第三章 湖の中のトンネル
お待たせいたしました。書き直しを終わりました! 次は第四章を書き直します。
猫たちが仲間になってくれたおかげで、ウィリアムズと二人だけで旅に出て心細い思いをすることはなくなった。しかし、ヒトよりも小さい生き物なので本当に役に立ってくれるかどうか、そこが少し心配だった。
「エミリオ、ウィリアムズ!」
またまた後ろから声をかけられて、もっと多くの猫が一緒についてきてくれるのかと、驚いた。が、振り向くと、二人の友達、ウォーカー・ジャスティンとウンベルト・アーレント、ウィリー・カルステンスがいた。
「エミリオ、君のご両親のことは聞いたよ。相当ショックだったろうね」
ウンベルトが言った。
「そんな、ショックなんてもので済まされないさ。もっとひどいと思うぜ」
続いてウォーカーも言った。
「でも俺たち、両親を失ったことがないから、エミリオの気持ちはよくわからないけど、役に立ちたいと思ってる」
さらにウィリーが言った。
「何か、できることはないかな。例えば……うーん、そうだな。部屋の片づけを手伝うとか」
ウンベルトはぼくの肩を何回も叩きながら言った。
「ありがとう。家の片づけは必要ないんだ」
三人は驚いてぼくとウィリアムズを見つめた。
「でも、家が散らかってたら、暮らしにくいだろ?」
ウンベルトが聞いた。
「ううん、もうこの家を離れる」
ウィリアムズが答えた。
さらに三人は驚いて顔を見合わせた。
「家を離れるって――――」
「わかった! 両親を探しに旅に出るんだね?」
「両親がどこにいるのかも知らないのに?」
ウンベルト、ウォーカー、ウィリーが続いて言う。
「ぼく、行動しないと気が済まないんだ。だから、世界の果てまででも探しにいくよ」
ぼくはきっぱり言った。
この時、もしかしたらウンベルトたちが一緒に来てくれるかもしれないと、少しだけ期待した。
「えー! でも、でも……」
「じゃあぼくも行くよ」
ウンベルトを遮ってウィリーが言った。
「ぼくも」「じゃあぼくも」
と、ウンベルトとウォーカーが続いて言う。
ぼくの期待通りだったのでとてもうれしかった。だが、ふつうに、ありがとう、というのはおかしいと思い、言った。
「いや、いいよ。だって君たちの言う通り、どこにいけばいいかわかってないから、危ないと思うよ」
三人はしばらく考えていた。
「ちょっと、パパのとこに行ってくる!」
ウィリーがそう言い、走っていき、続くようにしてウンベルトとウォーカーは自分の家に入っていった。
十分ほど待って、ぼくとウィリアムズはもう出発した方が良いのではないかと思い始めた。
「おーい、エミリオー!」
ウィリーの声が聞こえ、顔を上げた。
「エミリオ、親たちに相談してきたんだ」
ウォーカーが息を切らしながら言った。
「それで、なんて?」
ソフィンがうきうきしながら聞く。
「行ってこい、ってさ!」
ウンベルトがそれに答える。
この村の大人は――――デニス家を除いて――――何かというと子供に冒険をさせたがるのだ。
「よかった……」
ぼくは呟いた。
正直、こんな簡単に友達を行く末知れぬ旅に連れて行っていいものなのか、心配だ。
「ところで、なんで湖に向かってたんだ?」
ウィリーが聞いた。
「うーん、湖に行ったら何かみつかるような気がして……」
ぼくはぼそぼそと答えた。
ソフィンはそれを見て、ぼくの服の裾を引っ張った。
「ん、なぁに?」
ぼくはソフィンの頭を優しく撫でながら聞いた。
「わたくし、ウィリアムズおぼっちゃまからいろいろエミリオさまについて聞いたのですが……エミリオさまの直感はよく当たるとか」
「えぇ? ほんとうに? そんな、特に思い当たる事はないんだけどなぁ……」
ぼくは照れて髪を掻き上げる。そんなぼくを見て、ウィリアムズが、癖が出た、クスっと笑った。
「え、思い出せないの?
