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第一章 悲劇の知らせ

 真夏のある日、ぼくの住んでいるデニス村は、今日も太陽がまぶしく輝いていた。今は午後の一時を過ぎたころ、空には雲一つなかった。

 デニス村の家や店は赤レンガで造ってあり、道は色とりどりの石で造られている。村のむこうには森があり、その森の奥には通称「猫屋敷」呼ばれるデニス家のお屋敷がある。なぜ「猫屋敷」なのかというと、猫がよく出入りしているからだ。……この村には猫がたくさん住んでいるのだ。

 ぼくの友達は、何か秘密があるのでは? としょっちゅう探検しにいくが、「猫屋敷」に住む男性が、子供たちが来るたびに追い出していたので、実際に秘密があるのかどうかは、明らかではなかった。

 さらに、村の手前には大きな湖があり、村へ来るとき、村を出る時などはボートを自力でこぐ必要があるのだ。

 ところで、ぼくの名前はエミリオ・タルティーニ。年齢は、十歳と四ヵ月だ。

 ぼくらタルティーニ一家は、外がこんなにもぴっかぴかに晴れているというのに、外は暑いから、と、家のリビングに集まって、楽しくおしゃべりしていた。

「明日は、むこうの村へ遊びにいきたいな。ウィリアムズを誘って」

 ぼくはスコーンを頬張りながら言った。

「お弁当はどうする?」

 母親のジェーンが聞いた。

「うーん、どうしよっかなぁ?」

「持っていきなさい。腹がへったらボートは漕げないよ。それに、ママの弁当は絶品だ」

 父親のアーロンに褒められると、ママは頬をほのかに染めた。

「エミリオー、いる?」

 そこへ、「猫屋敷」に住むブロンドでハンサムな十一歳の少年、ウィリアムズ・デニスが家の窓からひょいと顔を出した。

「あ、ウィリアムズ? いるけど、待ってて」

 ぼくは一度ウィリアムズに顔を見せてから、急いで両親のところへ戻った。

「パパ、ママ、暗くなる前には帰ってくるから……。行ってきます」

「気をつけて」ママとパパが声を揃えて言った。

「お待たせ」

「ううん、三十四秒ぐらいで済んでたよ」

「そう? あ、パパ、ママ、行ってきます!」

 ぼくがもう一度両親にあいさつすると両親ともにっこり笑って手を振った。

 ぼくとウィリアムズは大の親友だ。二人が三歳のときに湖で出会って、ボートで一緒になったときから親友になっていた。

 ぼくらは森にある木の実を取りに行くために森へスキップで向かっていた。町が流れていくように見える。

「ねっ、ねっ、エミリオっ」

「なにっ?」

 スキップをしながら話したので、言葉もスキップしながら出てくる。

「もっう、じゅっにっさい(十二歳)になっるんだねっ」

「そっうだねっ」

 森の中に入り、木の実がたくさんなっている木を見つけるために歩き始めた。

「早いね……。一年間もすぐにすぎちゃうだなんて」

 ぼくは遠い目をして言った。

「ほんとうに! 春が来たと思ったらもう夏になってたもんね」

 そう言った途端――それが関係あるのかはわからないが――いきなり空が雲でおおわれ、大雨が降り始めた。

「うっ! わっ? 雨だ! どうしよう、雨宿りできるところは?」

「ぼくの家においでよ。すっごく近いんだ。えーと、ほら、『猫屋敷』のことだよ」

 ウィリアムズが少しうれしそうな顔をしながら誘った。

「へぇー。あれ、きみの家だったのか!」

 ぼくはわざとおどろいた顔をしてみせた。

「ぼくの家ってわけでは――あっ、将来ぼくの家になるのか」

 ウィリアムズは、はっと思い出したように言った。

「早く家に入ろう! 風邪ひいちゃうよ」

