第二章 旅の出発と猫のお供
書き直しが終了いたしました! どうぞ、Emilio Tartini第2章「旅の出発と猫のお供」をお読みください。
両親のいない家に戻ったぼくは、ショックを受けた。皿は床に落ちて割れ、夕食に食べていたと思われるパンやチキンが机の上に散乱していた。更にもっとショックを受けたのは、昨日両親を心配させないようにと手紙を運んでもらった黒猫までぐったりして倒れていたことだ。それを見て、激しい怒りが込み上げてきた。
罪もないぼくのパパやママ、郵便猫までをおそうだなんて! しかも猫は死んでいる。せめて――――せめて、ぼくのパパとママだけは生きていてほしい。
出てきた涙をぼくは自分の服でぐいと拭うと、黒猫を抱き上げ家を出た。外には、ウィリアムズが神妙な顔で立っていた。
「ウィリアムズ、この子の墓を掘ってあげたいから、手伝って」
沈んだ声で頼むと、ウィリアムズは何も言わずにぼくからスコップを受け取り、一緒に裏へ周った。
黒猫のお墓を作り終ると、ぼくらは黙って自分の両手をきっちり組み、天国へ行くようにとお祈りをした。
「さて、と……。それは、何?」
ぼくは拭っても拭ってもあふれ出てくる涙をまた拭いながら、ウィリアムズの持っている大きなリュックサックを指差した。
「これ? えっと、きみにどこまでもついて行こうと思って――というより、どこまでもついていくって誓うから」
ウィリアムズは自分の言ったことに照れて一度鼻の下を指でこすり、次々とあふれ出す涙を拭おうと、ハンカチをぼく顔にぎゅうぎゅう押し付け始めた。
「ありがとう。でも、危険な旅になるかもしれないんだよ――――あ、これから旅に出る気でいたんだ。両親探しの」
ぼくは両親探しの旅に出ることを前提に話してしまったので急いで付け加えた。
「大丈夫! ぼく、きみの親友だろ? 親友同士助け合わないと。それに、一人じゃきっと、心細いぜ?」
ウィリアムズはやっとハンカチを顔にぎゅうぎゅうやるのをやめた。
「ありがとう。じゃあ、ぼく、荷物をまとめてくる」
ぼくは走って家の中に入って行った。
なんていい友達を持ったんだろう。ウィリアムズといれば、何も怖いことはない気がする。両親を必ず助け出せる気がする。
そんなことを思いながら、割れた食器の破片を踏まないよう注意して、自分の部屋へ急いだ。
部屋に入ると、クローゼットから衣類を全て出し、なるべく丁寧に畳み、すぐそこにあったリュックサックに詰め込み、机の上にあるハサミや時計、ビニルテープなどを更に詰め込んだ。そして、また机の上を見た。家族全員揃ってにっこりしている写真が一枚、写真立てに入っていた。ぼくはその写真を手に持ち、しばらく見ていた。昨日まではいた、父と母がそこでにっこり手を振っている。自分がまだ八歳の時の写真だ。今は十歳。あと七日で自分の誕生日が来る……。
「エミリオ、準備はできた?」
ウィリアムズが部屋に入って来たので、急いで写真立てごとリュックサックに入れた。
「あ、うん。ちょっと待って。食料とか飲み物を入れるから」
ぼくはそう言って、リュックサックのチャックをなんとなくいじりながら、ウィリアムズと一緒にキッチンの方へ歩いて行った。
キッチンはとてもきれいだった。ぼくが、遊びに行ってくる、と行った時と変わらない。
手当たり次第缶詰めやお菓子をリュックに入れ、ナイフや缶切りを丁寧にタオルで包み、慎重にリュックサックのポケットに入れた。お茶や水もあるだけリュックサックに入れ、お金も含めて金目の物も布袋に入れてリュクサックのポケットに入れた。そして、万が一のために長い頑丈なロープを倉庫から引っ張り出し、それも入れた。
「準備オッケーだよ。そっちは大丈夫なの?」
ぼくが聞くと、ウィリアムズはリュクサックのなかを細かいところまで確認してから答えた。
