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襲撃と出会い

とある、岸辺にて。


「「「「死ぬかと思ったぁぁぁ!!」」」」


目が覚めた四人の第一声である。


大和、蓮司、白百合、揚羽。彼ら四人はある獣の襲撃を受けたのだ。

それによって馬車は大破。川を木の欠片となって泳いでいる。

彼ら四人は危うく死にかけた。なんせ、突然馬車ごと川に突き落とされたのだから。受け身を取る暇がない程に高速でぶん投げられたのと同じだ。

まだ旅に出たばかり。なのに、最悪の始まり方である。


「天に見放されたのかな?」と考えたら、次に思った事は、「あの[自-主-規-制]神め!」である。

完璧に冤罪であり、濡れ衣であるが、それを咎める者はいなかった。この時空の上でゼウスがしくしくしていた事を知る者もいない。


だって、あいつならチャットとかで喧嘩になったら、

『お前マジウゼェ。滅べ』

とか言って、ケラウノスの雷霆をぶっ放しそうである。以外とマジで。

ちなみにケラウノスとは、ゼウスの武器で、全宇宙を破壊出来る程の威力を持つ雷霆の事だ。全能神=何でもありと言うのは理解しているが、規模が大きすぎる。


それより、なぜ四人は死なずに済んだのか。

それは、最高神二人の力である。

創造神ブラフマーと破壊神シヴァが協力して逃げ道を作り、やっとの思いで四人を遠くまで運んだのだ。


逃げ道とは、簡単に言うとワープホールの事だが、このワープホールを使用する為には条件があった。

それを満たせない者は、必ず気絶した状態となってワープするのだ。つまり、四人はその条件を満たせなかったのだ。条件とは、十分な戦闘能力がある事と、冷静な心である。つまり、冷静な心が無かったという事だ。まぁ、崖から突き落とされている時に冷静でいろというのは、少し無理があるかなとは思うが。


流石に突然天地が逆転した感覚に陥れば焦りはする。もしそんな時にも冷静でいる者がいるのなら、それは相当な体験をしているのか、もしくはそんな体験に馴れたか、もしくは……世界で起こる出来事に完全に無関心であるか。その、どれかであろう。


死ななくてよかった。

が、今はするべき事がある。


……………迷った。


そう。迷った。迷ったのだ。ワープホールを作ったのはいいのだが、それがどこにつながるかが分からないまま移動してしまったのだ。普通ならワープホールの先を確認してから移動する。だがあの非常時には確認する暇などなかった。

更にブラフマーとシヴァはワープホールの転送先の設定の際、「できるだけ遠くに」だけしか設定していないらしい。

迷った。これは非常にまずい。


最悪、近くにベヒーモスの住処などがあるかもしれない。

もしかすると、街一つを一撃で破滅させたという伝説があるドラゴンなどが出てくる可能性すらある。

今の状態、それは、『普段は低い可能性のもの(ドラゴンなどの上位種の出現)が、今も低い可能性のままだとは限らない』という感じだ。普段なら限りなく零パーセントに近い出来事が、今でもそうだとは言い切れない。


だから、今する事は、


「「「「逃げるッッッ!!」」」」


といって、全力で走り出した。

これが間違いだと分かるのはこれからすぐ後のこと。


◇◆◇


数分後、数十体のモンスター(ベヒーモスも混じっている)に追いかけられていた。


「「迷ったら動かない方がいいんだよねっ?!」」

「「「「え……ッ」」」」


最高神二人の一言に四人は、絶句。

え?! 知らなかったの?! というブラフマーの言葉に、知らなかったと返した。

あかん。これはあかん。誰もがそんな事を考えていた。


ただ、ただ、走る。

もはや彼らは、息をするのも忘れて全力で走っていた。ついには、ベヒーモスすら置いて行った。

この場面で、彼らは無意識に足に魔力を纏っていた。

今まで、いくらやっても成功しなかった魔力を纏うという技を見事に習得していた。

ただ、


「「「「たぁ〜す〜けぇ〜てぇ〜」」」」


と情けない声は出していたが。

この声は、今走っている森のほぼ全域に木霊していた。


たぁ〜す〜けぇ〜てぇ〜

たぁ〜 す〜ぇ〜 てぇ〜……

た 〜…… 〜ぇ 〜 ……て 〜………………


……耐えて?

