エピローグ - F a k e r -
言ってしまうと、何ともつまらない戦闘だった。
何と言えばいいだろう。例えるならば、折角のバトルシーンなのに相手も味方も透明化の魔法を使った所為で、姿の見えないバトルになってしまった様な。もしくは、折角のラスボスなのにチートを使って数秒でぶっ殺してしまった様な。
いや、どちらかと言うとゲームの達人が四人で雑魚モンスターを滅多打ちにするという様な。
──────みたいな、つまらなすぎる戦闘だった。
◇◆◇
『ァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
駈け出すアンリ・マンユ。それとほぼ同時に、大和は前に出た。大和の体は以前とほとんど変わっていない。変わっていると言えば服装ぐらいだ。だが、目に見えない部分は大きく変わっていた。
例えば、膂力。分かりやすく言えば、筋肉。大和の筋肉は、アフラ・マズダと一体化する事によってスマートで強靭な筋肉となった。見た目は以前と変わらなくとも、その膂力は以前の数百倍にすら達していた。
つまり。
油断した相手なら、一撃で致命傷を与える事が可能という事だ。
変わった部分はそれだけではない。
大和は膂力よりも、更に大きく変化した部分がある。それは、魔法。以前までの、まだまだ発展途上だった魔法の技術が跳ね上がっていた。それはもう、初心者が次の日に達人になってしまったように。
一撃必殺すら可能な膂力。
それを支える、魔法の技術。
それが揃うとどうなるかなど、分かりきっていた。
更にそこに、神々の知恵も組み合わさる。
アンリ・マンユが一歩踏み出した頃には、大和は二歩目だった。
アンリ・マンユが二歩踏み出した頃には、大和は五歩目だった。
アンリ・マンユが三歩踏み出した頃には、大和は──アンリ・マンユの背後にいた。
『?!?!』
まるで、瞬間移動でもした様にすら錯覚した。アンリ・マンユは背後に向けて拳を振るうが、その頃に大和は既にアンリ・マンユの攻撃範囲外にいた。
ぎょっとしてアンリ・マンユが目を見開いているのを、少しの間面白そうに眺めた後、大和はネタばらしを始めた。
戦場で理由を答えるなど、本来なら『殺して下さい』と言っている様なものだ。だが、それを大和は平然とやった。
その理由はと言えば、あまりに単純明快。それだけかと聞き返されてもいい程に、単純なのだ。
勝てるから。
……それだけ、である。
「アンリ・マンユ、何でそんなに速く動けるんだよーって顔してるな」
『ッ……黙れ』
「ガウス加速器、重力加速度、縮地。それとその他簡単な重心移動とか移動法とかを組み合わせた。それだけだよ」
事も無げに、言い放った。
ガウス加速器。
ネオジム磁石の様な強力な磁石を二つ、そこに数個の鉄球を置く。そしてネオジム磁石側に別の鉄球を当てると、その反対側にある鉄球が高速で弾き出される、と言うものだ。
……何故高速で弾き出されるのか、と言われれば結構簡単なものだ。
ネオジム磁石はとても強力な磁石である。ならば当然、そこに引っ付いた鉄球を取るのにも大きな力が必要となる。
それに対して、数個の鉄球を並べたものをネオジム磁石に付けたものの、ネオジム磁石から最も遠い場所にある鉄球を取るのには、殆ど力は必要ない。これは、ネオジム磁石から遠い為に磁力も弱くなっている為だ。
高速で弾き出される原因。それは、鉄球がネオジム磁石に衝突する際に起こるエネルギー (=ネオジム磁石に直接引っ付いた鉄球を取る為に必要な力)と、ネオジム磁石から離れた場所の鉄球を取る為のエネルギーの差にある。
前者のエネルギーを百、後者を十とするなら、その差である九十のエネルギーこそが、鉄球を高速で弾き出す原因である。
このガウス加速器を、大和は簡単に作り出した。と言っても、結構雑であるが。なんせ、今説明したものとほぼ一致しているのだから。……つまりは、磁石と鉄球を用意して、弾き出される鉄球の衝撃を使って移動したということだ。……鉄球に自ら衝突して。
ちなみに、磁石は電磁力を利用して相当適当な使い捨て強力磁石を作った。
重力加速度、とはそのまま、重力による加速の事である。簡単に説明すれば、物を落としてから、その物が時間毎にどれだけ加速するか、である。
これは、魔法によって重力の向きを変えただけだ。
縮地。
……まぁ、言ってしまえば特別な移動法、である。もともとは仙術であったものを、アフラ・マズダは人間用に改造していた。それを使ったのだ。
「……まぁ正直、自分自身に磁力をもたせて、磁石と磁石の反発力を利用した移動法もあったのだけど」
