14*嫌な予感
下校時間になり、部活のない私は1人で校門を出た。
眠森くんに、一緒に帰らないかと誘われたが、一人になりたくて断ってしまった。
…とにかく、今の状況を整理したかった。
教科書の落書きにくわえ、体操服がびりびりに破られていた。下駄箱には、大量のゴミが溢れんばかりに入れられていた。
よく考えなくても、何をされてるかはわかる。
けれど、その理由が思いつかない。
…私は、なにをしてしまった?
「ねぇ、ちょっと」
「…はい?」
近道しようと、路地に足を踏み入れた。
その直後、後ろから声をかけられ、振り返る。
そこには、いかにも上位カーストらしい見た目の女子が6人ほど。
…既に嫌な予感はしていたけれど、こんなに早く的中するとは誰も思わないだろう。
「あんた、針葉くんといちゃいちゃしすぎじゃない?彼女かなんかなの?」
「…いえ、ただの友達です」
「なのにあんな態度なの?!うっわ、やっぱヤリマンだったんだ!!ちょっと顔がいいからって、ほんっと最低ね!!?」
「まぁ〜?これまでも色んな男とヤってきたんでしょ?癖なの?そーいうの」
「やっだ〜!きもーい!!」
女子6人は、次から次へと、ありもしないことを口にする。
私はその言葉を聞きながら、ふと、姫魚さんを思い出していた。
…会いたいなぁ、姫魚さん。姫魚さんの笑顔をみたいなぁ。
「ちょっと?!話聞いてんの?!」
「聞いてます」
「なにが聞いてます〜よ!!ほんっと気に入らない!!死ね!!!」
肌が黒めの女子が、どかっと、蹴りを1発。私の脇腹に命中した。
その後に、顔に平手を1発。
何度も何度も殴られ、蹴られ、耐えられずしゃがみこんだ私の頭を、誰かが踏み付ける。
…痛い。すごく痛い。
なのに、私は苦痛を感じてない。
もっとひどい苦痛を、どこかで感じたように。
「君たちなにしてるの?」
不意に、また後ろから声がした。
振り返る元気はなくて、私はその場に倒れ込む。
「別に?あんたに関係ないでしょ。どっかいけよ」
リーダー格っぽい、おそらく肌の黒い女子が言う。
あまり怖気付いてはいないらしい。
「関係あるよ。僕、カメラマンなんだ」
「は?だから?」
「僕はただのカメラマンじゃない。君たちは知っているかな?警察と連携しているカメラマン、っていうものを」
警察、という言葉に反応するかのように、ずりっと、女子達が足を半歩下げる。
そして私はというと、意識が朦朧とする中、私の後ろの話す声が、姫魚さんであることに気づいていた。
けれど、いつもの柔らかい声ではなくて、トゲのある、触ったら怪我をしそうな声音だった。
「仕事内容は大体わかるよね。僕が撮った写真は即警察のそういう部署に届く。そういうことだから、じっとしててね、写真撮るから」
カメラを構えたのだろう。女子たちは慌てて言い返し始めた。
「け、けいさつ?こんなことでなんになるのよ?」
「そうよ!写真だけじゃ証拠にもなんないし!!」
「そうかもしれないね。でも、どうだろう?今すぐ、警察がこの場に来たら、言い逃れはできないね」
そうして、カメラのシャッター音を響かせる。
「うそ、こいつまじじゃん!」
「ちょ、逃げよう!!?」
女子6人は、つまずきながら来た道を走って逃げていく。
その後ろ姿を見ながら、私はまだ朦朧とした意識のままだった。
「…つゆき」
やっぱり、聞き覚えのある声だった。
私の名前を呼ぶ声は、姫魚さんだ。
「ごめんね。…また僕は、君を助けてあげられなかった。…つゆき、ごめんね」
姫魚さんは、倒れた私を抱き起こして、優しく抱きしめた。
はっきりとしない意識では、何も考えられず、ただそのぬくもりを感じるままだった。
「さあ、家に帰ろう」
私を抱き上げて、姫魚さんは歩き出す。
その浮遊感が気持ちよくて、私はそのまま意識を手放した。