『ウィリアムズ、直感だけど、あの人が選ぶ数字は三じゃないかな』クイズ大会のとき。『ねぇ、ウィリアムズ、直感だけど、君の父さんチョコよりクッキーの方が好きだと思うんだ』お茶会の前日。ぜーんぶ、当たっていたじゃないか」
ウィリアムズは笑いながら言ったが、ソフィンや他の猫は「パパ」と聞くと顔を引きつらせていることに、ぼくは気づいた。
「まぁ、そういうわけだから、とりあえず行ってみようよ、ねっ?」
ウォーカーに言われ、ぼくは自分が何をしていたのかを思い出した。いくら大切なことをしていても、忘れるときは必ずある。
ぼくは慌てて、湖へ向かおう、と言った。湖へ行く間、ぼくは村の畑や森、家や店を最後にしっかりと見ておこうと思い、いろんな方向に目を動かしていた。ウィリアムズは道に落ちていたきれいな丸い石を拾い、大事そうに小さな布袋に入れ、布袋にひもを通して首にかけた。これはデニス村で先祖代々伝えられてきたお守りの作り方だ。もちろん、ぼくはもう持っている。
湖へは五分程度で着いた。湖はいつもと変わらずきれいで小さな魚たちがおよいでいる。なんとなく自分たちから離れたところの底を見ると、大きな穴が開いていることに気がついた。あれは何だろう? ぼくはもう少しよく見ようと背伸びをすると、湖の中に落ちてしまった。
「エミリオ、大丈夫なの?」
ウィリアムズに手を差し伸べられたが、手を取らず、言った。
「底の方に大きな穴が空いてるんだ。何かありそうだ……。見に行ってくる」
ぼくは空気を思いっきり吸い込む、そして、潜った。水の中は夏とはいえやはり冷たい。我慢して、穴の空いているところまで泳ぐ。よく見ると、透明な板の上に石が積んであり、水で動かないようにしてある。これは絶対何かあるぞと思い、一度上へ上がった。
「エミリオ、何かあった?」
ウィリーが大きな声で聞いた。
「うん、何かありそうだ。透明な板の上に大きな石が積んである」
ぼくは笑顔で答えた。
「うわぁー! 絶対何かあるよ。入ってみようよ」
ウンベルトが興奮して言った。
「うん、もちろん。行ってもう少しよく見てくる」
ぼくは再び潜った。穴の上に置いてある透明な板をどかし、少し怖かったが穴の中に入ってみることにした。中はトンネルになっている。トンネルの中に水がどっと入ってくるので、急いで透明な板を戻す。下を見ると、幅の広い階段になっている。
「うゎお、だ」
ぼくは興奮して呟いた。
もう一度板をどかし、また水に入り、また上がった。
「エミリオ、どうしたの? そんなうれしそうな顔して」
ウォーカーが聞いた。
「み、見つけたんだ! たぶん、あそこからどこかに通じてるんだ。よくわからないけど、行ってみる価値アリだと思うよ!」
ぼくは息を切らして言った。
「ほんとうに? 是非、行ってみましょう、ねっ?」
ソフィンも興奮して言った。
「うん……」
みんな頷いたので、みんな湖に入って、ぼくについて泳いだ。
ここだよ、とぼくは穴の方を指で示した。ウィリアムズが頷き、石をどかし、ぼくは板をどかし、中へ入るように促した。最後にぼくが入り、板を戻す。かなり水が入りこんでいたが、どうやらすぐに吸収するようになっているらしく、床にしみこんでいく。感心しながら、みんなと一緒に歩いていった。穴の中は松明のおかげで薄暗く、足元は見えたがあまりよくは見えない。そこで松明を一本失敬することにした。
一時間も休まず穴の中を歩き続け、ウイリアムズとウォーカーとウンベルトが弱音を吐いた。
「エミリオ……そろそろ休もうよ」
と、ウォーカー。
「うん、ほんっとに疲れた」
と、ウンベルト。
「あぁ、ぼくの足が悲鳴をあげた……」
と、ウィリアムズ。
「みんな、どうしたんだよ。たった六十秒ぐらい歩いただけじゃないか?」
と、ウィリーに言われ、
「ウィリー、君、六十分を六十秒って言い間違えてるんじゃないかい?」
と、ウィリアムズが訂正した。みんな笑った――――ぼくは先に行っていたので、今のやり取りはわからない――――。
「そんなことどうだっていいよ。ぼくにとってはどっちもおんなじだもの。ほら、エミリオを見てみろよ。もうあんなところまで行ってるぜ」
ぼくはみんなより先に歩くことに夢中だったので、振り返ることをすっかり忘れていたのだ。
「おーい、エミリオ!」ウンベルトが大声で呼んだ。
「しっ、大声出したら敵に見つかるかも……」ウォーカーが慌てて言った。
しかし、ぼくはそんなことを知らずに大声で返事をした。
「どう したん だ?」
「ちょっと 待って くれないかな?」
ウンベルトが叫び返すと、ぼくは松明を振って「OK」のということを表した。伝わったかどうかはわからないが、とりあえずその場で待つ事にした。
