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白雪姫が目を覚ますまで。  作者: 柊玲雄
26/53

26*愛情、愛情?

教室に入るのが正直なところ怖かった。

多分、机には落書きがあって、ゴミなんかが詰められてあったりして。

菊の花なんかが置かれていたら、どうしようかな、なんて。


そんなことを思いながら、眠森くんを先頭に教室の扉を開ける。


「おはよ」


眠森くんがそう言いながら教室に入ると、一瞬だけ教室中が静かになった。


けれど。


「針葉くんおはよ〜」

「おっはー眠森」


誰かがあいさつを返した途端、その静かさは嘘のように消えていく。


驚きながらも、ふと自分の机を見てみると、そこにはいつもと同じように机と椅子が置かれていた。

落書きや、まして菊の花なんかもなくて。


「つゆき?」


アリスに呼ばれて、自分が入り口で突っ立っていたことに気づく。


「あ、ごめん…」

「やーね、呼んだだけよ?」

「うん…」


なんにもなかったのに。

どうして私は、気持ちが晴れないんだろう?


「つゆき…もしかして、具合悪い?」

「え?!あ、いや、違う違う!なんでもないよ!」


アリスの心配そうな表情が胸に突き刺さる。


…私なんかに、そんな表情をしないでほしい。

アリスは笑っていなくちゃ。眠森くんだって。


「…おい、金髪」


突然の眠森くんの声に顔をあげる。

呼ばれたアリスは、なぜか不機嫌そうに眠森君を見ていた。


「なに?」

「…話がある」

「は?話?なによ?」

「お前は、知ってたか」

「?なにを?」


物凄く真剣な面持ちの眠森くん。

きっと、すごく真剣な話__


「今日の購買のスペシャルパン、クリームコロッケベーコンミラクルDXらしい…」



…よく声が通る眠森くんだからだろうか。

それとも内容が衝撃的すぎたからだろうか。


教室中が、また静かになった。


「…おい、チャラ男」

「チャラ男じゃねーよ」


アリスはスッと言葉を溜めたあと、近くの机をバシンッと一発両手で叩く。


__その瞬間、私の血の気がスっと引いた。


…アリス怒ってるんだよね。

どうしよう、やっぱり私のせいだ。

別に怒るタイミングじゃないのに、私のせいでイライラしてそれで__


「それホントなわけ?!ということは今日のお昼は戦争なのね…4限は美術よね、なら絵の具は…つゆき!!」

「は、はい?!」

「私は…昼休み、行かなくちゃなんない。だから、つゆき。…私の絵の具たちを頼んでいいかしら…?」


アリスの真剣な眼差しに、私は深く頷いた。


…のだけど。


「…怒って、ないの?」

「ん?何に怒るの?え?あ、スペシャルパンってのはねぇ〜」


質問が質問で返ってきて、私はますます混乱する。

私の中では、2人は本当は怒っているのだと思っていた。

なにせ、あんなめちゃくちゃな事に巻き込んで、嫌なこともたくさん言われて。


なのに…どうして怒ってないの?


「つゆき」

「は、はい」


アリスが周りの女の子たちにスペシャルパンについて語り尽くしているのを呆然と眺めていると、不意に後ろから呼ばれて急いで振り返る。


そこには、空き机に腰掛けてこちらを向いている眠森くんがいた。


「金髪は傷ついたり怒ったりしないと思うぞ」

「…どうして?」

「んー…どうして、かぁ。難しい質問するな」

「ごめんなさい」

「あ、いや。怒ってるわけじゃないから。ただ、つゆきには金髪の愛情は重いのかもな、とか思ってな」

「…愛情?」


まさかの言葉に、私は首を傾げる。


愛情、という言葉は、どういう意味だっただろうか?


「そう、愛情。金髪…アリスは、つゆきのことがすげー好きなんだよ。だから、つゆきを守るためなら傷つくようなこと言われたってなんとも思わないんだよ。いっそ、つゆきが傷つくなら自分が傷ついてやるって感じだな」

「…そんなの、」


…そんなの、アリスが苦しいだけだ。


私を守るたびに傷ついて苦しむアリスを、誰が放っておけるのだろうか。


「まぁ…つゆきには重すぎるのかもな。でも、言ったことは本当だから。俺も金髪も、な。」

「…うん、ありがとう」


そう言われ頷いてはみたけれど、やっぱり全然納得なんてできなかった。


__傷つくのは私だけでいい。

__苦しむのも私だけでいい。




…あれ?


私…どうして、"私だけ"が傷つけばいいなんて、思ってるんだっけ?

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