アンリ・マンユは、理解した。
理解してしまった。
────勝てない。
咄嗟に、アンリ・マンユは体を反転させる。そして身を屈め、颯爽と逃げ出そうとして──転んだ。
直後、アンリ・マンユの足に痛みが走った。どうやら、足を斬られた様である。
『────は』
「俺の事、忘れんなっての」
宙を飛ぶアンリ・マンユが見たものは、Rの姿だった。
しまったと舌打ちをし、だが諦めない。宙を舞う数秒という僅かな時間の中で、どうすれば逃れられるかを必死に考える。
必死に。
一時退却である。体勢を立て直せれば、きっと勝機はある。今は調子が悪かっただけなのだ。
……必死に。
そうだ、アジ・ダカーハを取り込めばいい。アジ・ダカーハの力を取り込めさえすれば、圧倒する事など簡単なのだ。
……考えた。
そもそも、我は原初の絶対悪なのである。その我こそが、アジ・ダカーハの力を十全に発揮できる。今までのアジ・ダカーハの数倍の力を引き出す事など用意だ。
…………ひたすらに、ひたすらに。
アジ・ダカーハまでの距離は約百メートル弱、その中間辺りに若干他よりも盛り上がった地面がある。風の動きは、見事に追い風。湿度六十七パーセント。気温十五度。
気圧が、変化している。今から五秒後に強力な追い風がくる。それに乗れば若干たりとも速度を上げられる。
まず、地面に手を付け────
…………考えた。
…………だが、
それがどうしようもない考えだという事ぐらい、とっくの昔から理解していたのだ。
「「覚悟しろ、アンリ・マンユ」」
空から、二つの声が落ちてくる。
雲から顔を出した太陽の光が、その二人を影で写す。
『糞がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
まだ、まだ、なんとかなる。
アンリ・マンユはぐるりと宙で体を反転させ、二人に向き直る。それと同時に左腕で地面を抉り、砂を握り締める。そして、その左手を二人に向けて放っ──
ザンッ。
直後、何かがアンリ・マンユの左右を通り抜ける。
走る、痛み。……真っ赤な液体を飛び散らせながら、宙を楽しそうにくるくる回る、二つの腕が、見えた。
『…………ぁ』
太陽によって逆光となり、アンリ・マンユは二人の表情を見る事は出来なかった。だが、見えなくとも、どんな表情をしているかという事ぐらい、すぐに分かった。
怒り、である。
そうか、終わりか。アンリ・マンユは、ゆっくりした時間の中で、のんびりと考えた。何故、こんな時間の流れなのか、という疑問は出てくることはなかった。代わりに、よかったと、考えた。
いつからだったか。いつから、我は勝てないと理解したのだろうか。
つい先程? 違う。
五分前? 違う。
初めて出会った時? いや、それも違う。
この世界に来た時? 違う、それよりも、もっと前。
……アフラ・マズダと出会った時、か。
そうだ、ようやっと思い出した。
我は、絶対悪だ。だが。絶対悪でありながら。
我は。我は、絶対善に、憧れてしまっていた?
過去、アフラ・マズダと相対し、そして敗北した時に、我は憧れてしまったのか。
-
悪とは即ち影。
善とは即ち光。
影とは、光があってこそ現れる。
だが光は──自分の力で現れる。
光は、何かから影響を受けて現れるものではない。光とは、自らの力でもって現れる。
影は、そこからついでに現れたに過ぎないのだ。
悪とは、善があるからこそ現れる。
世界が全て善で構成されていたら? ……善、それは確かに良き事である。だが同時に、それよりも“楽な”道がある。それがあるからこそ、そこに行きたいと思うからこそ、悪が現れる。悪とは、全てが揃ったもの。善だけでは絶対に揃えられないものが揃ったもの。誰もが、それを一度は考える。
だが、世界が全てが悪だったらどうだろう。全てが揃ったものが普通なのなら、一体だれが善を考えるだろう。全てが揃って、満足しているのに、だれがその全てを手放したいと考えるだろうか。
つまり、善とは、己に枷をつけるという事。その枷があるからこそ、善でいられる。
だが、枷がなくなればそれは飢えた猛獣の如きもの。それ即ち、悪である。
果たして、悪が勝つには。
さて、どうするか。
どうも、出来ない。
事実、アンリ・マンユがそうであった。
悪からすれば、善とは、届かぬ所にあるもの。
如何様にしても手をかける事など出来るはずもない所にあるもの。悪とは自由ではあるが、同時にその足をつける地面はとても、深い。善が歩く道よりも、ずっと下に。ずっとずっと、下にある。
故に、届かない。
完全な悪には、遠すぎた。
あまりにも、遠すぎた。
