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グランベヒーモス戦 X

大和には、その一撃は遅すぎた。


グランベヒーモスの突進。それも、勇者達では全く知る事すら出来なかった速度での移動である。だがそれはアフラ・マズダらを見に宿した大和にとっては遅すぎた。


否。


正しくは大和が速くなりすぎたのだ。

それを大和は理解した。


「行くぞ、原初の絶対悪(アンリ・マンユ)。貴様のことごとくを打ち破り、完全なる勝利を掴む。

ーー“神格顕現”我に付き従えり。【不滅の(アムシャ・)聖性(スプンタ】」


大和からすれば、四方八方から迫る触手。更には眼前に迫る巨大な拳。

あと数秒……いや、あと数コンマ分の時が過ぎれば、大和は挽肉となる。1秒とかからずに。だが、大和にとってその数コンマは長すぎた。


触手は、大和に触れる事は叶わなかった。大和の右腕から発される聖性を含んだ斬撃は触手全てを叩き落とす、もしくは斬り刻んだ。

悪の名を持つアンリ・マンユ。その相手に聖性を含んだ斬撃は余りにも効果的過ぎた。


『ナ……にッ?』


聖性を含んだ斬撃は、触手を斬り飛ばすや否や触手の体内を駆けずり回り、更に広範囲をズタズタに切り裂いた。更にその切り裂いた位置からまたも体内を駆けずり回る。

それを繰り返すことで、触手を根元から切り刻んだ。これを大和は勝手に斬撃の爆発と呼んだ。


それはグランベヒーモスの拳や腕も例外ではない。


触手一つ一つに斬撃を与え終えると、大和は拳に斬撃を放った。拳は触手と違って巨大である。その為、拳全体に無数の斬撃を放った。

するとその斬撃の数と同じ量の斬撃の爆発が起こった。斬撃は合計26にも達した。そして、それは同時に触手26本を肉片に変えるほどの斬撃の爆発を引き起こすという意味である。


『……?!』


グランベヒーモスの瞳が細かく震え、目が大きく見開かれる。そしてグランベヒーモスは自分の足が震えている事に気付く。さらに、その足は少しずつ後ろに下がっていった。グランベヒーモスは心の中で嘘だろ、と叫ぶがその足が止まる事はなかった。


“神格顕現”……それはアフラ・マズダが大和に与えた切り札にも成り得る魔法。丁度R達と別れ、グランベヒーモスの元に転送する際に知った(と言うより教わった)ものだ。

神格を一時的に大和に付与する事で、大和を擬似的な神へと押し上げる魔法。大体、一度使用すると一分程で効果は切れてしまうが。だが、そんなデメリットがあろうと、それを軽く凌駕する能力を秘めている。


グランベヒーモスが焦り、後ずさりをした時とほぼ同時に、シヴァは大和腕の中で目覚めた。それも、夢から覚めたお姫様の様に。ゆっくりと目を開く。


「あ。よぉ、シヴァ。お疲れ様」

「えっ?……あ、うん……」

「どうしたのそんな死人を見る様な目をして。……まぁ、混乱しているんだろうけど、それは一先ず置いといて、と。アルテミスは無事か?」

「う、うん、急に気絶しちゃったみたい、だけど……」


それが本当に大丈夫な状態なのか、大和はアフラ・マズダに聞いた。会話は念話 (のようなもの)の為シヴァに聞こえる事はない。


『アルテミスは助かりそうか?』

『……ふん。わから『フザケンナヨ?』あ、はい、大丈夫みたいです。……若干神格の磨耗が見られるが、このまま放置しない限りは大丈夫だろう。あの「しらゆり」とか言う奴に回復魔法をかけさせれば死に至る事はない筈だ。

……アルテミスには一線を越えない為のストッパーの役割を持つ魔法がかかっていた。それのお陰で死に至る程にまでの神格の磨耗がない。それに助けられたな』

『誰だか分からんが助かったのならいっか』


「あ、あの……」

「ん?」


シヴァの言葉で大和は一度思考を中断させ、シヴァの方を向く。


「えと……大和、なんだ、よね?」

「……シヴァには俺がそれ以外の何かに見えてるのか?」

「あ、いや、そう言う訳じゃ……えっと……その……」


どうやらシヴァはまだ混乱している様だ。それも大和の存在に疑問を持ってしまう程に。頭の回転と言うか、思考の速度と言うかが普段よりも遅い。やはり、突然目の前に現れたのは失敗だっただろうかと思った。