ウィリーはしかたなく自分の持っていたびしょ濡れのバックを下ろし、中を探り始めた。
「ほら、チョコレートだ……。この前何かの本で読んだんだけど、『疲れた時は何か甘いものを食べるとよい』。だから食べながら歩けよ」
「わぁ、『ブロックスじいさんの魔法のチョコ』だ! ぼく大好きなんだ!」
ウィリアムズが満面の笑みでチョコをほおばり始める。
「ん、ぼくも大好き。みんな好きだと思うけどな」
ウンベルトもうれしそうにチョコをほおばる。
ぼくはそんなことを知らずにイライラとその場で座って待っていた。
ウィリアムズたちは猫にもチョコレートを分け与え、ぼくのところへ急いでやってきた。やっとぼくに追いついたので、みんなはほっとため息をつく。そしてみんなは再び歩き始めた。
また一時間ほど歩くと上の方から一条の光がさしていた。ぼくは、もしかたら上へ行けるかもしれない、と思い急いで光のところへ行った。思う通り、そこに大きな抜け穴がつくってあり、コンクリートに上に上るとき足をかけるためのものだと思われるデコボコがある。ぼくは急いで仲間にこのことを知らせ(ソフィンが思わず歓声を上げたのでウィリアムズが「しっ!」と言った)、ぼくを先頭に穴を上って行った。当然そのとき、デコボコに足をかけて上ったが、手をでこぼこにかけるのが難しかったため、苦労した。
きっとこれをつくった人たちはうまい上り方を知ってるんだろうな、とウィリーが嫌味たっぷりに言い、みんなでにやにやしながら上った。
やっと穴から首を出すと、そこは小さな小屋の中だった。急いで人がいないか確認し、いないのがわかるとそっと上がった。後に続いてウィリアムズたちもそーっと上ってきた。
小屋を見回すと、少し大きな箱が一個置かれていることに気付いた。その箱がしょっちゅうガタガタと揺れているので、少し怖かったが近づいて開いている小さな穴から中をのぞいた。なんと、その中にはロープで手足をきつく縛られた男が入っている。その男はぼくに気が付くと言った。
「売るなら売るで、さっさと売ってくれ……。殺すなら早いこと殺してもらいたいね。こんなところで縛られているよりはマシだ」
「そんな、殺すだなんて! ぼくたちは人身売買の組織じゃありません。あなたは、捕まえられているの?」
ぼくがていねいに聞くと、男は驚いて答えた。
「なんと、それは失礼した。そう、お前さんの言う通り、おれは捕まえられている。そして逃げられないようにこうして縛られてるんだ……」
男は手足をどうにか動かそうとしてもぞもぞ動いた。
「ところでお前さんたち、どうしてこんなとこにいるんだ?」
「ぼくの両親が人身売買組織に誘拐されて――――アー、話せば長いんです。とりあえず、ぼく、今ナイフ持ってるから箱から出してロープをほどいてあげる」
そう言って箱の壊れそうなところを探し、そこから箱を壊し始めた。ウィリアムズはバックからナイフを出し、その他は周りや箱を警戒していた。やっと箱を壊し、今度はその男のロープをナイフで切り、やっと男は自由になった。男は毛むくじゃらで、まわりに「親方」なんて言われていそうな人だ。
「ありがとよ。名前は何て言うんだい? おれはアリアスト」
「ぼくはエミリオ」
「ぼくはウィリアムズ」
「ウンベルト」
「ウィリー」
「ウォーカー」
「私はソフィンでございます」
「そうかい、そうかい! あはっはっは! エミリオ、君はいい仲間を持ってるみたいだね」
「ありがとうございます。あの、一緒に……」
「だめだ、すまんな。おれは早く家に帰って家族を安心させねぇと。ほんとうに、ありがとよ。またいつかどこかで会おうぜ……絶対、恩は忘れねぇよ」
アリアストはそう言って、小屋から出て行った。ぼくらも小屋を出ることにした。
つまり、ここは人身売買組織が使っている小屋なのか……?
考えながら小屋を出た。すると……
「小僧! お前だな? 奴隷を逃がしたのは。もうとっくに逃げちまったけどよ……。
ほーぉ、こんなにたくさんの猫がいれば金も儲かるな。よし、お前ら全員売っ払ってやる!」
男が言うと、仲間が出てきて大きな網でぼくらを捕まえた。なんとかソフィンと他の猫たちは逃げたようだ。その方がうれしかった。仲間を巻き込みたくなかったのだ。だが、たくさんの猫たちを巻き込んでしまった。
「さぁ、行くぞ!」
男がそう大声で言ったので、仲間たちはぼくらの入った網を引きずって行った。
「エミリオさまたち、ごめんなさい! でも、必ず助けてみせます!」
ソフィンと他の猫たちは胸がちくちく痛んだが、その様子を木の後ろから見守っていた。