 それからぼくとウィリアムズは猛スピードで走ってお屋敷の門をくぐり、中へ入った。

 ぼくとウィリアムズは息を切らしながら玄関に入った。大きなクリスタルのシャンデリアが天井からぶらさがっているのが玄関から見えた。

「ウィリアムズなの? お帰り。あら、エミリオじゃない! 久しぶりね。いらっしゃい」

 中から優しそうな若い女性が出てきた。空色のワンピースがとても似合っている。ウィリアムズの母親だ。

「あぁ、ママ。ただ今帰りました」

 ウィリアムズがわざとらしく丁寧にお辞儀をしたのを見て、ぼくはにやっとしながらぺこりとお辞儀をした。

「二人ともびしょ濡れじゃない! 待ってて。今、着替えとタオルを――お風呂に入る?」

「あ、うん。ありがとう」

 ウィリアムズがにっこり答える。

「わかった。じゃあ、二人とも上がって」

 おばさんは急いでお風呂のお湯を張りに行った。

「きみのお母さん、優しそうな人だね」

 ぼくが言うと、ウィリアムズはにっこりして言った。

「うん、そうだろ? 自慢のママなんだ。でも、最近、パパとママがぼくに隠し事しているみたいなんだ」

「へぇ、どんな?」

「えーと、夜中に――」

「お風呂、入れるわよ。さぁ、どうぞ!」

 途中でおばさんに話を遮られたたので、続きがとても気になった。そこでウィリアムズは急いで風呂に入りに行って、浴室で話すことを提案した。エミリオはそれに賛同して走って脱衣所に向かった。

「二人とも、服を着替えるのよ! あ、エミリオの服は用意してあるから」

 後ろからおばさんの声が聞こえた。その声に返事をして、脱衣所のドアを閉めた。

「ふう……。やっと、話せる」ウィリアムズがまた息を切らしながら言った。

「ウン……」

 服をできるだけ早く脱ぎ、浴室に入った。浴室はとても広く、風呂もとても大きかった。と、ウィリアムズがドアを開くなり走ってシャワーを浴びに向かったので、大きな音をたてて転んだ。

「ウィリアムズ!」

 ぼくは転ばないよう気をつけながらウィリアムズのところへむかった。

「大丈夫。でも、頭を打ったみたいだ……」

 ウィリアムズが後頭部を左手でさすりながら言った。ウィリアムズが、大丈夫、心配しないで、と言ったので、立ち上がって髪を洗いにいくことにした。

 この家のお風呂には洗い場が五つはある。ぼくとウィリアムズは良い香りがするシャンプーとリンスで髪を洗い、良い香りがする石鹸で顔と身体を洗い、風呂に飛び込んだ。

「さっきの続きなんだけど……あれ? 何を言おうとしたかわすれちゃったよ。それに、何を言いたいのか、考えがまとまらない」

 ウィリアムズが困った顔で言った。

「そっか。うん、じゃあいいんだ。それほど深刻な問題でもなさそうだし」

 ぼくはウィリアムズの肩をぽんぽんと叩き、大丈夫だよ、と安心させた。

「そ、そうだよねっ!」

 ウィリアムズもとても安心した顔を見せた。

「深刻と言えば――」

 ぼくはふと浴室の窓を見た。雨は相変わらずザーザー降っている。

「大雨が降ったのって、五年振りだよね。前のときは誘拐事件があって、結局誘拐された人たちは見つからなかった」

 ぼくは暗い声で言った。

 この村で大雨が降ると、何かとても悪いことが起こるのだ。

「――ということは、今回も誘拐?」

 ウィリアムズも心配そうな声をだした。

 それからは二人とも、無言のまま浴室から出て、無言のまま着替え、無言のままリビングへ向かった。ぼくは自分がとてもきれいな借りた服を着ていることを意識していなかったし、ウィリアムズは服のボタンをかけ違えていたこととズボンを前後ろ逆に履いていたことに気付いていなかった。いくら十歳と十一歳の子供でも、誘拐事件はとても怖いと感じる。