その木霊を偶然聞いたとある冒険者が思った事だ。


◇◆◇


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……誰もが息を切らして横になっている。ブラフマーとシヴァは半眼で四人を睨んでいる。

ちなみにブラフマーのシヴァは大和の中にいた。


それと、もう一つ驚くべき事が起こった。


なんと、森を抜けた。

直線距離でも数十キロ、下手すると三桁突破の森を一時間もかからずに抜けた。


ただ、蓮司は死にかけていた。


「ひゅー、ひゅー……」

「おい?! 大丈夫か蓮司?!」

「「蓮司くんっ?!」」


最早過呼吸みたいになっていた。

たが、もう森は抜けた。それにもう夜だ。……あれ?

俺たち今日何してたんだ?


ということで、今までで最も大変だった一日がやっと終わった。

受験勉強が終わり、志望高に入れた中学生の『終わったぁぁぁ!!』ぐらいの感じだ。


まず、白百合がある魔法を使って、安全な領域を作り出す。これは、敵が彼らを認識出来ずに、無意識に隣を通りすぎるようにしているのだ。

ちなみにこれは、上位魔法と呼ばれ、《一般の魔法使いには、一生かかってやっと使えるかもしれない》レベルの魔法である。

まさかの白百合がチート化している事実に大和は凹んだが、白百合にあなたもでしょと言われて初めて自覚した。恐らく、は。


そして、テントを張る。実はこのテントは自作だ。流石に異世界にテントは売っていなかった。その為、自分で作ろうという考えになった。

蓮司と白百合と揚羽……つまり大和を除く三人はテントの構造を理解していた為、意外と簡単に作る事が出来た。

地球製に比べれば脆いが、それでも十分な強度となった。骨組みはベヒーモスの骨を削ったものにワックス……のようなものを塗り付けた。これがまたなかなか強い。

後は街から布を買い、縫い合わせて、それを骨組みの上に被せる。

完成。雨が降ると雨漏りしそうだが、まぁ問題ない出来栄えだった。


そしてこれがまた広い。優に十人は中で寝ることができるだろう。それを四人で使う。

しかも真ん中に仕切りがあって男女が別々に寝れるようになっている優れもの、だが、

揚羽がこんな事言いやがる。


「じゃ、私と白百合と大和くんは中で。蓮司は外で寝てね」

「ヒッデェッ?!」


流石にこれは酷いと大和も思った。


「嘘だよ。けど、大和と白百合は一緒だよね」


おい、何言ってやがる。毎日朝起きると、俺のベッドが占領されている……最近怖くてよく眠れてねぇんだけど。

大和はそう思ったが口には出せなかった。

ブラフマーとシヴァはホッとした表情となり、白百合は「なんでバレてるのっ?!」と言うような表情をしていた。けどどこか嬉しそうだ。

……恐らく、バレてはいない。筈。

実は揚羽はここ最近、気配を薄くする事を覚えたらしい。暗殺でもしたいのかと言いたくなった。……それで覗かれているとしたら……或いは……


(本当は朝の微睡みの時間を一人で堪能したい。

分かるだろ?! あの眠くてしょうがない時間、自分の体温で温められた布団の気持ち良さを分かるだろう?! あの、コタツに入って一生出たくなくなる様な気持ち良さが分かるだろう?!

俺はあれを、もう一度、もう一度だけ体験したい!! そして、二度寝をしたいッ!!! そしてまた、微睡み、三度寝!! ここまで最高な事はそうは無いだろう?!

人間の欲求の中で最も強いものは睡眠欲なんだッ!!!寝る事こそ最高な事なのだぁぁぁッ!)


大和はそう心の中で叫ぶ。誰にも届かないと知っていても、だ。

そしてある事に気付く。


(あっ、そういえば、寝巻きだ。あの、一人用の寝巻きがあるじゃあないか!!

やったぞぉぉぉぉぉぉ!睡眠王に、俺はなるッ!!なれる!)


「揚羽! まさか二人用の寝巻きを買ったのは……」

「え? ナンノコト? シラユリチャン?」

「あげはーーーっ!」


白百合の言葉にちょーっと、酷い単語があったなぁ。

え? 二人用? フタリヨー? なんかの聞き間違い?


「まさか……あげは、ちゃ、ん?」

「何時もそうしてるんでしょう?」


あれ、聞き間違いじゃない?……しかもバレてるッ!白百合の表情がさわっと綺麗な青色に変わる。


「そう、なのか、あげは?」

「そりゃもう、」

「「やめろ(て)ーーーッ!」」


(何買ってんだぁぁ揚羽ぁぁッ?!うわぁぁぁん!)


あああ……んっ?!


(いや、まだ方法はある! これは使いたくないと思った! よし今しかない!)


大和は言うぞ!