同時に、シヴァはそれ程に辛い思いをしたのだなと思った。


くしゃくしゃとシヴァの頭を若干乱暴に撫で、それと一緒に笑顔を見せ無理矢理安心させた。(しているか不明だが)


「シヴァ、お前から見た俺が『大和』だと思うならそれを信じればいい。……要するに、だ。自分の目を、自分の感覚を信じろって事。自分の目と感覚がそれは『大和』だと言うなら、それは『大和』って事でいいだろ。な?」


大和はそう言って、シヴァの額に自身の額を優しくぶつけた。


一瞬シヴァは動きを止めて大和の事をジッと眺め、その後安心したように顔を綻ばせた。頬が若干赤いのは安心したからだろうと大和は勝手に推測し、そうだと結論付けた。


実はこの時シヴァの心臓が破裂寸前とすら思える程に高鳴っていた事を知っていたのは、大和以外(・・)の神達、即ちアフラ・マズダやアムシャ・スプンタ達だけである。


と、その時。


「わ、大和、後ろ……」


シヴァの言葉とほぼ同時に、大和の背後で何かが蠢くのを大和……と言うよりも大和の中にいるアフラ達が気付き、大和に警告を飛ばした。


「わかってるよ」


大和はニコリと笑顔を見せた後、シヴァを左腕だけで支えられるようにし、右手を可動出来るようにした。そしてその直後、大和は背後より襲い来る敵に最善の呪文を唱える。


「“神格顕現”、『我を襲う虚偽を討ち払え』アシャ・ワヒシュタ」


背後に蠢くもの、それはグランベヒーモスだった。

グランベヒーモスの姿が霞み、グランベヒーモスと言う存在が空中に溶ける。その身は空気となり、無音となった。音を一切立てず、高速で大和の首を掻き切らんとした。だが、それを果たす事は無かった。


空気となり、大和の背後に歩み寄っていたグランベヒーモスは、突然金縛りのようなものにあったように体を微塵も動かす事が出来なくなった。

それは、ブラフマーの行った鎖による拘束に似通った力。グランベヒーモスにとっては金縛りの様に感じるが、実は透明な鎖での拘束なのだ。それも、ブラフマーの鎖よりも更に強度は高い鎖だ。

あと少し。あと少しばかり触手を横にスライドさせれば大和首から上が宙を舞う。それなのに、その動作をする事ができなかった。グランベヒーモスは、これはなんだと疑問を持った。だが、グランベヒーモス自身この感覚は懐かしいとも思っていた。とても、途轍もなく昔に数度ばかりこの感覚を味わった事があったように思えた。

この時グランベヒーモスは、自身の霞んでいた姿が元通りになっていた事を知らないでいた。


『(なんだ……これは……なん、なんだ?)』


霞み始めていた些細な記憶を呼び戻す。すると一つ、今の状態にさせられた出来事を思い出した……が、それはすぐにまた記憶の奥底に突き落とされる事となる。


「“神格顕現”、『悪しき思考を打ち払え』ウォフ・マナフ」


バチン、とグランベヒーモスの脳内で雷の音がひびく。直後、電撃を身体中に流されたように錯覚した。そしてその感覚が消えた頃には、今何を思考していたのかは忘却の彼方であった。

靄のかかっていた思考は、もはや靄を感じない程に記憶の奥深くに突き落とされた。


大和が何故、グランベヒーモスの思考を無理矢理中断させたのか。それは、グランベヒーモスに対策を立てさせない為である。

アムシャ・スプンタと同格の『ダエーワ』がグランベヒーモスには備わっている。そして、アムシャ・スプンタとダエーワには相性がある。

それは水と火の関係の様なもの。水は火に強い。そんな相性がアムシャ・スプンタとダエーワにはあった。


もし大和が現在使用したアムシャ・スプンタのウォフ・マナフに相性のよいダエーワ、即ち『悪しき思考』アカ・マナフの力を使用されれば力の打ち消し、下手すると大和へのダメージとなる。