 リビングに着くと、ウィリアムズの父がソファに腰掛けていた。

「エミリオ、ようこそ。ん? 二人ともどうしたんだ。そんな深刻な顔をして……。ウィリアムズ、服のボタンをかけ違えてるぞ。あ、ズボンも反対じゃないか」

「あ、こんにちは、おじさん」

 ぼくは軽くお辞儀をした。

「パパ、ぼく、気付かなくって……」

 ウィリアムズは赤くなって急いで履き直し、かけ直した。

「ところでパパ、さっきいきなり大雨が降り始めたんだけど、今度は一体、何が起こるのかなぁ? この前は誘拐だった。今回も誘拐なのかな」

 ウィリアムズがおじさんに聞くと、おじさんは冷静に言った。

「それもあるかもしれない。小さな悪いことだといいのだが。エミリオ今日はうちに泊まっていきなさい。きみが誘拐されるかもしれない……」

 ぼくは「はい」と静かに答えた。

「二人とも、気をつけなさい。もしかしたらうちに強盗が入るかもしれない。だって、それもありうるだろう? 用心して」

 おじさんが最後にこう付け加えた。

「みなさん、お茶でもどう?」

 ダイニングルームの方からおばさんが言った。

「さぁ、行こう」

 おじさんに言われて、ぼくとウィリアムズはおじさんについて行った。


「え、じゃあ、二人ともそう思うの?」

 ウィリアムズはさっき浴室でした話を母親に聞かせた。

「だって、可能性はあるでしょ? 前のがそうだったんだから。パパもそういってる」ウィリアムズは言った。「それに、ぼく不安なんだ」

「まぁ、ね。可能性はあるわ。でも、そんなことないと良いのだけれど……」

 おばさんはクッキーを一枚食べた。その時ぼくは、おばさんとおじさんが目だけ見合わせたような気がした。

「あ、おばさん」

 ぼくが声をかけると、おばさんはさっとぼくを見た。

「あの、今日一晩だけ泊めていただけますか? 雨がひどいし、その、誘拐も怖いので……」

 おばさんはそれを聞くとうれしそうに微笑んで答えた。

「えぇ、もちろん、大歓迎よ! 今日の夕食は何にしましょう? とびきりおいしいものでないと」

 その後、ぼくとウィリアムズはココアを、おばさんはコーヒーを、おじさんは紅茶をゆっくり飲んでいた。その間、夕食を何にするか(スペアリブに決まった)、明日は何をするかなど話していた。

「あ、もうお菓子も飲み物もなくなってしまった!」

 おじさんはクッキーの最後の一枚を食べてから言った。

「まぁ、本当だわ! では、片付けましょう」

 おばさんが皿とカップを両手で全部持ったので、感心した。

「さぁ、夕食の準備を手伝ってくださいな!」

 皿やカップを片付け終わり、おばさんはパンパンと手を叩いて言った。

 皿洗い、皿拭き、調理器具の用意、材料用意など役割分担をして準備をすると、十分程度で準備が終わった。おばさんが料理をしている間、ぼくらはトランプや手品をして遊んでいた。

「夕食、できたから席につきなさい」

 おばさんが呼んだ。

「たくさんあるから、お腹いっぱい食べなさい!」

 おばさんは自分のスペアリブを一口味見して、満足気に言った。

「おばさん、これ、とってもおいしいですね!」

 ぼくが心から言うと、おばさんはもっと満足気に微笑んだ。

 最後に出たフルーツポンチまで食べ終わると、ウィリアムズは言った。

「僕、もうお腹いっぱい! これ以上食べらんない」

「それはよかったわ! さあ、もう寝なさい」

 おばさんはにっこりして言った

 その後歯磨きをして(ぼくは何かの付録のブラシをもらった)、パジャマに着替え(パジャマはウィリアムズのものを一着借りた)、おじさんとおばさんに「おやすみ」を言ってから、ウィリアムズの部屋へ二人で向かった。

