20*ぶかぶかパーカーと白雪
お風呂からあがり、姫魚さんのジャージを着てから、シャツや下着を洗濯し終わり、乾燥までかけ終わった頃。落ち着いていた緊張がまた舞い戻ってきた。
…私、こんなことしていいのかな?
洗濯物も、電気代的な意味でよろしくない気がする。あと、服装。
これはいわゆる、「彼シャツ」というものだ。彼ではないのだが。
ぶかぶかのパーカーに、裾が残りすぎているスウェット。
どう考えても、それだった。
「はぁぁ…」
…全然、嫌ではない。
だけど、緊張は増すばかりだ。
そんなことを思っていると、不意に脱衣所の扉がノックされた。
「は、はい?!」
「あ、白雪さんもうあがってる?入っても大丈夫かな?」
扉越しのくぐもった声にさえ緊張して、がちごちになりながら、
「はははい!今出ますね!」
ガラガラと扉を開けると、なぜか髪が濡れている姫魚さんがお風呂セットをもって立っていた。
「…あれ?」
「あー…その、ほら。女の子のあとにはいるって、なんか変態くさいでしょ。だから、近くの銭湯で済ましてきちゃいました」
…なんだか、非常に悪いことをしてしまった。
「すみません…気を使わせてしまって」
「いやいや!なんかほら、僕はいいけど白雪さんは嫌かもしれないなぁって思って。あぁ、脱衣所は体冷えちゃうね。はやく部屋に行こう」
姫魚さんに背中を押されながら一緒に部屋へと戻る。
用意されていた座布団に座り、姫魚さんが入れてくれた紅茶を一口すする。
…アールグレイかな、これ。
「白雪さん…服、大きすぎたね」
「え?あ、いえいえ、仕方ないですよ。私がちびっこいもので」
私と姫魚さんは、頭1つと半分くらい身長差がある。
多分、姫魚さん自体が高身長というわけではない。
私の身長が色々足りないだけだ。
「まぁ…少し暖かく寝られるかな。あ、寝る場所なんだけど…体痛くしたらよくないから、白雪さんは僕のベッドで寝てもらおうと思ってるんだけど」
「えぇっ、いやいや!私は大丈夫ですから!申し訳なさ過ぎます!」
部屋の主を差し置いてベッドを使うなんて罰当たりもいいところだ。
そう思って首をふるふるしていると、姫魚さんは何故かにこやかに、
「じゃあ、一緒に寝ようか?」
と言い出していた。
…一緒に?
それはつまり、添い寝…。
私の思考回路が絡まる。
ついでに口がわばばばと絡まる。
「あっ、ああ、の、それ、そそれはあのっ」
「白雪さんがベッドで寝ないなら、無理やりベッドの中に引きずっちゃうかも」
「ごめんなさいっ!ちゃんと寝させていただきます!」
「はい、よろしい」
姫魚さんは、してやったと言わんばかりの表情。
…普通にはめられた。というか、ちょっとそれもいいかなぁなんて思った自分が恥ずかしい。
「さ、もう寝ようか。明日も学校だからね」
そう言ってから、姫魚さんはリビングを出て、すぐに布団一式を持って戻ってくる。
それを眺めながら、私は明日の学校をなんとなく想像した。
…また、今日みたいな事があるのかな。
嫌だなぁ、と思う。
でも、苦しいなぁとは思わない。
私はどこかで「苦しい」という感覚をなくしている気がしていた。
「よいっしょ。あ…そうだ、忘れてた。ごめん白雪さん、ちょっと1階の友人のところに行ってくるよ。なんか、パソコンが壊れたらしくて」
「姫魚さん、パソコンにも詳しいんですか?」
「わりとね。半分くらいは仕事道具でもあるから。よし、じゃあちょっと行ってくるね。あ、外に出ちゃだめだよ、危ないから」
「わかってますよ、いってらっしゃいです」
姫魚さんはスマホとタブレットPCだけを持って、玄関へ去っていく。
私はまた、それを眺めながら、なんとなく思考がぼんやりしていることに気がつく。
…今日は疲れてるのかなぁ。
もう早く寝てしまおう。
そう思って、姫魚さんのベッドに横になり、目を閉じる。
そのまま、ゆっくりと、けれどすぐに私は眠りに落ちていった。