「あっ、俺、一人用寝巻きで寝る……って、何してんのぉ揚羽?!」

「えっ?あー、一人用の寝巻きが燃えてるーあら大変だー、一人用の寝巻きが二つになっちゃったーあら大変。コレジャア、二人用ツカウシカナイネー(棒読み)」


あぁ、さようなら。我が睡眠欲……忌むべきは揚羽。


どうやらこれからも朝の微睡みは得られないらしい。

はぁぁぁ……

………………寝たい。ゆっくりと。


はぁ、しょうがない……


大和は溜息を吐いた。幸せも、随分と逃がした。


◇◆◇


現在、午前三時。丑三つ時は終わり、きっと木々も目を覚まし始める事。


大和君の一言。


『眠れぬとは地獄と同じじゃ』


寝れていなかった。その所為か口調も変わってしまっていた。

という事で、『無理矢理』二人用寝巻きから抜け出して、外にでた。

ちなみに、ブラフマーとシヴァは二人用の寝巻きで寝ていた。二つあるのか。


外に出たら、先程までの嫌な気分は吹き飛んだ。

それは、一切の曇りのない、夜空を見たからだ。

街にいた頃は気付かなかった。きっと夜景のせいだ。


ここまで夜空が凄いとは思ってもいなかった。

なぜならその夜空は、


星が虹色に輝いていたからだ。そこまでは街の夜景と似ている。だが、それだけではない。


更に星々はオーロラのようにウネウネと動いているのだ。

見入ってしまった。目が離せない。ずっと見続けていたい。そう思える程の夜空だった。

それになんと、月に土星のような輪っかが付いていた。それも二つも。その二つは月の中心で十字に交差している。


目が離せない。ずっと見ていたい。そう思いながら眺めていると自然と眠気が襲ってくる。

いつの間にか、空が明るくなってきていた。


と、そのとき、隣にベヒーモスが歩いてきた。

けどすぐに、見つかってないとわかった。ベヒーモスは、月を見ていたからだ。いや、見つかっていない理由はそれだけではない。いま大和は白百合の作り出した空間の中にいる。その為みつかっていないのだろう。

それからすぐ、ベヒーモスがその場に寝転がった。それはまさしく、猫だった。


なぜだろう、この不思議な感じ。

今までは、敵としか思っていなかった。けど、普段のベヒーモスの姿を見て、不思議な感じになった。

猫の様な仕草を見て、不思議な感じになった。


気付いたら、白百合の張った結界の外に出ていた。

そこはもう、安全ではない。

けど、大丈夫な気がした。勘、なのだが。

なぜか、『懐かしい』感じがした。

それと、どこか普通のベヒーモスとは違う気がする。


ころろ、と、そのベヒーモスは小さく唸る。ベヒーモスからしたら突然人影が現れたのだから当然だろう。


ベヒーモスは戦闘態勢をとる。

けど、大和はとらなかった。戦闘態勢を一切とらなかった。

ベヒーモスは飛びかかろうとして、動きを止めた。

その目は驚愕によって、見開かれていた。


何故なら、ベヒーモスには通じるはずのない人の言葉が、ベヒーモスには聞こえていた。これはつまり、大和がベヒーモスに通じる様な声で話したということだ。

実は、それ以外の理由もあるのだが。


この瞬間、大和はある能力を得ていた。それは、モンスターと話す能力。

ベヒーモスと話す方法を得ていた。

そして、ベヒーモスにこう、言った。


『大丈夫、戦う気はない』


と。

途端、ベヒーモスが、変わった。

何というか、優しくなったような気がした。

通じ合った? ベヒーモスには届いた? という疑問がなくなった。

そして、こう思った。ベヒーモスには、伝わったのだ。と。


ーーーーや、 ぁ、と


そっと、ベヒーモスに触れる。ライオンのような鬣が、思っていたより柔らかかった。

ここに寝てみたいと、思った。

だから、こう言った。


『寝させてくれるかい?』


こう言ったら、寝てくれた。通じ合っている。

このベヒーモスは、優しいとすぐ分かった。


嬉しい、そう感じた。


ベヒーモスが横になったところに寝てみたら、急に眠気が襲ってきた。

抗えるはずないだろう?睡眠欲は最強なのだから。


そこから、記憶はない。


だって、フワフワな鬣、メチャ気持ち良かったんですもの。


◇◆◇


『…………やま、と?』


大和…?大和なの?


君は、大和なの?


あぁ、もう寝てしまった。


気付いてくれたかな。


話がしてみたいな。もっと、話がしたいな。


君が大和なら、気付いてくれる、よね?


