2*トマトジュースとカメラマン
春の晴れた空を眺めながら、二人席用の机を拭きあげる。
黒の机がピカピカと光りだしたら、次の机に移る。
仕事にはこだわりがある。お客さんを笑顔にするためのこだわり。
…なんて、バイトの私が言うことじゃないか。
不意に店の扉が開き、カランコロンと軽やかな音が店内に響く。
「いらっしゃいませ」
テーブル拭きをやめて、扉の方を振り返る。
扉の前には、やわからい笑みを浮かべた男性が1人。
「姫魚さん!いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「今日はカウンター席かブロック席、どちらになさいますか?」
「じゃあ、カウンターで。いつものやつお願いします」
「かしこまりました」
来店したお客さんは、柔らかい雰囲気と声音をもつ、姫魚 翠さんだった。
姫魚さんは、今やこのカフェ、Little Ordinaryの常連客の1人だ。
「キッチン入ってますか?」
「入ってるよ〜」
「じゃあ、トマトジュースお願いします」
「はいはーい、あ、姫魚さん来てるの?」
「はい、カウンターに座ってらっしゃいます」
「そっかそっか!」
このお昼と夕方の間の、微妙な時間帯はとてもお客さんが少ない。
そんな中必ずと言っていいほどやってくるのが姫魚さんだ。
んー…多分、カメラ関係の仕事をしてるんだろうけど、この時間帯は休憩とかなのかな。
そう予想する理由としては、姫魚さんはいつも首からカメラを下げていて、たまにこの店の風景を撮ったりもしているからだ。
「はい、トマトジュース」
「ありがとうございます〜」
トマトジュースはうちのメニューにない。けれど、姫魚さんが一番初めに、連れの人に誘われてここに来店した際頼んだのをきっかけに、裏メニューとして取り扱うようになった。
「お待たせいたしました、トマトジュースです」
「あぁ、ありがとう」
静かにジュースを飲み、パソコンを広げてなにか作業をしたあと、姫魚さんは帰る。約1時間弱くらい滞在するのが常だ。
「白雪さん、前髪切ったんだね」
「気づきましたか?!」
「うん、見てすぐに気づいたよ。えーっと、アシメ?っていうんだっけな、そういうの」
「そうですよ!よく知ってらっしゃいますね〜!ていうか、気づいてくれたの姫魚さんだけです。ありがとうございます〜」
「いいえ。…よく似合ってるよ」
姫魚さんとは、よく日常的な会話をする。お店が暇な時間帯に来るのもあるけれど、それ以上に会話が上手で話心地がいいのだ。
「えへへ、煽てても何も出てきませんよー」
「ん〜、残念」
残念って!ひどいですよ〜、なんて言いながら、談笑をする。
最近、このひとときがすごく楽しい。
「白雪さん、ちょっといいかなー?」
「あ、はい!それじゃあ、失礼しますね」
「はい、いってらっしゃい」
にこにこと、穏やかに私を見送ってくれる姫魚さん。
__そんな穏やかな瞳は、白雪つゆきを、やんわりと追いかけていた。
一人称が僕っていいですよね…。
え?姫魚さんが完全に作者好み?
ちょっとよくわかんないっすね。