完全であるが為の、失敗。
完全とは同時に、大きな隙でもある。
よって、絶対悪には届かない。
届くはずもない。
-
ははは、と、アンリ・マンユは小さく笑った。
この世界は、この世界では、完全である事が最強な訳ではないのだ。寧ろ、中途半端こそが最強だとも言える。
簡単に言って仕舞えば、人間こそが最強であるという事だ。
人間とは神と違って、雑念が多い。
だからこそ強いとも言える。
人間には届かないものが神だと言われがちであるが、この世界では違うのだ。
神の天敵こそが、人間なのだ。
同時に、神の天敵は神でもあるが。
要は、神はそこまで万能でもないと言える。
だから勝てない。
……なぜこんな事を、考えたのか。アンリ・マンユも不思議である。
もしかすると、そう言う理由で負けたのだと思いたかっただけかもしれない。
『は、は』
太陽の光に、アンリ・マンユは目を細める。
「終わりだ」
大和の声が響く。
Rは武器を構える。
アンリ・マンユは、目を閉じた。
「さよなら。アンリ・マンユ」
『…………』
大和と、Rの武器がアンリ・マンユに向かって伸びる。
そして、武器がアンリ・マンユに触れるか、と言うところで、
アンリ・マンユの口が、少しばかり開いた。
『────』
直後、アンリ・マンユは消滅した。
◇◆◇
「あの、次はどこに行くんですか?」
サイカが首を傾げながら問う。
それに答えたのは、大和だった。
「んー、じゃあ、あのへん?」
「「「「どの辺?!」」」」
ビシッ、と突っ込むのは白百合、揚羽、椿、蓮司である。
そして、その一連の流れを聞いていたブラフマーとシヴァが声を上げて笑った。ヴィシュヌは、大和の“中”でクスリと笑った後、外に出てきた。
明るい声が、響く。
空には星空が広がり、その中には一際明るい光を出す月がある。
その下では、焚き火を囲んで楽しそうに話し合う者達がいる。
パチンッ、と薪木が音を上げる。まるで薪木までもが大和に突っ込んだようで、サイカはくすっと笑った。
「じゃあ、そのへんで!」
サイカがニコリと笑いながら言うと、大和は「おう」と言った。同時に蓮司が「どこに行くつもりだよ」とも言った。
ぴゅうと、風が吹いた。
グランベヒーモス、もといアンリ・マンユとの決戦があったのは、今から既に一ヶ月前の事である。
◇◆◇
決着がついた直後、アンリ・マンユの体は砂のように小さな塵となって空へと上っていった。同時に、アジ・ダカーハの体も同様に消えていった。
そして、それを追いかけるかの如く、アフラ・マズダやアムシャ・スプンタも大和の体から抜けていった。
一気に脱力し、大和はがくりと膝を落とした。
それからの事を簡単に説明すると。
まず、Rはアンリ・マンユ討伐後に颯爽とどこかに消えた。
その後、大和達は勇者とともにアクシスに帰った。
勇者は意気消沈した状態であったが、街に帰ると、あたかも勇者が倒したと言うような具合であった。つまりは、大和達は主役でありながら、脇役として扱われていたのだ。
勇者のリーダーである一心が叫ぼうとしたが、それを大和は止めた。そして、「そういう事にしとけ」と言った。
結局、グランベヒーモスを討伐したのは勇者という事になり、大和の存在はまるで影のように勇者に付き纏うものとなった。
それから大和達は民間の治療施設に連れて行かれ、そこで一週間を過ごした。対する勇者は、国の中でも最も大きな治療施設に運ばれた。
大和、蓮司、揚羽、椿、アルテミスは重症だった。大和、蓮司、揚羽、椿は相当のダメージではあったが、意識はあった。だが、アルテミスは意識すらなかった。
だが、白百合の積極的な回復魔法によって、アルテミスは一週間経った頃には目を覚ました。実はこの時、白百合も魔法が変質していたのだが、気付く者はいなかった。
ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌは、戦闘終了後に「「「疲れたー」」」と言って大和の“中”に入っていった。そして三日間音沙汰が無く、四日目に元気メーターMAXで大和の体から出てきた。
どうやら、三人は大和の“中”に入っていれば回復するらしい。
一週間経った頃には、ほぼ全員が完治していた。例外はアルテミスだけだった。だが、アルテミスも傷は治りつつあり、そこまで悪い方向には行かないと聞いた。
いつも通りとなった大和達は、そこでアルテミス達と別れ、またのんびりとした旅を再開した。
今回は、サイカも一緒であるが。
……余談ではあるが。
