3*白雪とアリスとチャラ男と
県立.香山高校__。
普通科・商業科・工業科の3つの学科を揃えた、O市最大級の高校として、長く人気を得ている。
しかしながら、この高校の校門をくぐるのはたったの810人程度だ。
町外れのゆるやかな丘にたっているため、立地条件は決して良いとは言えない。
それでも、こぞって香山高校を志願するのは、校則や校風がいたって自由だからだと言われている。
そんな高校で女子高校生をしている、私、白雪つゆきは、今年で高校2年になる。
「クラス替えかぁ」
学校へと続く、桜の並木道となっているゆるやかな坂を登りながら、ため息を吐く。
…去年のクラスはすごく楽しいクラスだったから、今年がものすごく心配だ。
「つゆき〜!!」
後ろから、よく通る綺麗な声に呼ばれて振り返る。
と、そこには、透き通るような金髪気味の髪に少し灰色がかった瞳の美少女が、きらきら笑いながら走って来ていた。
「アリス〜!おはよう!」
「はぁ!おはようつゆき!」
走ってきた美女は、欧米国と日本のハーフである、鈴木アリスだった。
「んーー!ひっさびさにつゆきの顔見れた!!もー、春休み中すっごく心配だったんだからぁ」
「いやぁごめんね〜、結構バイトとかで忙しくて。アリスと遊びに行きたかったんだけどね」
この高校にはいって一番初めにできた友達がアリスだった。
アリスから話しかけてくれて、とても話が合う人だとわかって、アリスの隣が居心地のいいものとなっていた。
「今年も同じクラスかな」
「心配しなさんな、きっと同じクラスよ。でなきゃ先生なんてゴミクズにも値しないわ。」
「うわぁ…ブラックアリスぅ…」
たまに口が悪いのはご愛敬らしい。
そんな話をしながら歩いていれば、いつの間にか校門が見えてきていた。
…あれ?
「ねぇ、なんか校門付近、人多くない?」
「ほんとね、なにか貼ってあるのかしら」
いつもなら、先生や生徒会が立って挨拶しているところに、おそらく女子と思わし生徒がキャーキャーと黄色い声を上げて集っていた。
校門にたどり着くと、予想通りそこかしこに女子、女子、女子…。
もはや校門をくぐり抜けられない自体となっていた。
「あぁ…なるほど」
「え?」
背伸びをして女子の群れの向こうを見ていたアリスは、納得して踵を下ろした。
「なにごと?」
「そういえばつゆき、終了式休んだわよね」
「うん、生理痛がひどすぎて立てなかったから」
「あら、そうだったの?言ってくれれば看病に行ったのに…。あ、そう、でね、終了式の日に、新学年から転入してくる男子生徒がうちの学科だっていうから学科集会で紹介があったのよ。まぁその男子生徒が極上のイケメンでね〜…。春休み前から狙ってた女子生徒が、今その子囲んでキャーキャー言ってるってわけよ」
なるほど。転入生が来てたのかぁ。
「って!聞いてないよ〜!そんな話!」
「ごめんごめん、なんか別にいいかなぁって思っちゃって。それに、つゆきがあいつに惚れちゃったら私もう…」
「何する気なの…?んまぁ、別にいいんだけどね」
イケメンが嫌いな訳では無い。
けれど、興味があるかと聞かれれば、全くと言っていいだろう。
「そこの端っこ通り抜けよっか」
「そうだねぇ…待ってたら夕方になりそう」
門と群れの隙間を若干、無理やり気味に通り抜ける。
いつもなら、校舎に向かって歩き始めるけれど、足元になにかぶつかり、ふと視線を下げて見ると、黒いスクールバックが転がっていた。
「カバン?」
「誰のかしら。…開けた方が早いんじゃない?」
カバンの側面や底を凝視している私に、苦笑い気味のアリスがごもっともな提案をする。
「んー。…ねむもり、しんば?」
「ねむもり?あぁ、それ転入生くんのやつなのね」
「眠森って言うのかぁ。変わった名前だね」
「確かにね〜。んー、それどうしようかしらね?」
「あー…。まぁ、邪魔だし本人に返してくるよ」
「いや、この群をかき分けるつもり?」
そうか…女子の群れという壁があったか。
とはいっても、邪魔以前に下に置いておくのは何か気が引ける。
「まぁ…仕方ないっか」
「ええ!ちょ、つゆき〜!!」
アリスの声を無視して、女子の群れをかき分ける。
ちらほらと「なに?!」みたいな声が聞こえなくもないが、カバンを届けるだけだから許してもらおう。
「すみません」
群れを抜けて、眠森くんの前に立つ。
見上げる形で眠森くんを見ると、キョトンとした顔で私を見ていた。
そして、そのキョトンとした顔さえ、極上のイケメンだった。
「あ、それ…」
「カバン、そこに落ちてました。名前見るために中見ちゃいました、すいません」
明るい茶色の髪、左耳のピアス、おそらく程よいと言われる着崩し方。
__作り笑い。
確かに極上のイケメンだと思うけれど、私的には苦手なタイプだ。
「そっか、そっちに吹っ飛ばされてたか。ありがとう」
にこっとはにかむ眠森くん。
非常にわかりやすい作り笑いに、むしろ気の毒な気分になる。
「それじゃあお邪魔しました」
また女子の群れをかき分けて、アリスの元へ帰る。
「つゆき!!も〜危ないことしてー!」
「大丈夫大丈夫〜、さあ行きましょー」
「全く…つゆきが女子に弾き飛ばされたりしたら、私もう、殺るしか…」
「アリスさん、ブラックアリス出てます」
眠森くん、大変そうだったなぁ。
ああ言うのはきっとすごく疲れる。
「つゆき!つゆき!同じクラスだよ〜〜!!」
「ほんと!?!?やったぁぁ!!」
アリスと手を合わせて飛び上がる。
他に誰がいるかまだ見てないからわからないけど、アリスがいれば、きっと大丈夫。
「教室いこっか」
「そうだね〜」
__そんな私たち2人を、遠くから、疲れ気味の綺麗な瞳が、楽しそうに追いかけていた。
眠森くん…イケメンです。
そう、イケメンです。