをかまして、先生はまたスタスタと歩いていった。
先生の少し後ろを歩き、鉄筋の階段をゆっくりと登り終える。
「ほんなら、あったかーして寝ーや。おやすみ」
「はい。…ありがとうございました、おやすみなさい」
先生が部屋に入るのを見届けてから部屋に入り、ベットに腰掛け、ふーっと一息つく。
…今日は色々ありすぎて、あまり整理がついてない。
だけど、少し前進したのは確かだ。
もう、前に進むしか方法がないことも、無くした記憶が楽しいものじゃないこともなんとなく分かったのだから、今はただ前進していくことが先決だ。
「…寝よう」
…明日は、姫魚さんに連絡先を聞いてみようかな。迷ってたって、仕方ないよね。
パジャマに着替えてベット横の電気を消して、私はなんとなく、携帯の待ち受けを眺めてから眠りについた。
みなさんこんばんは柊です。
4月に入りましたね〜新学期のスタートですな。
私も10日には高校3年生になります!
どうもみなさん、LJKです。
ここいらでちょっと伊野先生の小話を。
伊野先生、関西弁なんでバカっぽく聞こえますがちゃっかり大学出てすぐに教師になってます。
標準語にすれば…頭良く見える。うん。
さてここからどうなっていくのでしょうか!
次回もお楽しみに!!