前々から殆どぐっすりと眠る事が出来なった大和は、それをまた継続する事となった。今回は前の様な混沌とした世界ではなくなったが、女性陣が話し合ってある条件が作られていた。
……例えるなら、掃除当番の様なもの。一日目はブラフマーとサイカ。二日目は白百合とサイカ、三日目はシヴァとサイカ……という様にその日その日で一緒に寝る人が決められていた。大体、一緒に寝る人数は二人から三人である。
ちなみに、サイカはどうしても大和と、という事で常時サイカは一緒である。大和と寝たい勢は、白百合、椿、ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌ、サイカである。……どこからどう見ても、ハーレムである。だが本人に自覚はなく、同時に周りの者にも自覚はない。
大和達が旅に出たのは、アクシスに帰還してから八日後であった。
その大和達は知らない。
勇者達が、国王からの賞を受け取らなかった事を。それは、大和達が町を出てから二日後の事であった。
同時に、この事も知らない。
勇者が、強くなる事を決意したことを。
そして、今に至る。
◇◆◇
旅が再開してからは、また今まで通りだった。グランベヒーモスの存在がどれだけ被害を出していたのかがよく分かった気がした。
……と言うか、全部グランベヒーモスが原因なのだが。サイカと出会えたのはグランベヒーモスのお陰でもあるが……同時にグランベヒーモスと戦う事となった。
いつも通り……とは言ったが、若干違う部分もあったのだが。
サイカもそうであるが、一番は……蓮司と揚羽である。
どこか、余所余所しいのである。
それが何であるか、大和には一切理解出来ていなかった。
どれ程のものなのか、と言われると……
「な、なぁ、揚羽……」
「ひゃっ、えっ、なん、な、なっ」
「え、あ、な、んでも……」
「えっ……あっ……うん……」
「うん…………」
「…………」
「…………」
……と言う具合に。
大和には何が何やら。なんせ、蓮司は大和と話す際はそこまで余所余所しくはなく、白百合と揚羽も同じである。
更には、揚羽と大和で話しても余所余所しくはなく、蓮司と白百合でも、である。
なのに、何故蓮司と揚羽は話せないのだろうか、と約一ヶ月経った今でも悩んでいる。
それとは正反対に、椿と白百合と三姉妹 (ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌの三人の総称)はひゅーひゅー言っていた。ただ、ヴィシュヌは小声であるが。サイカも顔を赤くして見ていた。
実は以前、二人があまりにも余所余所しい為に大和がある行動を起こした事がある。お互いに目を逸らしている為、無理矢理にも視線を合わせてみたのである。頭を鷲掴み、ぐるりと動かして。
交錯する視線。
直後炎が二つ沸き上り、大和の手を焼いた。
あちちと大和が手を離すと、さらにその直後、二人の息ピッタリな二つの拳が大和の顔面を捉えた。
「ゴブッ……あっ、ひでぶっ」「親父にもぶたれたことないのにィィ」と大和は叫んだがそれが誰かの耳に入ったことはなかった。
ちなみに、その後白百合から「大和、お前もか」とどこぞの名言もどきを言われた。どうやらRの影響を受けたらしい。
とまぁ、そんなこともありながら、大和達はごく普通の旅を続けた。
現在、大和達はサイカの要望により、人間の世界を旅している。大和達が召喚された国から、他の国まで。回れるところを、ただ回った。言うなれば、観光ツアーのようなものである。
神奈川にいって、東京に行って、千葉に行って、のような。
それと、サイカが捕まっていた貴族の館に囚われている他の獣人であるが……既に誰一人としていなかった。
サイカ曰く、獣人が来たらしいとの事。もしかすると、というよりほぼ確実に、獣人がわざわざ人間の世界にまで足を運び、助けたのだろう。サイカはホッとしていた。
時が過ぎるのは早い。
いつの間にやら時は三ヶ月も経っていた。その頃には、人間の世界での有名な観光名所などはほぼ全て回っていた。
同時に、大和達の熟練度もうなぎ登りであった。実際、グランベヒーモスやアジ・ダカーハと対面し、戦っているのである。それ以上の敵と遭遇する事などなく、随分と楽な戦いが続いていた。その為、自分に“戒め”を作り、わざと動きを鈍くした状態での戦闘をしていたのだ。
その効果もあって、今では熟練度は最大値まで上がっていた。
その頃には、大和、白百合、揚羽、蓮司、椿は自分様の必殺技、のようなものを持っていた。
白百合は、魔法特化。近接戦闘の能力が下がる代わりに、魔法の威力が向上するというものである。ちなみに、これは常時発動の能力である。それともう一つある。魔法創作である。読んで字の如く、魔法を作るというものである。