そうだ。せっかく、神獣の位まであがったのだもの。明日びっくりさせようかな。


うん、そうしよう。


◇◆◇


グルルルルルル……


不穏なベヒーモスの声で目が覚めた。

すぐにベヒーモスが唸っていた理由が、分かった。


白百合たち三人が、そこにいたのだ。ブラフマーとシヴァは……いない。どうやらまだ寝ているのだろう。


まぁ、知らない人がそこにいれば唸るのもしょうがないかな。実際、ベヒーモスに彼らは味方だとはまだ伝えてない。


だから、すぐにベヒーモスに伝えた。


『こいつらは敵じゃない。俺の大事な、仲間だよ』


グル? ……ーー分かった。


「えっ」


え? いま返事しなかった? ……やべぇ、ベヒーモスの声可愛い。あかん。


……いや待て、ベヒーモスは声を出さない筈……?


大和がトントンと鬣のあたりを叩くと、すぐに唸るのを止めた。


懐かしい。懐かしい? 二回目だ。変な感覚。奇妙な感覚。


不思議だ。

なんでだ?

どこかであったことあるのか?

何だろう……


その時、声が聞こえた。

ブラフマーやシヴァ、ヴィシュヌでもない、声。


『ねぇ、昨日聞けなかったけど、君は大和なの?』


声を聞いて、びっくりした。今回ははっきりと聞いた。嘘かと思った。

いや、まさか、そんな、なんで……色々な疑問が浮かぶ。けどいくら考えても、それしか考えられなかった。


「え、まさか……椿つばき……なのか?」

『え?! わかる?! うん! うん! そうだよ!私は椿、村雨 椿だよ! 大和くん!』

「え?! えぇっ?!」


大和は頭が真っ白になった。


嘘みたいだった。俺が地球にいた頃、唯一俺が気軽に話せた人。

義妹いもうとの、村雨 椿。俺を引き取ってくれた家にいた、中三の妹。俺にペンダントをくれた妹。


それが、ベヒーモスに? なってる?


『あっ、大和くん! 私のあげたペンダントどうしたの?! ひどぉーい! 付けてないなんて!』


なんか、性格も変わってる気がする。


『折角私が大和の為に……あぁ! いやいや何でもないっ! そう、私が買いたいと思ったから! 大和の為なんかじゃ……』


いやそうでもなかった。


「な、なぁ、椿。なんでこの世界にいるんだ?」

『え? ……それはね、私、死んじゃったみたいなの。それでね、死んだーッで思ったらゼウスって人に会って、『転生しないか』だとか言われたから、転生したの! そしたら、急に赤ちゃんとしてこの世界に生まれたの!びっくりしたなぁ〜。そしてなんと今日から、地球でいう、中三になりました! わ〜パチパチ!』


なんと。


それより、一つ引っかかった。赤ちゃんとして生まれたと言った。俺たちはこの姿で来た。地球でいう高一の年齢でこの世界に生まれた(・・・・)。ここの違いは、死んで異世界にくるか、生きたまま異世界にくるかの違いなのか?いや、おそらくそうだろう。


とか思ってたら、ベヒーモスが急に立ち上がった。

白百合、蓮司、揚羽はびっくりする。が、大和は違った。大和は、まさか……と思っていた。

あのゼウスの事だ、もしかすると……


『もしかして、まだ私の事信じてない……なら! 必殺!《人化の秘術》!』


ボォォォォ……ン


煙が突然ベヒーモスから噴き出す。それはやまとや白百合達を軽く吞み込む。辺り一面が真っ白な煙で包まれる。その煙が晴れた頃、そこにはベヒーモスはいなかった。


その代わり、そこにいたのは、見間違えるはずのない


村雨 椿の姿だった。


地球では、美少女と呼ばれる存在。

綺麗な黒髪に整った顔。

黒髪は腰まである。その髪はまとめておらず、好き放題に散らばっている。

それでも、綺麗。そう感じられる。

そして何よりも目を惹くものは……胸、だった。そう、大きかった。


「これでわかった? 大和くんっ♪」

「あぁ、よく分かったよ」


はぁ、なんて事だろう。


「ペンダントは?」

「すっげぇ優しい人に預けてきたわ。それが一番安全だったし。途中で落としたりなんかしたら嫌だからね」

「そっか! よかっ……い、いやいや、こっ、これぐらい普通だし!」


あぁ、なんて事だろう。

こんなところで、椿に会うなんて。


白百合、蓮司、揚羽は、驚愕して、動けずにいた。

ブラフマーとシヴァは目を擦りながらテントから出てきて、一言。「初めてみた! これ人化の秘術?! すごぉーい!」と言っていた。


あっははは。


これから大変そうだ。

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