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アジ・ダカーハ戦 III

「偽りを解き放った姿、それが今のお前らだ。……と言うか、お前らに初めから備わっていたものを解放したんだが……」


Rは、二人の顔を見て、自分の考えがすぐに確信に変わった。


蓮司と、揚羽。彼らは大和と言う、予想外に・・・・大きな存在によって無意識に自分を縛ってしまっていた。


大和を超えることなど、自分には出来ない、と。

大和なら、何とか出来るだろう。と。

大和に任せておけば。と。

大和になら。と。


Rがそれを理解した時、


────阿保か。


と、思った。


何故大和をを過大評価するのだろうか。何故大和を神の如く見てしまうのだろう。

一瞬そう疑問に思ってしまうほど、二人には秘め(・・・・・・)られた能力(・・・・・)があった(・・・・)。……正しくは、秘められた能力がある様に見えた、だろうか。

そしてその能力は、もし上手く扱えれば大和と互角に戦えるだけのチカラを秘めている、という事も同時に分かった。


……大和は、異世界に誰よりも早く馴染んだ。馴染めてしまった。それによって大和は誰よりも早く能力に目覚めた。

それは蓮司と揚羽にとってはあまりに巨大で。

まるで地面から眺める空の様に、とても手の届かない様な場所にある様な気がしてしまって。


無意識に、心に鍵を掛けた。


「まぁ、今ならアイツアジ・ダカーハに対抗できるだろ?」


けど、今、それに小さなヒビを入れた。

まだ、小さな、小さなヒビではあるけれど。

それは大きな一歩でもあった。


二人は強く頷いた。その瞳に強い炎を滾らせて。


「オッケェ、いい答えを貰った。なら、俺が導く。大和の所まで」


Rは、その炎にガソリンを投げ込み、さらに大きく燃え上がらせる。

これが二人の新しい人生の始まり。

追いかける人生ではなく、肩を並べる人生。


「……五秒で到達させてやる」


Rは笑いながら二人の背中を叩き、言った。


「さぁ……見極めて、真似フェイクしろ」


Rの手が背中に触れた瞬間、二人を包んでいた光が一瞬揺らいだ。


『グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』


その直後、アジ・ダカーハが音速を超えて二人に迫った。

見るものを全て畏怖させる、怒れる龍の表情で。

バキバキと指を鳴らし、迫った。


きっと、数十分前の二人なら、間違いなく恐怖した。

恐れ、後ずさりしてしまった事だろう。


だが、今は違った。

その瞳は一切揺るぐことはなく。

寧ろ相手を、練習台としか思っていないような表情で見ていた。


二人は、剣を握り締める。


それに呼応する様に、体を包んでいた光は一層強くなり、やがてそれは体内に吸い込まれていった。その直後、蓮司の肌には黄金の、揚羽の肌には朝縹あさはなだの光の線が走る。

それは血管の如く体中に張り巡らされ、すぐに光の失った。


辺りを照らしていた光が消える。まるで今までの光景が嘘だったかの様に。何かの幻影だったかの様に。

アジ・ダカーハはニヤリと嗤い、二人に向けて高速の腕を振るっ──えなかった。


『?!』


腕を振るおうとした時には既に、そこに二人はいなかった。ただ、そこに二人がいたと言うことを表す足跡だけが残っていた。

粘土に指を突き入れた様に、深く、深く穿たれた、足跡だけが。


その直後、アジ・ダカーハの体中から大量の血が噴出した。


『?!?!』


アジ・ダカーハは混乱する。

だが、ふと後ろを見た時その混乱はなくなった。ただ、同時に怒りが沸々と湧き上がった。三つの頭全てで怒りを表す。


そこには、両刃の剣を持った男と、双剣を両手に持った女がいた。

つい数十分前とは異様なほどに変わった、二人がいた。


何故異様だと感じたのか。それは簡単である。

一つ、その瞳から恐怖が全て拭われているから。

二つ、その構えは、アジ・ダカーハを真似フェイクしたものだったから。

それがアジ・ダカーハにとっては、異様に見えた。あまりに異様で、あまりに不愉快だった。


故に、その体は勝手に動き出す。怒りに任せ、ただ一直線に走り出す。走りながら右手を振り上げ、加速。瞬間的に肉薄し、その右手を振るう。

爪の先が例え数ミリでも触れれば、目の前の二人の体など一瞬で弾け飛ぶだろう。人間とはそれほど脆いものなのだ。結局どれだけ期待させられても、たった一度の攻撃で死んでしまうような、脆弱で貧弱な生き物なのだ。


どうせ挽肉に(こう)なる、とアジ・ダカーハは薄々予想しながら振るった右腕は──いとも簡単に揚羽の双剣に弾かれた。


『ガッ……?!』

「なめないで」


アジ・ダカーハは反射的に左腕を振るう。が、またしても揚羽の双剣に弾かれる。左腕を引くと同時に右腕を突き出し、その右腕が弾かれると左腕を突き出す。

それを何度も繰り返した。だが、遂には一度として触れることはなかった。


アジ・ダカーハは、唖然とした。何故触れられない、何故一度として当たらない。ふと思い当たったのは、Rの存在。まさかあの男が何かをしたのか、と考えたがすぐに掻き消した。力の譲渡は早々出来るものではないからだ。

だとしたら……引き出したのか?