魔法創作は、勇者の創造魔法の魔法特化バージョンである。それ故に、創造魔法で作り出す魔法よりも数段上の物を作れる。
揚羽は、特殊近接戦闘術。これは簡単に言えば、『サポートに特化した近接戦闘』ということだ。つまり、大和や蓮司が近接戦闘をしている際に、それをフォローする形での立ち回りが出来るのである。
ちなみに、これを持っているからといって普通の近接戦闘が出来ないということはない。
それと。これは剣との相性が良い能力だ。槍とでも会うには合うが、一番効果を発揮できるのは剣との組み合わせなのである。こんなところでも蓮司と相性がいい。
蓮司は、一撃必殺。相手がどれだけ万全な状態でも、その一撃が当たりさえすればほぼ確実に勝利出来るという能力である。ブラフマーストラの劣化版のようなものだ。どこが劣化しているのか、と言えば、その為に複数の条件をクリアしなければいけないというところだろう。その条件は戦闘の度に変わる。
条件とは、例えば『相手の特定の部分に攻撃を当てろ』であったり、『武器に魔力を込めなければいけない』であったりと様々である。中には『指定された時間に攻撃を当てなければならない』というものまである。
…………これは、実はサポートがあれば十全に能力を発揮である能力でもある。サポートされれば、その条件をクリアしやすくなる為である。これまた、揚羽と相性がいい。
椿は、神獣の加護。体感時間を操作することによって、格段に身体能力を上げることができる能力である。その変化は予想以上に高い。例えば体感時間を操作し、実際の一秒を十秒に感じられるようになったらどうなるだろうか。……簡単である。〇.一秒を一秒として動けるということだ。
今現在の限界は、現実の一秒を三秒に引き伸ばすところまでである。だが、それでも相当の身体能力の向上である。
そして、大和は──模倣者である。
これはアンリ・マンユとの戦闘で覚醒していた。能力は、模倣する事。ブラフマーストラも、トリシューラも、ヴィシュヌのアヴァターラでも、見たものであればなんでも可能である。
だが、この能力の弱点は、二つある。
一つは、大和がその行動を完璧に把握できないと、模倣できないというものである。つまり、大和に認識できない速度で移動する能力などは模倣できない。
もう一つは、本物と比べると劣化するという点だろう。
つまりは、本物を持っているものがいるのなら、その者に使わせた方が十分上手くいくと言うのがあるのだ。ただ、この能力は一対多ではこれまた予想以上の能力を発揮できる。劣化するといっても、能力は能力である。本物が強力であれば、劣化版でも十分に強力なのである。
いつからか彼らは有名になる程に、強くなっていた。
その有名さと言えば、勇者に負けず劣らず。である。
観光名所をほぼ回りきった大和達は、そろそろかと思っていた。
そして今日、決めた。
「んじゃあサイカ」
「なに?」
「帰る、か?」
大和の言葉に数瞬固まったのち、サイカはゆっくりと口を開く。
「会いたくなったら、会える?」
「あぁ、可能な限り会いに行きたいね」
その言葉を聞いたサイカは、大きく首を縦に振った。そして、小指を勢いよく大和に突き出す。
「ん! 約束!」
「おう、約束だ」
サイカの小さな小指を大和は、自身の小指を包み込む。そして数度上下に振った後、お互いに離した。
つまりは、『指切りげんまん』である。
それを終えた大和は立ち上がり、次の目的地を決めた。
「うし、獣人世界に、行くか!」
「「「「「おー!」」」」」
掛け声を、空に打ち上げた。
「ところで大和、どうやって行くの?」
「あぁ、それはな……アフラ・マズダの置き土産、転移魔法で行く」
転移魔法。残念ながらこれで地球には戻れないが、この異世界ならどこへでも行けるらしい。それが惑星間であっても。簡単に言えば、『ど○でもドア』である。
「そっかぁ」
「まぁ、使うのは初めてだけどな。失敗したらめんご」
「「「「ダメじゃん!!」」」」
矢張りと言うか、笑い声も空に打ち上がった。
……次の旅は、獣人の世界である。
だが、大和達はすっかり忘れている。
人間世界と獣人世界は、仲が悪いことを。
だが、大和は、大和なら、それを知っていても行っただろうが。
なぜそう考えるのか、と言えば大和の元々の思考が、という理由もあるが、もう一つある。
それは、アンリ・マンユの最後の一言である。
『抗って、打ち勝ってみせろ。大和』
──────to be continue …………




