29*side.眠森針葉
side.眠森針葉
帰り際。
つゆきから「委員会の課題がある」という、わかりやすい嘘で避けられた俺とアリスは傷心しきっていた。
女の子たちに何を言われても傷つく様子を見せなかったアリスでさえ、あからさまにしょんぼりしている。
「…ねぇ」
「ん?」
さすがに傷心している人間にまできつく当たるほど俺は鬼ではないので、軽く返事をすると、アリスは小さな声でぽつぽつと話し始めた。
「あんたにだから言うんだけど。」
「うん」
「…私、つゆきのことが、たまに分からなくなるの。いつもは、大体こんなことを思ってて、次こういう話をしたいんだろうなぁとか、この子今隠し事してるけど、多分私に聞いて欲しくてうずうずしてるんだろうなぁとか…つゆきのことなら手に取るようにわかる。けど…不意に、ほんと、ちらっとだけ、すごく頑丈な壁ができることがあって…私にはその壁を壊す方法が分からなくって。だから、たまに、「白雪つゆき」っていう人格がわからなくなる…」
とても弱々しい、アリスらしくない声だった。
…不安に押しつぶされそうな彼女に、俺はなんと声をかけるべきなんだろうか。
無責任な言葉はかえって傷を深くするだけだ。
だからって、黙って聞いてるのもどうかと思う。
そんなことを考えていると、アリスが不意に、こちらを見る気配がして、俺もアリスを横目に見てみる。
「…正直に聞くけど、俺はどう声をかければいい?むやみにお前を傷つけるようなことはしたくない」
「…どうしてこんな時に優しいのよ。馬鹿じゃないの…」
そう言って、アリスはほろほろと涙を流す。声もあげず、ただただ、静かに。
「…どうする?金髪」
泣いている女の子を泣き止ませるのはわりと得意だが、多分今はそういうことをこいつは望んでいない。ましてや相手が俺なわけだから尚更だろう。
…だったら、俺に出来ることといえば、彼女の肩にずっしり積もっているものを俺が半分抱えることだ。
「お前の肩に乗ってる大荷物、半分俺が持ってやってもいいよ」
アリスを助けてやりたい。それと同時に、つゆきを助けたい。
彼女たちは、俺の心を救ってくれたのだから。
「…絶対、幻滅しないって、約束してくれる?」
「ああ、もちろん」
はっきりと頷いてみせると、アリスは少しだけほほ笑みを浮かべる。
「…ありがとう」