それだけは避けたいのだ。


グランベヒーモスは、自身の思考を奇妙がった。まるである一部分を切り取られた折り紙の様に、記憶が思い出さないでいたからだ。それもつい数秒前に思い出そうとしていた思考が、だ。


不安。

そして、恐怖。


グランベヒーモスはそれに飲まれまいと堪えるが、そんな時間を悠長に大和が待っている筈もない。


「“神格顕現”、『汝、我に従えり』スプンタ・アールマティ」


グランベヒーモスを締め付ける拘束がより一層強められる。それは比喩でも何でもなく腕を、体を潰そうとしていた。

負ける訳にはいかない。グランベヒーモスは脱出を試みるが、体は思うように動かなかった。もはや、それが自分の体だとは思えない程に、ピクリとも動かない。さらに同時に脳内では、動かしたくないとも思っていた。

腕を、体を潰さんとする拘束は、少しでも部位を動かせば瞬間的にその部位を破壊するのではないか。と思わせるほどの拘束だったからだ。


拘束に耐えていると突然、腕が動き出した。これはグランベヒーモスが意識して動かしたものではなかった。実際、グランベヒーモスは自分の腕を見て驚愕の表情を見せている。


『(なん、だっ?コ、れは?)』


それは、大和が動かしたものだった。だが、今のグランベヒーモスには、大和が犯人なのだと理解する程に心の余裕は無かった。


グランベヒーモスを襲う、恐怖。不安。これはアルテミスと対面した時とは別物の感覚だった。あの時はそこまで強い恐怖を感じなかった。

理由は恐らく、その恐怖の対象となるものがすぐにわかったからだろう。アルテミスの姿、弓、そしてそれにつがえられた光の矢に。


だが今回は違う。目の前の男にはアルテミス程の恐怖を感じない。例えアフラ・マズダが中にいようとも。なのにそれでも、恐怖を感じている。




アフラ・マズダとアンリ・マンユは同格。それは過去に二人が戦った事でそうだと分かっている。ちなみにアンリ・マンユはアフラ・マズダに負けているが、その敗因は先見の明を持たなかった所にある。アフラ・マズダにはそれがあった為に、勝利を得たのだ。単に実力だけを比べたのなら、決着など今でも付くことはなかっただろう。それに、今のアンリ・マンユには先見の明がある。勝利への道筋は先程は見えていた。


二人(?) の間に大きな格差があるわけではない。なら、それの入った器によって優劣がつく。即ち、ベヒーモスと大和の能力差によって優劣がつくと言う事だ。

だが、忘れてはいけない。大和はベヒーモスを討伐した事がある事を。




グランベヒーモスの心の中で行われる葛藤など大和が知る由も無い。即ち、グランベヒーモスをただひたすらに恐怖の渦に陥れ続ける。

まぁ、今の大和ならグランベヒーモスが自分自身と葛藤していると分かっていても、恐怖を与え続けるのだが。


「“神格顕現”、『我は絶対なる秩序なり』フシャスラ・ワルカ」


大和を中心として巨大な魔法陣が地面に描かれる。その大きさ、半径5km。その広大な空間の中には、秩序が生まれた。

平穏。

それを脅かすものには罰を与え、それを撃退する者に力を与える。

つまり、グランベヒーモスの力を半減させ、大和の力を増やすと言う事だ。


これは、先程までの拘束とは一味違う。物質的な拘束ではなく、空間的な拘束。所謂、「ルール」と言うようなものだ。

この他に例えるなら、法律、憲法だろう。だが、違う部分があるのならそれは、「破る事が出来ない」と言う所だろう。例え法律だろうと、破ろうとさえ思えば破る事は出来る。だが、大和の作り出した空間では破ろうという考えが起きない(・・・・)のだ。

それはグランベヒーモスも同じ事。

これによって、グランベヒーモスを先程よりも更に抑えられる。


『グッ、ぁぁ、この、塵屑が……』


グランベヒーモスは相当疲れている様だ。

……大和は、ここぞとばかりに切り札を切った。

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