「ん、オッケー」
二人は玄関から外に出た。空には雲一つない。太陽が眩しく光り、ぼくらを明るく照らしている。これから行く末知れぬ旅へ出発するのだ。これから先、どうなっても両親を助け出す。山賊や海賊に捕まっても、迷子になっても――――両親がどこに行ったか分からないのに探し出すのは迷子になるのと同じなのだが――――必ず、助け出す、ぼくは心に誓った。
しばらくぼくらは湖の方に向かって歩いていた。本当に自分の両親がどこへ行ってしまったのか、ぼくらが知る術はほとんどなかったが、なぜか湖の方に行けばいいような気がしたのだ。
「いました! エミリオさまと、ウィリアムズおぼっちゃんです!」
後ろから男か女かわからないような声がして、ぼくらは振り向いた。なんとそこには、十匹ほどの猫がいた。全部、白か黒の色をしている。だが、二匹だけ灰色の猫がいる。どうやら、さっき大声を出したのはこの二匹のどちらかのようだ。
「エミリオさま、ウィリアムズぼっちゃん、さっきは郵便用猫のソフィアのお墓を掘ってくださってありがとうございます! 郵便用猫はめったにお墓は掘ってもらえないのです……。お礼として、わたくしどもはあなた方について行きます」
エメラルドのような瞳を持つ灰色の猫が喋った……。突然の出来事に、ぼくはショックで別のものがそう見えただけだと思った。何か夢を見ているのだと思った。
――――夢なら、両親のことも夢だといいけど。
そう思って、胸が痛んだ。
「やあ、ソフィンじゃないか……。エミリオ、この子はあの黒猫と同じ、郵便猫のソフィンだよ」
ウィリアムズがソフィンの頭をポンポンと叩いたのを見て、やっとそれが現実だということがわかった。
「よ、よろしく」
ぼくが手を差し出すと、ソヒィンは手をグッと握り、うるうるの目で見上げて真剣に言った。
「エミリオさま! わたくしどもは――――少なくともわたくしは、一生あなた方について行きます!」
「うん、ありがとう」
妙な気分だったが、とりあえずお礼を言った。
「でも、ソフィアを埋めてあげただけなのに、なぜ……?」
ぼくが聞くと、ソフィンは長いしっぽを左右に振りながら答えた。
「さっきも言いましたが、わたくしどもは可愛がってもらえませんし――――可愛がってもらおうとは思いませんが――――死んでも森に放られるか、よくても川に流されるだけなのです。だから、埋めてもらえるのは本当に幸せなことなのです」
「そうなんだ……。そんなのって、信じらんないな、ぼく」
ぼくは心からそう言った。
自分が三歳の頃、猫を飼っていて、八歳のころに病気で死んでしまったのだ。その時エミリオと両親はものすごく悲しんで、猫を抱きしめてから丁寧に墓を掘ったことがある。
「えぇ、でもデニス家では当たり前なのです! ウィリアムズぼっちゃんは特別に良くしてくださりますが」
ソフィンはウィリアムズに向かってお辞儀をした。ウィリアムズは少し照れながら軽くお辞儀をした。
「とにかく、わたくしどもはエミリオさまとウィリアムズぼっちゃんの役に立ちたいと思います。どうか、旅のお供につけてください」
ソフィンは真剣な表情で言った。
「わかった、ありがとう。じゃあ、よろしく」
ぼくが笑顔で言うと、猫たちは歓声をあげた。
「ありがとうございます、ほんとうに! しっかりと、エミリオさまとウィリアムズぼっちゃんの役に立てるようにがんばりたいと思います」
ソヒィンがそう言うと、猫たちは急に真剣な態度になり、左の前足を前に出し、丁寧にお辞儀をした。
これからもたっくさん書き直しをすると思いますので、どうぞよろしくお願いします!
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