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第九話 誇り高き挑戦者

 城下町の裏路地で、私は何者かに背後から声を掛けられる


「御身自ら斥候とは」


 振り返らずとも、その感情の篭らない冷酷な声で、誰かはすぐに察せた。


「ラツィオンか」


 そこに居たのは、フードを真深く被った男、セフィロトの十騎士が一人、"無影"のラツィオンであった。

 ラツィオンは騎士の中でも特殊な立ち居地で、他の騎士をサポートする立場にある、隠密の騎士であった。

 

 砦の戦いの報告を受け、すぐにでも出撃していようとした私だったが、部隊の損害が大きすぎ、正面きっての作戦行動は難しい状況であった、そこで私は、ラツィオンの力を借り、ある作戦を実行しようとしていたのだった。


「生憎、私の手勢は先の戦いで随分と減ってしまったのでな」

「して、成果のほどは如何に?」


 私は、昼間会った青年の事を思い返す、報告によれば奴が"あれ"の操縦者であるらしいが……


「私の目には、ただの凡庸などこにでも居る男にしか見えなかった」

「さすれば」

「ああ、手筈通りに」


 この作戦は無謀以外の何者でもないであろう、"あれ"の性能が報告通りなら失敗する可能性のほうが高い、だが、もし操縦者が私よりも劣っているのであれば……


「決行は?」

「今夜だ」

「了解」


 そう短く応えるとラツィオンは音も無くその気配を消した、そして私も、夜の闇の中へとその姿を消していったのだった。


__________________________________



「はあ……」


 お茶会で何故か三人にこってり説教をされた俺は、肩を落として魔王城を歩いていた、しかし疑問なのは結局明後日に四人で買い物に行くことに決まった件である、それなら、なんで俺が叱られなければならなかったのだろう……?


 まあ、落ち込んでたって仕方が無いと気を取り直し、俺は夕食を取るため食堂へと向かっていった。


「ヒロ様」

「はい?」


 見た事の無いメイドが俺を呼び止めた、魔王城には数え切れないほどのメイドが勤めているので、名前を知らない人が居るのは当たり前……なのだが、なんだろう……何か変な感じがする。この人、何かに怯えているような……?


「これを」


 彼女が俺に差し出したのは、封筒に入った一通の手紙だった


「これは?」

「ヒロ様宛に預かっておりました、御部屋に戻られてから読むように、とのことです」


 そう簡潔に告げると、彼女は早足で歩いていった。


「あの、これって誰から」


 俺が振り返ってそう聞いたときには、既に彼女の姿は見えなくなってしまっていたのだった。


 狐に包まれたような気分のまま夕食を終え、言われた通りに部屋に戻ってから封筒を開けてその手紙を読んでみる、そこには簡素な字体で、こう綴られていた。


 第一公女の身柄を預かった、無傷のまま帰して欲しいのであれば、誰にも告げずに指定の地点まで龍神に乗って一人で来い、もし誰かに相談したり、複数人で指定の地点に現れれば、公女の命は無いものと思え。


「これは…………」


 そういえば、リーゼは珍しく夕食を食べに来ていなかった、もしかして本当に……!?

 考えている暇は無い、こうしている間にも、リーゼの身が危険にさらされているのかもしれないのだ、そう思うと気が気でない、罠かもしれないが、もしそうなら龍神で罠ごと粉砕してやればいいだけのことだ。

 そう決めると俺はすぐ工房に忍び込み、保管してあった龍神に乗り込んで、密かにその場所へと向かったのであった。


 指定された場所は、魔王城から10Kmほど離れた所にある、今はもう廃墟になっている閉鎖された採掘場であった。

 開けた場所に機体を着地させた俺に、何処からか声が掛けられる


「良くぞ此処まで来られたな、龍神、そして龍族の末裔よ」

「誰だ!?」


 俺の目の前に現れたのは、まるで燃え盛る炎のような鮮やかな色をした、細身の騎士鎧のような機体であった。

 今までこの世界で見てきたロボと明らかに違うフォルムである、正直格好良い、武装は騎士剣と盾のみのシンプルな物のようであったが、佇まいからは歴戦の戦士のような風格が感じられた。


「まずは詫びよう、偽りによって貴殿をここまで呼び出した事を」

「偽りって、じゃあリーゼは!?」

「安心するが良い、そもそも最初から公女殿下を攫ってなどおらぬ」

「じゃああのメイドは?」

「金を幾らか積んで手紙を渡すように頼んだだけの事だ」

「リーゼが夕食の時に居なかったのは?」

「別のメイドに手紙を渡させて誘導していたのだ、貴様を信じ込ませるためにな」

「それを信じろと?」

「騎士の誇りと我が神に掛けて誓おう」

 

 こいつの言っている事が嘘ではないということは、その口ぶりからなんとなく分かった、しかし人質が嘘なら、何故俺を此処まで呼び出したのだろう?


 その俺の疑問に気付いたのか、メタトロンは話し始めた


「貴殿を呼び出したのは他でもない、貴殿に一騎打ちを申し込む、そのためだけだ」

「一騎打ち?」

「そうだ、本来なら正々堂々と軍を率いて戦いを申し込みたかったのだが、貴殿に私の軍団は手酷くやられてしまったのでな」


 この前砦で蹴散らした部隊のことか


「俺がそれを受けると?」

「貴殿が伝説通りの龍族の戦士であれば、必ず受けると確信している」

「そこまでして、なぜ俺と?」

「一言で言うなれば、意地……だな」


 俺は別に龍族でもなんでもないんだけど、ここまで言われて一騎打ちから逃げたらかっこ悪い、それに見たことのないこの機体が気になって仕方ない。


「分かった、受けよう」

「感謝する」


 俺はプライド半分興味半分で、一騎打ちを受けたのだった。

 

 二機の機体を、一定感覚空けて向かい合わせる


「すぐに始めても?」

「ああ」


「では始める前に名乗らせていただこう、私はセフィロトの十騎士が一人、光神騎士団第六騎士隊長"獄炎"のメタトロン、この機体は、獄炎機インフェルノ・クリムゾン」

「……貴殿は?」


「俺はヒロ・シラカゼ、こいつは……」


 改めて考えると、俺はこいつをいつも龍神だとかこいつだとかで、ちゃんとした名前で呼んだ事が無い、そう思ったその時、俺の中にある名前が自然と浮かんでいた。

 俺は、その名前をまるで導かれるように、はっきりと宣言していた。


「こいつは、龍神……いや、龍神機 ドラギルス!」



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