32*緊急事態発生
裏口からばたばたとバックヤードに入り、制服をひっつかんで素早く着替える。
髪をハーフアップにし、速攻でタイムカードをきると、その音で私が来たことに気づいた店長がバックヤードに顔を覗かせた。
「あ、おはようございます!」
「おはよう、珍しくぎりぎりだね」
「すみません…ちょっと色々ありまして」
「…そっか。うん、でも顔色いいから、大丈夫そうだ」
「そ、そうですか?」
店長は満足そうに笑って、またホールへ戻っていく。
…スーパー優しい店長の笑顔はスーパー癒されるなぁ。
「よしっ、頑張ろう」
自分の頬をぺちんっと叩いてから、ホールへ出ていく。
今日も微妙な時間帯だけあって、お客さんはまばらだった。
「白雪さん、テーブル拭いてきてもらえる?」
「はーい」
布巾をもって、通りに面している側の机を拭いていく。
不意に外のとおりに目を向けると、ちょうど姫魚さんがお店に向かって歩いてきていた。
つい手を振りそうになった私に気づき、姫魚さんが胸元でバツ印を作ったのを見て慌ててテーブル拭きに戻る。
少しすると、カランコロンとお店の扉が開く音がして、私は扉の方を振り向いた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
姫魚さんは、いつも通りの微笑みを浮かべる。
けれど、それと同時に私の笑顔は一瞬にして凍りついていた。
数秒の間があってから、私は姫魚さんに駆け寄った。
「どうしたんですか?!その傷?!」
「あぁ、少し擦っちゃって」
そう言う姫魚さんの口元は、殴られたあとのような傷があり、その傷はまだ真新しいらしい。
「すこっ…す、少しでそんな傷はつきませんよ?!」
「あはは…」
「手、手当っ!手当を…」
「白雪さん、声が大きいよ」
私は動揺を隠せず、気付かず大きな声で騒ぎ立ててしまう。
そんな中に、一つ、冷静で落ちついた声が降ってきた。
「店長…」
「お騒がせいたしました。紅茶を持ってまいります、引き続きおくつろぎくださいませ。さあ、姫魚様、手当いたしますのでこちらへ」
「すみません、ご迷惑おかけします」
「いえいえ、お気になさらないでください。白雪さん、ほかのお客様にお好みの紅茶を聞いてきてください」
「は、はい!」
店長の落ち着いた対応に助けられ、姫魚さんはバックヤードへ、私は店内にいるお客様さんの対応へまわった。
「ご迷惑おかけいたしました。お嬢様方、お好みの紅茶はございますか?」
「いいのよー、気にしないで!それじゃあ…」
優しいお客さんのおかげで早く対応が済み、キッチンで紅茶を入れている最中。
私は、姫魚さんの口元の傷の原因が自分のような気がして、意識がバックヤードに向いたままだった。
…あんな傷、殴られたとしか思えない。
でも、そうだとして…誰がそんなことを?
もしかして、昨日の女子たち…?
いやでも、男性が女子高生相手に軽々と殴られてしまうとは思えない。
…誰?姫魚さんを傷つけたのは、一体___
「いっっっ……っっ!!」
そう自分に問いかけた瞬間、私は頭に激痛を覚え、その場にしゃがみこんだ。
「白雪さ…白雪さん?白雪さん!」
「痛い…!痛い…!!!」
「白雪さん!しっかり!!白雪さん!!」
激しい頭痛に意識が朦朧とし、しゃがみこんだまま私は何も考えられなくなっていた。
痛い痛いと叫ぶ私の周りに、おそらくお客さんも集まってきている。…姫魚さんも、きっと。
そんな中、朦朧とした頭に一瞬だけフラッシュバックした景色が、色濃く私の意識に傷を残していった。
***
誰かが私を取り囲んでいる。
空からは、無数の手が降ってきている。
あたりは真っ暗で、月明かりだけが私を照らしている。
痛い、怖い、苦しい。
誰か、誰か助けて。
誰か…。
***
今日は雪が降って激寒ですね、皆さんこんばんは柊です。
インフルエンザが流行っていますね、徹底的な予防をするべし。
あー、つゆきと姫魚さんの看病話も書きたいなぁ。番外編で書こうかしら。
次回もお楽しみに!