「ほんっとにおいしい夕食とデザートだったよね」

 部屋に着くとウィリアムズが幸せそうな顔をして言った。

「うん、ほんとうに! 僕、今までであんなにおいしいもの、食べたことないよ。うちのママの手料理も最高だけど」

 ぼくはたまたま部屋に入ってきた猫の頭を撫でながら言った。

「そうなんだ! いつか食べてみたいなぁ……」

 ウィリアムズが言った。

「大歓迎! 明日話してみるよ。大雨がやんだら――」

 ぼくそこまで言って、言葉を切った。

「大雨! そうだ、うちの家族は大丈夫かな?」

 不安な声を出すと、ウィリアムズがなるべく笑顔で答えた。

「大丈夫だよ、たぶん……」

 ウィリアムズは、そうは言ったものの、自分も少し不安な気持ちがあった。

「そうだよね。うん、そろそろ、寝ようか」

 ぼくはそう言って、二つベットが並んでいる一つの方に寝転がって布団をかぶり、目を閉じた。

 ふかふかの暖かいベット。普段はもう少し固いベットで寝ていたのに、今日だけ特別だ。パパとママはもう寝たかな。

 隣のベットがきしむ音がしたので、もうウィリアムズも寝たのだろうと、思った。それからゆっくりと眠りに落ちて行った。


「エミリオ、朝だ、起きて!」

 ウィリアムズに起こされて、ぼくは目をこすりながら起きた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。夜中のうちに大雨はやんだようだ。

「やあ、ウィリアムズ、おはよう」

 ウィリアムズに挨拶をした。

「うん、おはよう。どうやら晴れたみたいね! 昨日は何もなかったのかな」

 ウィリアムズがカーテンを開けながら言う。

「うん、そうだといいな」

 ぼくは布団を整えて、窓を開け始めたウィリアムズを手伝った。

「着替えるのは朝ごはんの後にしよう。洋服が汚れるかも」

 ウィリアムズはそう言いながら部屋から出て行った。ぼくも続いた。

「おじさん、おばさん、おはようございます」

 ぼくが挨拶をすると、おじさんとおばさんはぼくの顔をチラッと見てさっと顔をそらした。

「おはよう、エミリオ。朝食はそこにもうできているわ」

 おばさんはぼくの顔を見ずに言った。

「エミリオ、おはよう。話したいことがあるんだが、いいかね?」

 おじさんはぼくの目をしっかり見て、真剣な顔で言った。

 はい、とぼくもおじさんの目をしっかり見て、静かに答えた。おじさんの言いたいことはなんとなくわかった。

「えーと……。驚いたりしない?」

「はい」

 もう、言いたいことは確実にわかる。

「きみの両親が誘拐された」おじさんは早口で言った。

「昨日の夜中に、誘拐されたそうだ。女の人の叫び声――きっときみのお母さんだろう。それが聞こえたから、家へ見に行ったら、荒らされた跡があって、誰もいなかったそうだ」おじさんはしばらくぼくの反応を待った。

「わかりました。みつかる可能性は?」

「ないわけではない。警察があっちこっち探し回っているから」

「そうですか。教えてくださってありがとうございます。あ、家に泊めてくださってありがとうございました」ぼくはお礼を言った。

「エミリオ、何を考えているかわかるよ。準備してるからエミリオは自分の家で待っていて」ウィリアムズが真剣な表情で言った。

「まさか、二人で旅に出ようなんて思っていないよな」

 父親に言われてウィリアムズは答えた。

「もちろん、旅に出るよ」

「そんな! 子供だけじゃ危険だし、見つかるはずがないだろう!」父親は慌てて言った。

「パパ、止めないで。親友が何かするとき、助けてあげられなかったら、ぼくがバカみたいじゃないか! 今までありがとう。気を付けて、行ってきます」

 ウィリアムズは父親と母親にそう言って、荷造りをしに部屋へ戻ってしまった。両親とも、ただただ、ウィリアムズの背中を見送っていた。

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