そこまで考えて、アジ・ダカーハは思考を中断する。目の前に刃が迫っていたからだ。頭を後ろに下げることでそれを回避する。


苛立ちに駆られるまま、右腕を全力で突き出す。だが、またしても弾かれた。

その腕は勢いを乗せすぎた為に、引き戻すことはかなわずそのまま地面に突き刺さった。更には、体勢を大きく崩してしまった。


それは即ち、隙が出来たという事。


「蓮司ッ!」

「……おう」


揚羽はその場で体を回転させ、腕を水平に上げ、両手を重ねる。そして水平になった双剣の上に、蓮司が上がった。蓮司は剣を構え、双剣を蹴る。揚羽はそれに合わせて、双剣を振るう。

見事な技の組み合わせコンビネーションは、通常の移動速度の更に数倍の速度で蓮司を動かす。


隙が出来たアジ・ダカーハに向かって飛翔する蓮司。当然アジ・ダカーハはそれを阻止すべく左腕を蓮司に向かって振るうが、


蓮司はその拳を見てすらいなかった。


蓮司はその剣を、大きく振りかぶる。それも、体が反対側を向いてしまうほどに。

蓮司は無防備な背中を堂々と見せつけながら、アジ・ダカーハの怒りを誘う。そしてアジ・ダカーハはと言えば、見事に怒っていた。


当然と言えば、当然だろう。

なんせ、命の取り合いをしていると言うのに敵に背中を向けるなど、死にたがりかはたまた阿保か。その背中はアジ・ダカーハに、「殺してくれ」と言っているのも同然なのだ。

真剣な戦いを愚弄するも同然の行いに、怒らない筈はない。


『ガァァァァッ!!』


アジ・ダカーハの咆哮と共に、その左腕は容赦なく蓮司の背中に向かって突き出される。その速度は今までの攻撃速度を遥かに上回る速度であり、避ける事など、不可能である。


そして、直撃──……


「怒りの籠った攻撃ってのは、大体単調になるって事ぐらい知ってただろ?」

『?!』


……──する事はなかった。


それはとても簡単だった。

ただ、蓮司は体を横向きにしただけ。ただ、横を向いただけなのだ。たったそれだけ、それだけで避けた。避けられてしまった。


単調になった攻撃、それは即ち直線的な攻撃となるという事。そう、アジ・ダカーハの左腕は、ただ蓮司を殺す事、つまり心臓を穿つ事だけを考えたが故に、心臓に向けて一直線に左腕を放ってしまったのだ。

野球で言えば、ど真ん中へのストレート。

サッカーで言えば、ゴールキーパーに向けて放つシュート。

じゃんけんなら、次に出すものを宣言してから出したもの。

そんな事をすれば、相手にチャンスを与えてしまうという事ぐらい、分かりきっている。……アジ・ダカーハの一撃は、それと然程変わらない。


例えアジ・ダカーハの一撃がどれだけ速くとも、何処に放たれるのかが分かっていれば、当たる事はない。


軽くその一撃を避けた蓮司は、アジ・ダカーハに渾身の一撃を喰らわせる。


アジ・ダカーハの左腕を避けた体勢──横向きの姿勢──の際、アジ・ダカーハとは反対側にあった剣を全力で振るう。

剣を振りながら、両足を突き出されたアジ・ダカーハの左腕に乗せる。これによって蓮司の体勢は地面と平行となった。そして、その状態のまま下から上に剣を斬り上げる。


「ハァッ!!」


ザン、と音を立ててアジ・ダカーハの右腕が肩から切り離され、血飛沫が辺りに飛び散った。

一滴の血が、頬についた。


『ガァァァァァァァッ、ァァァァァァァァァァッ……』


更にそれだけでは終わらない。

斬り上げを終えた瞬間から蓮司は体を反対に回転させる。斬り上げの為に反時計回りに回転していた体を、無理矢理時計回りに回転させたのだ。

そしてそれはつまり。


高速の二度目の攻撃であり、斬り下げである。


右腕を失った直後のよろめくアジ・ダカーハに避けられる筈もない。その斬り下げは、アジ・ダカーハの胸を大きく斬り裂いた。

が、これは恐らく天性のカン、なのだろう。アジ・ダカーハは咄嗟に後方に飛び退き、蓮司の二撃目による被害を最小限に留めた。その為、胸の表面が剣の先で若干斬り裂かれた程度ですんだ。


が、飛び退いた先には揚羽がいた。

きっと、アジ・ダカーハは焦っていたのだろう。それ故に、状況把握を怠ってしまった。


「隙ありっ」


双剣による、最高速度の百連撃がアジ・ダカーハの背中に叩き込まれる。防御など出来るはずもなく、アジ・ダカーハの背中は一瞬で血の海となった。


『グッ、ギャッ……』


咄嗟にアジ・ダカーハは揚羽に振り向こうとしたが、天性のカンはそれを許さなかった。

振り向いてしまえば、蓮司に背を向ける事になるからだ。


まだ揚羽は斬撃を放った後であり、すぐには次の攻撃を出せない。アジ・ダカーハの皮膚は硬質である。その為、己の重量を利用して斬ることが出来る大剣ならまだしも、それを利用できない双剣ではアジ・ダカーハの皮膚を斬り裂くのに大きな力が必要なのだ。

蓮司が揚羽の攻撃中に追撃出来なかったのもこれが理由である、


現在揚羽はそれによって動けないでいる。

ならば蓮司の追撃を対処してからでも、揚羽の追撃には間に合う。


よって、アジ・ダカーハは渾身の力で振り向きそうな体を堪える。そして目の前には蓮司。

アジ・ダカーハはニヤリと微笑む。

同時に、驚愕の表情となる蓮司。


「しまっ……」

『ギッ、ガァァァァッ!』


アジ・ダカーハは蓮司に向けて走り出すと同時に上体を限界まで下げる。そして、その上体を勢いよく上げると同時に右足を振り上げる。

アジ・ダカーハの右足は地面と水平な状態で蓮司に向けて放たれる。蓮司は咄嗟に剣を構えるが、それは明らかに遅すぎた。

アジ・ダカーハの右足が蓮司の剣に衝突する。その直後、爆音が鳴り響く──

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